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訳者のことば

 第2次大戦時のドイツの軍服は美しい。同時代の各国の軍服と比較しても断然優っている。それは、ドイツ軍の戦車や兵器が美しいのと同様に、ゲルマン民族の卓越した機能美への探究心と、それを支える最高の職人仕事(マイスターヴェルク)が、見事に融合したからだと言える。
  ドイツの軍服には歴史が息づいている。その起源をさかのぼれば、16世紀の神聖ローマ帝国の傭兵隊の軍服に始まり、18世紀のフリードリヒ大王の近衛兵の軍服、19世紀のビスマルクの軍隊や、20世紀初頭のヴィルヘルム2世時代の軍服へと歴史をたどることができる。しかし同時に、ドイツの軍服は、歴史的な流れとは別に、スマートで新しさを兼ね備えている。迷彩服の採用や戦闘帽の開発など、今日の軍隊の戦闘服に用いられているさまざまな工夫はドイツ軍服が起源であるものが少なくない。
  さらに第2次大戦のドイツ軍服にはもう一つ別の新しい流れが存在している。それはナチス党の制服とその流れをくむさまざまな国家機関の制服である。これらの制服は、ドイツの軍服の伝統を基盤に持ちつつ、新しいモードを大胆に採り入れ、従来の各国の制服には見られなかった洗練されたスタイルを確立した。ドイツ空軍の軍服はその成立の歴史から、この新しい系譜上に位置するものであることは明らかだ。
  第2次大戦までのほとんどの国の軍服には戦闘服と執務服の差は存在しなかったが、戦後これらは歴然と区別されるようになり、戦闘服はより機能的な動きやすい作業服のようなものに取って代わられた。西側も東側も米軍式の戦闘服を身に付け、専門的な知識なしでは識別すら困難になってきた。従来の軍服の伝統は執務服やパレード用の軍服にのみ残されている。
  西ドイツ(および現在のドイツ)連邦軍の軍服はよくアメリカナイズされたと言われるが、むしろナチス党の制服や、空軍の軍服の系譜上に位置すべきものである。また東ドイツ人民軍の執務服は、伝統的なドイツ軍服の忠実な継承者であった。この一点に関しては東ドイツの崩壊は残念なことであった。
  さて戦後、わが国の青少年たちが、第2次大戦中のドイツ軍服の美しさを知ったのは米国製の劇場映画やTVシリーズを通じてであった。とりわけノルマンディー上陸以降の米陸軍の活躍を描いたTV映画『コンバット』の影響は絶大で、皮肉なことに多くの判官びいきのドイツ軍ファンの少年を産み出した。いまやいくつかのドイツ軍装専門店が存在し、ヘヴィーなドイツ軍服収集家も散見されるようになった。また質が良い複製のドイツ軍服が比較的入手しやすい価格で登場し、実際にそれらを着用することに喜びを見出すファンも少なくない。
  この本を手にされた方にぜひ申し上げたいのは、なぜ軍服が美しいのかということである。それは戦場に命をかけた戦士たちの死に装束だからなのだ。この写真集に収められた軍服には、どれも戦士たちの魂が宿っている。軍服の美しさを愛する者はこれらの戦士たちへの畏敬の念を忘れてはならない。実際にこれらの軍服を着て戦い、死んで行った大勢の名もなき将兵が存在したことを忘れてはならない。
  最後になったが、本書は、2005年に刊行されてフランスの Histoire & Collections社刊『GERMAN SOLDIERS OF WORLD WAR TWO《増補改訂版》』(ジャン・ド・ラガルド著)の全訳である。原書は同社発行の『Armes MILITARIA Magazine』誌上の特集記事を抜粋編集したもので、ドイツ軍装備の主要な知識は全てこの一冊で間に合うように配慮されている。「MILITARIA」誌は、第1次、第2次大戦を中心に、軍装品・兵器等を歴史的考察を加えて紹介する月刊誌で、1984年の創刊以来、軍装品コレクター、歴史研究家、軍事研究家の資料として高い評価を得ている。

ヒトラードイツ研究家・軍事史学会会員 後藤修一


目次

1939-1940年
グラーフ・シュペー号勤務水兵1938-39年
第3装甲連隊所属の兵士
歩兵伍長 フランス戦線 1940年5月

1941年
空軍落下傘猟兵 クレタ島 1941年
Uボート勤務水兵 大西洋作戦 1941年
ドイツ陸軍砲兵大尉 東部戦線 1941-45年

1942年
山岳猟兵 1942年夏
アフリカ軍団 歩兵
補給受領時の歩兵
Uボート 海軍大尉
歩哨任務(冬期装備)

1943年
勤務中の野戦憲兵
上級巡査部長 マルセイユ
ドイッチュラント連隊の擲弾兵分隊長
警察官 ロシア戦線
ヘルマン・ゲーリング師団
戦闘機パイロット シチリア戦線
ヒンデンブルク航空団の爆撃機パイロット
ライヒスフューラーSS師団所属の装甲擲弾兵
工兵 東部戦線
落下傘猟兵 ウクライナ戦線
空軍地上師団の突撃砲兵
歩兵(冬期装備)東部戦線

1944年
通信兵(有線)
空軍落下傘猟兵 イタリア中部
1944年型陸軍戦闘服
総統本部で勤務する将校
対戦車戦闘の歩兵 ノルマンディー戦線
自走砲兵将校 ファレーズ地域の戦闘
グロースドイッチュラント師団の工兵
戦車兵長 ノルマンディー戦線
歩兵分隊長 ノルマンディー戦線
第21装甲師団砲手
ドイツ海軍沿岸砲兵隊
ドイツ空軍第17地上師団 ノルマンディー戦線
戦闘機パイロット ドイツの護り
強行偵察部隊の将校 イタリア戦線
ランゲマルク旅団の士官候補生
フォン・ザルツァ大隊の下士官 ナルヴァ
ブランデンブルク師団の将校
第7SS山岳師団の二等兵
突撃砲兵科将校
グロースドイッチュラント師団の歩兵将校
山岳猟兵師団の工兵将校
グロースドイッチュラント師団の偵察大隊伍長
クーアラント軍団の歩兵
リスト歩兵連隊将校
ヘルマン・ゲーリング戦車連隊の中尉

1945年
東部戦線の警察官
陸軍狙撃兵
トーテンコプフ第3SS装甲師団の機銃手
ベルギーSS義勇擲弾兵 ポンメルン戦線
ネーデルラント師団の砲兵将校 ポンメルン戦線
ノルトラント師団の対戦車猟兵 ポンメルン戦線
武装SS突撃砲兵将校

石井元章(いしい・もとあき)
1964年生まれ。1988年神奈川大学経済学部貿易学科卒。1994年東京デザインスクール卒。映画「プライヴェート・ライアン」の劇場版ドイツ語台詞を翻訳。1999年ナチス・ドイツの闘争歌を編纂、当時の音源を収集しCD化。2007年『最強の狙撃手』(原書房)の軍事用語および独・日本語版の内容チェックを担当。30年以上にわたりドイツ軍装品および写真など1万点近く収集し、日本有数のコレクター。

後藤修一(ごとう・しゅういち)
1952年横浜に生まれる。1977年玉川大学文学部外国語学科卒。ドイツ現代史研究家(ヒトラー・ドイツ関連)。軍事史学会会員。ドイツ行進曲愛好会会長。元(社)日本郷友連盟常務理事。元(財)日独協会青壮年委員会副委員長。三島由紀夫「我が友ヒットラー」歴史考証等、演劇、TV歴史番組等の考証や、ドキュメンタリーレコードの制作、ドイツ関係CD解説等多数。水木しげる『劇画ヒットラー』原作協力。ドイツ日本文化紹介イベント「コンニチ」コーディネーター。

北島護(きたじま・まもる)
早稲田大学第一文学部卒業。英米文学翻訳家。専門は世界の特殊部隊と英国陸軍史。訳書に『SAS戦闘マニュアル』『ヴェトナム戦争米軍軍装ガイド』『ドイツ武装親衛隊軍装ガイド』『第2次大戦米軍軍装ガイド』『実録ヴェトナム戦争米歩兵軍装ガイド』『軍用時計のすべて』『第2次大戦各国軍装全ガイド』(いずれも並木書房)がある。