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「おわりに

「逮捕術の大切なところは『後の先』です」。村上光由准陸尉がそう説明してくれた。2019年の猛暑の8月のある日、早朝から陸・海・空曹の受験者が集合し、逮捕術検定の始まる直前のことである。
  警務官になろうとする者は、ここ陸上自衛隊小平学校の曹警務課程を履修し、その中で必ず「逮捕術」の検定を受けなくてはならない。
「被疑者から攻撃または抵抗を受けた時に、相手への危害を必要最小限度にして、制圧、逮捕するというのが術の基本です」
  徒手による格闘が主体になるが、警棒または警杖による施術も行なうことになる。
「正面から頭部、顔面への攻撃は反則になります」
  なるほど、頭部への面打ちは相手に致命傷を与えかねない。肩や腹、小手への打撃しかできないようになっている。
  仕事のこと、その内容のこと、警務隊のすべてを知ることはできなかったが、彼ら彼女らの真摯な説明に、その使命感や責任感の高さを知ることができた。
  部隊のあるところ常に警務官はいる。災害現場への派遣部隊、海外に行く部隊や艦艇にも、航空基地にも、必ず警務官はいる。それに気づく人はどれほどいるだろうか。警務官は独立性を堅持し、警務隊長は指揮官である防衛大臣に直接つながっている。旅団長、師団長、方面総監、総隊司令官の部下ではない。それが一般隊員とはまったく違うところだ。
  2020年初春、撮影のために休日をつかって、6人の指導官が道場に集まり、警務隊逮捕術を演武してくださった。指導官らは納得がいくまで、何度も技をくり返してくれた。各ページにはQRコードがある。そこから動画で見ることができ、警務隊最高水準の技を学ぶことができる。(荒木肇)

 

目 次

はじめに 3
警務隊長が語る「進化する警務隊」

警務官は司法警察員/警務隊の組織/警務隊の現状について
/警務隊の将来は?

警務隊逮捕術とは 8

江戸時代の捕物道具/陸軍憲兵の逮捕術/憲兵の学んだ柔術逮捕
術/戦後の警察と自衛隊警務隊の逮捕術/警務隊逮捕術

警務隊逮捕術 15

1 前さばき(体さばき1)16
2 後ろさばき(体さばき2)18
3 前受け身(受け身1)20
4 後ろ受け身(受け身2)21
5 横受け身(受け身3)22
6 前方回転受け身(受け身4)24
7 片手外回し(離脱1)26
8 片手内回し(離脱2)28
9 前突き(当身1)30
10 手刀/てがたな(当身2)31
11 肘当て(当身3)32
12 前蹴り(当身4)34
13 膝当て(当身5)36
14 背負投げ(投げ1)38
15 大腰/おおごし(投げ2)40
16 小手返し(逆1)42
17 脇固め(逆2)44
18 下段打ち(警棒打ち1)46
19 中段打ち(警棒打ち2)48
20 両手突き(警棒突き)50
21 本手打ち(警杖打ち)52
22 返し突き(警杖突き)54
23 片手取り小手返し(徒手1)58
24 前襟取り脇固め(徒手2)62
25 後ろ襟取り腕固め(徒手3)64
26 警棒取り小手打ち(警棒1)66
27 突掛け小手返し(警棒2)68
28 前襟取り小手投げ(警杖1)72
29 水月/すいげつ(警杖2)76
30 斜面/しゃめん(警杖3)78
31 両手上げ(捜検)80
32 前固めからの施錠 84
33 後ろ小手取り(連行1)86
34 腕取り(連行2)88
指導官の横顔 56

現役自衛官が語る「警務隊」の素顔 90

資料 憲兵隊小史 107

憲兵のはじまり/憲兵隊の発足/憲兵の補充と服役/日清日露戦争に
出征した憲兵/日露戦争後の憲兵/戦争の激化の中で/陸上自衛隊警
務隊

おわりに 135

荒木 肇(あらき・はじめ)
1951年東京生まれ。横浜国立大学教育学部卒業、同大学院修士課程修了。専攻は日本近代教育史。日露戦後の社会と教育改革、大正期の学校教育と陸海軍教育、主に陸軍と学校、社会との関係の研究を行なう。2001年には陸上幕僚長感謝状を受ける。年間を通して、自衛隊部隊、機関、学校などで講演、講話を行なっている。主な著書に『静かに語れ歴史教育』『日本人はどのようにして軍隊をつくったのか』(出窓社)、『自衛隊という学校』『続自衛隊という学校』『指揮官は語る』『学校で教えない自衛隊』『学校で教えない日本陸軍と自衛隊』『東日本大震災と自衛隊─自衛隊は、なぜ頑張れたか?』『あなたの習った日本史はもう古い!』『脚気と軍隊─陸海軍医団の対立』『日本軍はこんな兵器で戦った』(並木書房)がある。

陸上自衛隊小平学校(こだいらがっこう)
東京都小平市にある小平駐屯地(旧陸軍経理学校跡地)に所在。現在、陸上自衛隊の職種のうち警務科職種と会計科職種の教育を担任するほか、人事、法務、システムの実務全般にわたる幅広い職域の教育を担任している。学生は陸上自衛官のみならず、海・空自衛官、事務官、技官等に及び、実務教育の総本山「実学の府」と呼ばれる。