立ち読み   戻る  

 

はじめに

 昔から日常的に使われてきた、いわゆる和の道具を、野遊びから非常時の防災にまで自在に活用してみよう。これが本書の主要テーマです。

 近年、登山やキャンプなどアウトドアで使われる道具たちは、材質・構造・デザインともに急速な進歩を遂げました。新素材採用の衣類、強力かつ省電力なLEDライト、超小型GPSなど、これらは実用科学の粋を集めた装備、といっても過言ではないでしょう。
  より進化した道具を使いこなすことで、より安全で快適なアウトドアが楽しめます。しかしあえて時代遅れとなった道具を持ち出す、というスタイルもあります。非日常の中で不便さを楽しむのです。
  欧米では古い装備とファッションを再現して、登山や山旅を楽しむヒストリカルクラブがいくつも活動しています。骨董品を集めたり、自分たちでレプリカを製作したりして、実際に山に登って使うのです。装備の年代基準はクラブによって異なりますが、一八九○年代以前とするのが主流です。
  衣類の素材はウール中心、明かりはロウソクか灯油ランタン、時計は手巻き懐中式、銃はマズルローダー(先込め式)、携帯電話は非常用としてグループのリーダーだけが持つ、といったクラブ規則が多いようです。

 本書で取り上げた和の道具たちは、多くが昭和の中頃まで日常的に使われていたものです。今日の道具と比べて扱いにくいのは当然。絶滅危惧種の道具もありますが、簡素なデザインだけに応用が利き、工夫を加えて使いこなせれば、日常から野外まで自分だけのお気に入りの装備に変えられるでしょう。
  野遊びに決まったスタイルはありません。安全性さえ確保できれば、さまざまな方法と楽しみ方があっていいと思います。
     


和の道具の使い方[目次]

はじめに 1

第一章 四角の一枚布を活用する 9

何でも包める風呂敷パワー 9
  風呂敷にできること/素材と適寸を使い分ける/風呂敷の活用ワザ/長い歴史が汎用性を生んだ/風呂敷の復活
手拭は最も便利な日用品 20
  野外で使いこなす/手拭が武器に……!?
褌は省エネルギー下着 27
  褌の移り変わり/野外で褌を使う/野外での効率的な洗濯法

第二章 歩きの道具たち 34

自然素材のウォーキングシューズ 34
  草鞋の魅力と履き方/良質な草鞋は少ない/草鞋を自分で作ろう/下駄の効用を見直す/下駄は山で使えるか?
地下足袋は和式のワークブーツ 44
  地下足袋の種類/登山用途への問題点/地下足袋を山で履く
下腿の守護神、脚絆 47
  山用脚絆/ミリタリーレギンス/山行と巻脚絆/巻脚絆の装着法/使用上の注意

第三章 雨具、簡易天幕、細引き 56

雨具は必須装備のトップ 56
  雨具の種類/雨具着用のタイミング/内側からの濡れに注意/雨具の変遷/ポンチョは多機能性が魅力/短所を理解して使いこなす
雨具による簡易シェルター 65
  先人の野宿技術/旧陸軍携帯天幕/携帯天幕を野宿に使う/ポンチョシェルター/ダイヤモンドシェイプその他
細引を活用する 76
  ロープワークの基本形/ロープワーク記憶のコツ/細引の携行法/三途縄(用心縄)/マーリンスパイク

第四章 古き時代の炎を楽しむ 84

火種は野外での生命線 84
  紙マッチを防水仕様に/ジッポーライター/メタルマッチを使いこなす
昔ながらの発火具を使いこなす 91
  火口の採集と製作/摩擦式発火/打撃式発火/太陽熱の利用
超小型の焚き火を楽しむ 100
  メタの種類と特徴/野外の主流はヘキサミン/ポケットストーブ/木質燃料の特徴/木質燃料の集め方/大切な場所選び/木質燃料を燃やす
癒しのロウソクパワー 108
  ロウソク照明の特色/洋ロウソクの構造/和ロウソク(木ロウソク)

第五章 食事と野外の衛生を考える 116

飯盒炊爨で和食を愉しむ 116
  兵式飯盒の特徴/時代による米消費の変化/兵式飯盒の使い方
伝統的携帯食「干飯」 125
  干飯と炒米の作り方
野外の衛生に気をつける 130
  デンタルケア/石鹸と洗剤/救難信号鏡(シグナルミラー)/キジ撃ち/キャットホールの作製

第六章 和式ナイフを山で使う 137

切出し小刀と肥後守 137
  木材加工に強い切出し小刀/片刃vs両刃/山で切出し小刀を使う/絶滅寸前の肥後守/電工ナイフ
和式ナイフのメンテナンス 148
  現場でのメンテナンス/自宅でのメンテナンス/錆を処置する
ナイフを研いでみよう 151
  とりあえずの一本なら合成中砥/簡単な片刃の研ぎ/両刃の砥ぎはカーブが難所/簡易研ぎ(タッチアップ)/耐水紙ヤスリの活用/ナイフに親しむ
カトラリー(食具:ブキ) 160

第七章 野外での暑さ寒さ対策 165

多目的に使える和の道具 165
  たためる扇子は日本の発明品/代表的な扇子の種類/扇子の作法
冬の夜の楽しみ 171
  くり返し使える懐炉を選ぶ/水筒で湯たんぽ/防寒衣料の原則
輪カンジキで雪に遊ぶ 177

第八章 緊急時に活用できる和の道具たち 180

帰宅困難者になる可能性 180
  EDC(常時携行装備)で備える/防災を意識したファッション/多目的に使える装備を選択
帰宅困難者の行動手順 188
  サバイバルウォークを体験/支援ステーションの利用/帰宅困難者の行動手順

コラム ノンテントウォーカー(1) 112
コラム ノンテントウォーカー(2) 161

平山隆一(ひらやま・りゅういち)
1953年、栃木県生まれ。一般市民による防災と防犯を調査・研究・実践する市民防衛フォーラムのメンバー。国内外でのアウトドアの経験を基にした、道具の活用術を得意とする。著書に『たった一人のテロ対策』『戦う!サバイバル』『軍隊式フィットネス』『ツールナイフのすべて』『フィールドモノ講座』『今から始める地震対策』(いずれも並木書房)などがある。