立ち読み | 戻る |
再刊にあたって いま世界は大きく揺れ動いている。近い将来、予想もできないほどの危機的状況があなたの身に起こるかもしれない。そのため本書は、あなたが遭遇するであろうさまざまなサバイバル状況に対応できるよう、新たに編集を行なった。 本書を通読するだけでも精神的、肉体的に鍛えられ、あなたの身に降りかかる危険について予期できるようになるが、さらに読み進めることで、その危険にどのように対処するべきかをも理解できるようになっている。将来どのような危険が発生するかということを予想できれば、非常に厳しい環境であっても生き残ることができるであろうし、さらに状況が悪化しても、対応できるだろう。 私は、26年間、職業軍人としてイギリス特殊空挺部隊SAS(Special Air service)に所属していた。このイギリス陸軍のエリート部隊は、非常に困難な任務を遂行するべく訓練され、世界のあらゆるところで作戦を行なってきた。ときには友軍からはるかに離れた場所で単独で行動することもあった。敵勢力下で小部隊が行動する場合、SAS隊員は、兵士、医師、歯科医、ナビゲーター、さらには調理まで自分で行なわなければならない。 作戦の内容や状況によっては、補給がまったく受けられないということも珍しくない。そのような場合、その土地で補給なしで作戦を遂行しなければならない。SAS隊員は、人為的、自然的であるかを問わず、すべての状況や問題に対して、自らの安全を確保し、いかなる状況でも生き残ることができる技術を絶えず訓練している。 世界各国でSAS隊員として作戦を遂行したあと、私は、サバイバル・インストラクターとなり、SAS現役隊員にその技術を指導している。隊員たちに自分の技術のすべてを伝えることが、これからの私の任務であると心得ている。今回、増補した内容は、実際の訓練や作戦により検証された、本当に役に立つサバイバル技術ばかりである。 以前とは違い、簡単に海外旅行できる時代になり、もはや人類が行くことができない場所や行ったことがない場所は、地球上にはないように思える。最近は、レジャーに費やす時間が増え、さらに世界のあらゆる場所の情報がテレビなどで盛んに放送されるようになった。これはつまり、世界中の秘境や未知の世界に簡単に出かけることができるようになったということである。そのためサバイバルの知識や訓練は必要ないのではと誤解する向きもあるが、それは危険である。 さらに、10年ほど前は安全であった場所が、今も安全であるとは限らないことも理解しなければならない。1989年にベルリンの壁が崩れ、その後、第一次湾岸戦争、コソボ紛争、さらにシリアでの内戦が続けて起こっている。これらの事件・戦争は、非常に衝撃的であったが、2001年9月11日に発生した同時多発テロと、その後の「テロとの戦い」のアフガニスタンおよびイラク戦争で、まったく影が薄くなってしまった。現在の地球規模な紛争状態は、世界中の人々にある1つの確信を与えることとなった。 「今日、無事に生活できたからといって、明日も無事とは限らない」 時代がどのようなものになるにせよ、人間の生き残ろうとする本能に変わりはない。同時に人間の驚くべき生存能力も変わることはない。しかしその驚くべき能力も、人間は文明化して暮らしが便利になると、退化してしまうことも忘れてはならない。 絶えずサバイバル技術を訓練し、いつでも使えるようにしておかなければならない。すべての人が基本的なサバイバル技術を身につけ、緊急時には何をするべきかを心得ていれば、世界のどこへ行っても安全である。いわば世界中どこでも通用する最高の保険のようなものである。 厳寒の北極から砂漠、熱帯雨林、そして見渡す限り何もない海のど真ん中まで、いつ何時、サバイバル状態に置かれるか分からない。兵士であろうが民間人であろうが、生き残るために必要な条件は同じである。兵士と民間人を分ける唯一の違いは、生き残るために、兵士はその存在を敵から隠さなければならないが、民間人は救出されるために、その存在を救助隊にアピールすることである。だが、政情が不安定なエリアでは、誘拐される可能性が非常に高い。そのような場所では、目立たないようにすることが最良のサバイバル技術である。このようにサバイバル技術は普遍的なものではなく、状況に合ったものが求められる。 山岳地帯、ジャングル、何もない平原および湿地帯などは、生存者にとっては危険な場所のように思える。しかしそのような場所ほど、サバイバル技術を身につけていれば、食料、燃料、水、そして風雨を避けるシェルターを作り、生き残ることができるのだ。サバイバルにおいて、気候は非常に重要な条件である。容赦なく体温を奪う吹雪、思考能力を失わせる強烈な日差しなど、生存者を痛めつけるものはたくさんある。熱さ、寒さの両方に対応できなければ、生存することは不可能である。 さらに自分の身体が状況によりどのように反応し、どのように機能するかを知っておく必要がある。また、旅行する前に、自分自身の基本的なサバイバル能力をチェックすることも大切である。例えば「野外で寝る」「限られた道具で火を起こす」といったことや、できるなら「一定期間、食事も睡眠もとらない」ということもやってみるといい。これだけでも自分がどれほど極限状態に対応できるかが分かる。 生き残ることができるかどうかは、基本的なサバイバル技術を身につけているか、その技術を状況に合わせて活用できるかにかかっている。サバイバル技術は重要であるが、あくまで技術でしかない。根本的に求められるものは、下の図で示すように「絶対に生き抜くという意思」である。 危険な状況から脱出するには、並外れた身体能力が必要であると思いがちであるが、実は、精神修養のほうがはるかに大切である。事故により興奮状態になり、アドレナリンが体内を駆けめぐると、凄まじいまでの生き残ろうとする能力が出るものである。我々に行動を起こさせるものは、「絶対に生き抜く」という、誰にでも備わっている本能である。 絶対に生き抜くという意思 「絶対に生き抜く」という強い意思は、訓練を通して得られる最も重要な部分である。我々は、ふだんから「生き抜く」という意思を育て、大きくしている。身体的に健康であることは、外見からすぐに分かるが、精神的に健康であるかどうかは、すぐには分からない。 「絶対に生き抜く」とは、いかなる状況であっても、絶対に諦めないことである。地球上に我々人類が対処できないものはない、生き残れない場所はないということを知ることは、非常に心強い。基本的なサバイバル・ルールに従い、「絶対に生き抜く」という強い意思さえ持っていれば、どのような困難でも克服できる。この意思が、普通の人に比べて強い人もいるが、そうでない人も、訓練によりその意思を強くすることができる。 過去のサバイバルの実績を思い出すことも、生き残るためには手助けとなる。今回、私が体験したことを「サバイバル・ケーススタディ」として追加したのはそのためである。繰り返しになるが、我々は、生き残るために世界中の知識や道具を入手することができるが、「生き抜く」という強い意思がなければ、ダメである。 サバイバルの知識 先に示した三角形の中段に「サバイバルの知識」を置いている。知識が豊富になればなるほど、生き残ることが容易になる。知識があれは、恐怖心もなくなる。具体的には、その地域の人々の生活などに注目し、彼らがどのように生活しているか観察し、彼らの経験から学ぶこと。サバイバルとまでいかなくとも、ちょっとした旅行をする際、その地域の医療設備や緊急医療体制について調べておくだけでも十分意義がある。 サバイバルの道具 三角形の頂点には、「サバイバルの道具」がある。本書は、サバイバル道具そのものについての記載は最小限にし、その代わり使用方法と機能については詳しく説明した。サバイバル用の食器、ナイフ、コンパスおよび無線機、携帯電話などである。しかし、本来、自然は我々を守ってくれるものであり、道具は付随的なものであると考えなければならない。重要なことは、サバイバルが必要とされる状況になったとき、それらの道具を使いこなして、環境に適応できるようにすることである。 この本に記載された方法を学び、独自に応用することが大切である。例えば、食用になる植物についての章を参照すれば、葉あるいは実が安全かそれとも毒をもっているかどうかを判断することができる。一般的な人であるならば、本書の内容に忠実に従っていれば、事故が起こるようなことはないが、危険性がまったくないというわけではない。毒に対する反応は、人によって異なる。わずかな量であっても、重大な症状が現れる人もいる。またトラップ(罠)の中には、非常に危険なものもある。そのようなトラップは、扱いを間違えれば大ケガをすることがあり、決してほかの人が入り込むような場所に放置してはならない。 本書から学んだ技術を使う場合には、環境に配慮し、動物を無意味に殺すようなことがないようにすること。さらに技術のなかには、その地域の法律に違反している場合もあるため、注意すること。ナイフは、サバイバルには非常に便利な道具であるが、刃物に関する法律に関して最新の情報を持っていること。 本書は、自己防衛を最大の目的としたサバイバルのためのハンドブックであることを忘れないで欲しい。そして、危険とは思われないような普通の状況にあっても、危険がひそんでいることをつねに認識して行動して欲しい。 本書は、公刊物ではないが、本書で紹介している各種のサバイバル技術は、SAS連隊の仲間と共に実戦から得たものである。サバイバルを必要とする状況で、的確な判断ができるように編集されている。本書が紹介する方法や技術を正しく使えば、あなた自身で自らの生命を守り、生き抜くことができるだろう。 最後に、本書の基本となるサバイバル技術を与えてくれたSAS連隊および出版の機会を与えてくれたハワード・ロックストン、トニー・スパルディングの両氏に感謝の意を表したい。彼らの尽力がなければ、本書は世に出ることはなかったであろう。 ヘリフォード・サバイバル・スクール ジョン・ワイズマン |
目 次 第1章 サバイバルの原則 1 出発前の準備が生死を分ける 2 第2章 事故からの生還 31 予期しない事故に対処する 32 第3章 地域別のサバイバル 41 世界の気候帯を知っておく 42 第4章 食糧を手に入れる 77 身体に必要な栄養素とは 78 第5章 キャンプ用具を作る 193 サバイバル用のシェルターを作る 194 第6章 方角と天候を読む 267 正しい方角を見つける 268 第7章 移動のテクニック 281 陸地を移動する 282 第8章 ファースト・エイド 295 応急手当をマスターする 296 第9章 海上でのサバイバル 367 海難事故から生還する 368 第10章 救助を要請する 383 救助隊の注意を引く 384 第11章 災害時のサバイバル 401 かんばつを乗り切る 402 著者あとがき 437 サバイバル・ケーススタディ(1) サバイバル・ケーススタディ(2) サバイバル・ケーススタディ(3) サバイバル・ケーススタディ(4) サバイバル・ケーススタディ(5)
John 'Lofty' Wiseman 高橋和弘(たかはし・かずひろ) 友清 仁(ともきよ・ひとし) |