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 目 次

 はじめに 
人はなぜ、人を殺したがるのか?  1

第1章 ザ・プロファイリング  11
 殺人者を逮捕する心理戦  13
 殺人犯の心は科学的に分析可能か?  19
 プロファイリング@ 直感に頼るFBI連邦捜査局  24
 プロファイリングA データを駆使する英国捜査機関  29
 プロファイリングB 国家のために戦う諜報機関  33
 プロファイリングC 危険な仕事を請け負う民間機関  39

第2章 プロファイリングを修得する  44
 プロファイリングの虚像と現実  46
 プロファイリングの秘訣「九〇対一〇の法則」  52
 これが本物のプロファイリングだ  57
 最大の敵は自分自身  62
 魔物に心を支配されないために  68
 捕食者の気配を五感で観る  73

第3章 困った人々をプロファイルする  79
「おれを愛して欲しい」――見捨てられ不安タイプ  82
「おれの邪魔をするんじゃない」――自己防衛タイプ  88
「あの子は私のことが好きだ」――妄想タイプ  93
「おれを認めてくれ!」――アイデンティティ追求タイプ  99
「クビにしたら、タダじゃおかないからな」――シナリオライタータイプ  104
「よし、こいつを襲おう」――確信タイプ  110

第4章 殺したがる人々との心理戦  116
「殺すしか残された方法はないんだ」――殺したがる人々@  118
「殺せ、と悪魔がぼくに命令したんだ」――殺したがる人A  123
「お願い、私の存在に気づいて」――殺したがる人々B  128
「どうして殺してはいけないんだ」――殺したがる人々C  133
「おれが声をかければ、子どもはついてくる」――殺したがる人々D  138
「正義のため、祖国のためにおれは殺す」――殺したがる人々E  143

第5章 実践・犯罪プロファイリング  149
 殺人者Aをプロファイルせよ  151
 殺人者Aの正体を読み解く  156
 プロファイリングは諸刃の剣  160
 他人の心を覗く危険  165
 誰が捕食者を誕生させるのか?  170
 これが警察庁長官狙撃犯の犯人像だ  176
暴力やトラブルを起こしやすい相手のチェックリスト  181


 おわりに  

相手を疑うのではなく、自分を疑う

 人はなぜ、人を殺したがるのでしょうか?
 私は実際に経験した暴力という脅威をプロファイルし、その結果を一つの仮説として、本書にまとめました。条件が整えば、誰もが暴力を正当化する捕食者となりえる≠ニいうのが、私なりの結論です。
 今後も、暴力や犯罪は増加するでしょう。なぜなら、情報化社会の中で生活し、知性が高まるほど、人は自己理解を深めていくからです。
 自己理解が深まるほど、自らの存在を周囲の人々と比較します。なかでも、男性は攻撃的で、社会的地位を優位に保ちたいという願望が強くあります。自分が周囲よりも勝っているときは安堵し、そうでないときは恐怖するのです。
 人は安心を得るため、偏見や差別という枠組みからものごとを捉えるようになります。気持ちが満たされない限り、妬み、嫉妬、怒り、憎しみといった感情が芽生え、最後には心の闇に潜む魔物を覚醒させるまでになってしまうのです。
 心が闇に溺れるとき、人は暴力を唯一の選択肢とみなします。気持ちの安定を図るため、そして自分の利益を得るため、一線を越えてしまうのです。
 本能のまま、欲望を満たすために殺人を犯してしまう人もいます。性衝動と暴力性が心の中で交じり合い、理性を凌駕するとき、人は冷酷な捕食者に変貌します。
 私たちは誰もが、無秩序な一面を心の中に抱えています。犯罪や事件だけでなく、世界各地で起きている戦争や紛争は、人がもっとも危険な存在であることを証明しています。
 感情や感覚が軽視される情報化社会が発達するほど、人は卑劣で残虐な存在と化していくことでしょう。私たちはテレビやインターネットといった外部環境から日々、情報を入手しています。膨大な量の情報にさらされていると取捨選択することなく、そのままを受け入れやすくなります。感覚が麻痺して偏見や差別を生みやすい土壌で暮らすようになってしまうのです。
 たとえば、暴力や犯罪から心身を守る知識を得ようとするとき、あなたは誰から知識を得ようとしますか。まず、専門家の意見を聴くはずです。専門家の意見は正しい≠ニいう風潮が心のどこかにあるからです。
 とはいえ、専門家が述べる情報であっても、吟味せずに受け入れるという行為は危険といえます。彼らの意見の多くは、その人なりの価値観から創造されているからです。
 あなたが実際に役立つ知恵を養いたいのであれば、事件や犯罪を起こした加害者に近づくに限ります。捕食者の立場や視点、感じ方を取得することが、狙われる側の弱点を知る唯一の方法となるのです。
 もちろん、加害者から学ぶにしろ、与えられる情報は疑う≠アとが大切です。本書に書かれている内容も是非、疑ってみてください。あなた自身の思考と感情、感覚のすべてを用いて、受け入れるか否かを判断するのがよいでしょう。
疑う≠アとを理解しようとするとき、誤認を起こす人がいます。私の問いかけに対して、「あなたの指摘とはつまり、他人を見たら泥棒だと疑えということですか?」と反論してくる人がよくいます。
 不思議なもので、彼らは自分を疑わず、相手を疑おうとするのです。すでに自分は知的であり、常に正しいという価値観が無意識のうちに働いている状態を意味します。
 相手を疑うのではなく、自分を疑う≠フです。信じてよいのか、自らの心に問いかけることを意味します。違和感を探る作業ともいえるでしょう。本書を読まれた方なら、疑う≠アとこそが、プロファイリングの原点であることに気づかれるはずです。
 外部からもたらされる情報は疑い、慎重に取捨選択することが大切です。さもないと自らの感覚や感情が鈍くなります。間違った情報が、あなたの価値観として心に刻み込まれてしまう恐れがあるのです。
 私は学校やPTAの講演会に招かれる機会があります。たとえばこのとき、子どもの個性や自由を象徴する、自尊心を重視する教育のあり方に恐怖する瞬間があります。
個性を育てる≠ニか自分らしく≠ニいう教育はある意味では大切です。しかし、教える側が自尊心の本当の意味を理解しないで教育を施せば、子どもを間違った方向へ導きます。あるがままに自由に振る舞うことが自尊心であり、個性であると教えられたと勘違いして、自分勝手な生活を過ごしている子どもが現実に存在します。
 欲求や衝動を常に解放していれば、子どもは心身ともに不調を訴えずにすみます。その反面、自立は遠退き、自己修養の機会を得ることはなくなります。そして思い通りに事が運ばないときは不満を漏らし、子どもは暴力的な言動で大人を混乱させるのです。
 現実に扱ってきた暴力をプロファイルしてみても、家庭や学校で起きている子どもの数々の暴力行為には自尊心が強く関係しています。学校や家庭で起きていた問題が是正されないとき、問題は先送りされて、最終的に職場へと飛び火します。
 不適切な社員をプロファイルしてみると、学校や家庭で過去に問題が起きていたことが確認できます。入社後にすぐ、会社を無断欠席するとか、職場内で問題的な言動を起こすなど、学校で起きていた問題とさほど違わないのです。
 暴力や犯罪から解放されるためには、自分を疑い、価値観と感情をうまく心の中で調和させた日々の成長が不可欠となります。衝動や欲求を感じたときは否定せず(否定すれば、心的に病んでしまいます)、暴力という選択肢以外の有益な形でエネルギーを放出する方法を習得し、実際に実行できる意志≠養うことで加害者や被害者にならずに済むのです。
 他人と自分の過去は誰にも変えることはできません。しかし、自分の未来は、自分の意志≠ナ変化させることができます。暴力や犯罪は、自らの意志で犯すことができれば、防ぐことも可能なのです。

毛利元貞(もうり・もとさだ)
戦場経験を活かして米国警察にて「犯罪者の心理」教育に携わる。以後、FBIやCIAなどを顧客に持つ専門機関における修学を経て、警察心理学、行動科学、プロファイリングを活用した安全理論と実践「脅威査定管理」を確立。現在は日本国内において(有)モリ・インターナショナルを設立し「安全と安心を確保する知恵」を講演やセミナーを通じて、フォーチュン100に名を連ねる在日米国系企業などのビジネス分野から法執行の場まで幅広く提供している。日本カウンセリング学会、日本コミュニティ心理学会、警察政策学会会員。著書に「護身の科学(日経BP社)」、「脅威査定 暴力犯罪相談の現場から(立花書房)」、「わが子を守る(ぶんか社)」など。
お問合わせ info@stop-violence.net
ホームページ http://www.stop-violence.net