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●目 次

はじめに

第1章 基礎技術篇

傭兵の魅力は、自分のルールで戦えることだ〈行動と装備の原則〉
市販の用具を活用するく服装の選択v
軍用品でなければ戦えない、という考えを捨でろ〈装備品の選択〉
現在の傭兵に求められる仕事とは〈部隊籍成の原則〉
情報は与えられるものではなく、自分で集めるものく作戦立案の原則〉
基地を出たら、すべて散地と見なして行動せよ〈行動の原則〉
絶対に安全な陣地はないと思え〈陣地構築の原則〉
夜は防御に徹し、闇を最大限に利用しろ〈夜間行動の原則〉
河および道路は、相互援護の原則で横断せよ〈危険地帯の移動法〉

第2章 各種戦術篇

アンブツシュは、敵を接近させ過ぎてもいけない〈待ち伏せ〉
待ち伏せされたら、逆攻撃で危地を脱出しろ〈対待ち伏せ〉
生き延びたけれぱ、卑怯者になれ〈通過戦〉
オトリを使って敵の出方を探れ〈掃討および戦果確認〉
悪知恵を使って追手を振リ切れ〈追跡〉
敵戦闘車両は、十分に引きつけてから攻撃せよ〈対車両戦闘
空からの脅威には、ともかく隠れる〈対空戦闘〉
ラベリングは、基本降下法だけを完全に覚えろ〈ロープ降下〉
少ない爆薬で、最大限の効果をあげる〈破壊工作〉
防備の固い敵には、水上から攻撃をしかけよ〈水路進入〉・

第3章 武器取扱篇

拳銃から迫撃砲まで扱える技術が必要だ〈基礎武器学〉
武器は、使いこまれた中古品から選べ〈携行火器の選択〉
射撃訓練は、マンターゲットを用いよ〈基礎射撃要領〉
中途半端で信頼性に欠ける米国製小銃〈M16ライフル〉
最高の性能を秘めるソビエト製突撃銃〈AKシリーズ〉
近距離狙撃に最適な単発カービン銃〈SKSカービン〉
使用範囲が狭く、戦場向きではない短機関銃〈ウージィおよびMAC10〉
対戦車から対人まで使える万能兵器〈RPGロケット砲〉
手榴弾より有効な榴弾発射器〈M79グレネードランチャー〉
持ち運び便利な最強の番犬、指向性地雷〈M18A1クレイモア〉

第4章 地上航法篇

地図は、すべての作戦の基本である〈軍用地図〉
地図を正置させて方角を知る〈地図判読法〉
レンザティック・コンパスのミル表示を使いこなせ〈軍用コンパス利用法〉
移動距離と方位角を算定し、目的地を目指せ〈基礎ナビゲーション〉
地図とコンパスで現在位置を確認する〈応用ナビゲーション〉
地図の北、磁北、真北を使い分ける〈地図の偏差〉

第5章 軍隊流格闘術篇

武道は、戦場での格闘戦には通用しない〈闘の原則〉
バヨネット戦には、「勢い」で勝て〈e剣格闘術〉
近接戦闘では、拳銃よりもナイフ攻撃に注意しろ〈ナイフ格闘術〉
もっとも手頃な武器を使いこなせ〈スティック格闘〉
ルールなき戦場では、汚く戦え〈徒手格闘〉

第6章 野外救急処置篇

日に見えない衛生上の敵に注意しろ〈個人衛生学〉
人工呼吸、心臓マッサージをマスターしろ〈応急処置の原則〉
ヤケドは、二次感染とショックに注意しろ〈ヤケドの処置〉〉
骨折は、手近なものを副木にして固定する〈骨折とショックの処置〉
戦場では銃弾よりも、破片に気をつけろ〈銃傷および裂傷〉
日射病に注意し、毒虫に備えよ〈各種疾病と毒虫対策〉

第7章 都市型戦闘篇

防御する側が有利な都市型戦〈都市型戦の行動原則と装備〉
道路を封鎖して敵の動きを止める〈道路封鎖〉
十秒以内に建物内すべてを制圧する〈拠点急襲〉
鉄条網・壁壕はニチームで突破する〈塹壕掃討〉
中心になる建物を制圧して監視体制をとる〈街路掃討〉
上から下に攻め降りて制圧する〈建造物掃討〉
障害物を設置して敵の進撃を遅らせる〈拠点防御〉


●はじめに

 一九九七年四月、アメリカのある軍事専門誌に面白い広告が掲載された。その広告の見出しには『スペシャリスト求む! 職種はボディガード、セキュリティ、油田施設警備』とある。こうした求人広告はさほど珍しいものではないが、この場合、広告主が目を引いた。
 業界では名の知られた大手危機管理専門会社が、この雇用主だったのである。イギリスに本社を構えるこの会社は、対テロおよびセキュリティ関連のコンサルタント会社で、日本にも支社を置いている。国際問題に多少でも興味があれば、新聞やニュースで一度はその名前を耳にしたことがあるはずだ。
 もちろん彼らが外注スタッフを募集することは何ら不思議ではない。問題はその派遣先である。これが先進主要国なら、それほど注目することはなかったが、派遣される先がすべてアフリカ大陸、しかも政情不安な国々となれば話は別だ。内情を知る者には、この広告がなにを意味しているかは明らかである。
 つまりこの広告は、形を変えた「傭兵募集」であり、現在でも戦争のプロが雇われる時代であることを物語っている。「傭兵」という言葉は使われていないものの、雇用側が専門知識を持った「スペシャリスト」を必要としている事実に変わりはないのである。ついでながら最近、業界では「傭兵(マーセナリー)」という言葉はほとんど使われない。死語になりつつあるのも、また事実である。
 では彼らが求める「スペシャリスト」とは、いったいどういうものか。ボディガードを例に考えてみよう。
 ボディガードの世界では、映画や小説で描かれているような派手なアクションを演じるケースはほとんどない。そうした状況になるのは最後の最後であり、最悪の状況といえる。逆に言えばこうした事態になること自体、ボディガード失格であり、とてもスペシャリストとは呼べはしない。
 またボディガードといえば、やはり常に雇用主のそばに寄りそい、暴漢に立ちはだかる姿を思い浮かべる人が多いだろう。
 確かに、そのような任務(我々はCP班と呼ぶが)もあるにはあるが、CPはボディガードの任務のごく一部でしかない。
 それよりはるかに重要な任務は、雇用主を犯罪者やテロリストの攻撃にさらされないよう、いかに事前防止に努めるかということである。
 訓練されたテロリストに襲撃されたら、どんなに完全武装でガードしていても、被害をゼロに食い止めることはむずかしい。まして周囲に民間人がいようものなら、ボディガードは撃ち返すことすらできないだろう。
 このケースでは、攻撃を仕掛ける側が時と場所を選べるだけに圧倒的に有利である。つまりボディガードの最大任務は、いかに敵の攻撃を事前に回避するかにつきる。そのためには、体力だけでなく、それ相応の知力が求められるのだ。
 このように、ボディガードの任務一つとっても必要とされる技量は高水準となってきている。つまり銃を撃つだけの傭兵は、時代に取り残される運命にあるといえる。特殊技能がなくては、メシを食っていくことはできないのである。
 では、現在求められている「傭兵」とはいったいどういうものか?
 その答えを正確に表現するのはむずかしい。実は「これが傭兵だ」という基準がないのが現状なのである。このあいまいさが、自称「傭兵」が多いゆえんでもある。
 また、傭兵の基準がないのと同様に、どこからどこまでが傭兵の仕事であるといった範囲も存在しない。なかには、「傭兵」を雇用する「傭兵」も存在するのである。
 つまり、傭兵のなかにも使用する側と使用される側がいるということだ。もちろん、どちらの危険度が高く、報酬が安いかは言うまでもない。
 基準がないといっても、そこにはレベルの差、キャリアの違いは歴然と存在するのである。
 くり返しになるが、「傭兵」に定義は存在しない。前述の募集広告に見られる活動や、現在私が警察や治安機関で行なっている対テロ訓練も、広い意味での「傭兵」活動の一環といえるだろう。
 読者のなかには、傭兵に憧れ、どうすれば傭兵になれるかと思っている人がいるかもしれない。
 職種やジャンルを選ばず、ただ傭兵になりたいだけなら、実に簡単である。自衛隊かフランス外人部隊に入隊して経験を積み、その経歴を売り込めばいいのである。
 傭兵も数ある職業の一つである。仕事に取りかかる際には雇用主と契約書を交す。通常のビジネスと何ら変わりない。自分の実力、レベルを十分に理解し、能力に見合った求人に対して、自分を売り込めるかどうかも必要な才能となる。
 しかし、いくら「傭兵」には基準がない、資格がいらないと言っても、活動するには最低限の知識と技術が必要とされる。その基本中の基本を提供するのが、本書といえよう。
 傭兵とは何か? その活動内容はどいうものか? 私自身の傭兵経験をふまえながら、その実態をできるかぎり明らかにした。
 むろん、ここに記載されている内容だけが傭兵のすべてではない。傭兵を取り巻く環境も日々変化している。だが基本的なことはこの本にすべて網羅してある。
 今回改訂するあたり、単に「傭兵」という限定された分野にとどまらず、現代の歩兵戦闘がどういう形式をとるか、さらに都市型の対テロに際してどういう作戦が効果的であるかについても記した。「第7章 都市型戦闘篇」がそれである。その点で、「傭兵」以外に関心をもつ読者にも広く本書が受け入れられることを願っている。


●あとがき

『新・傭兵マニュアル完全版』の出来映えはいかがでしたか? 以前の本をお読みの方なら、その違いがはっきり理解できたと思います。
 本書はまず一九八九年に『傭兵マニュアル』として出版されました。一九九二年には判型をそれまでより一回り大きくした『傭兵マニュアル完全版』を出版しました。そして今回が三回目の大幅改訂となります。
 はじめて本書を手にした読者のために説明すると、前著との大きな違いは、「第7章 都市型戦闘篇」が新たに加わったことです。
 二○世紀末を迎え、国際情勢はいま大きく変化しています。東西冷戦の終結とともに世界各地で勃発した地域紛争の多くは、都市部での戦闘に移行しているのです。当然、傭兵の必要とする知識も変化しています。どんなに野戦での経験が豊富であっても、都市型戦では通用しません。そこで今回の改訂では、この「都市型戦」を付け加えたしだいです。
 もちろん第7章だけでなく、全体にわたり、古くなった内容を修正し、加筆しました。本書が前著以上に濃い内容に仕上がったことは確かで、私が持っている知識のすべてを可能な限り記載しました。
 本書は「傭兵」として活動する際に最低限必要な項目を細大もらさず収録したものです。つまり戦闘のプロとして行動するための〈基礎バイブル〉といっても過言ではありません。
 もちろん実際に傭兵として活動するなら、「はじめに」で述べたように専門的な特殊技能が必要です。たとえば、現在の傭兵ビジネスにおいて、要人警護技術や対テロ技術を修得した傭兵は、優遇される傾向にあります。それは危機管理が叫ばれる現在、もっとも必要とされている特殊技術の一つだからです。
 このことから、現場でなにが求められているかを予測する能力が傭兵には必要です。逆に言えば、いくら技術を持っていても、時流に合わなければ、プロとして活躍する道は閉ざされているということです。
 今後マスターしておくべき技術が何か、興味がある方は、同じく並木書房から出ている『ボディガード流護身術』や『SWATテクニック』をご一読ください。本書にリンクする部分が多くあることに気づかれるはずです。
 もちろん本格的にこの世界でやっていくつもりなら、読むだけではなく、得た知識と技術を実際に自分のものにしなくてはなりません。何より有能な指導教官の下での実地訓練や軍隊または警察での経験が不可欠です。本書はそうした場合のテキストであり、知識を補うものであって、それ以上でも以下でもありません
 とくに海外は、あらゆる面で実力主義です。傭兵の世界も同様で、その場で実力を証明できなければ通用しません。これは私の経験からも断言できます。このことを十分に理解しておいてください。

 さて本書は前著に引きつづきイラストを白山宣之氏にお願いしました。いつもながらの白山氏のていねいな仕事ぶりには感謝しています。「アームズマガジン」編集長の岡崎弘之氏にも現場での撮影用器材の提供をはじめ、さまざまな協力をいただきました。本書で使用した写真の一部に「アームズマガジン」誌上で発表したものが含まれてているのはそのためです。また、本書を読んでいただいた読者の皆さんにも心から感謝します。遅れ気味の原稿が予定通り仕上がったのは、並木書房出版部への問い合わせや催促の電話によるところが大きいからです。
 最後に、情報化時代に対応して筆者の主宰する(有)モリ・インターナショナルも電子メールを開設したことをお知らせします(アドレスは巻末表示)。皆さんのご意見や質問、次回作の要望など、気軽に発信してください。質問事項にはできるかぎり回答していくつもりです。
 それでは、また新たなテーマで皆さんと会えることを楽しみにして、この「あとがき」を締めくくります。


●毛利元貞(もうり・もとさだ)
1964年広島県生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊入隊。フランス外人部隊伍長、傭兵訓練学校教官を経て、各地の戦場で特殊作戦に参加。以後活動の場を対テロリズム関係へと拡げ、90年、91年、96年には国家指導者(ノーベル平和賞受賞者)警護部隊の対テロ訓練を行なう。以後、CQBおよび狙撃等の各種対テロ戦術訓練を実施。最近はIPSCプラクティカル・シューティング(現在Cクラス)にも力を注いでいる。現在は有限会社モリ・インターナショナルを設立、各種専門分野のコンサルタント業務およびセミナー運営に携わる。また、特殊戦闘の経験および技術を活かして専門誌に寄稿。ノンフィクション、小説、シナリオの執筆を続ける。著訳書に『新・傭兵マニュアル完全版』『ザ・デルタフォース(監訳)』『軍隊流護身術』『ボディガード護身術』『SWATテクニック』(いずれも並木書房)、『世界の最強対テロ部隊』(グリーンアロー出版)、『コンバットスキル1・2・3(監修)』(ホビージャパン)、『コンバット・バイブル3(監修)』(日本出版社)、『セルフディフェンス』(富士見書房)、小説『デッドリー・フライト96』『ラオス特命作戦』『悪魔のコマンドー』(KKベストセラーズ)、『銀鼠』(広済堂)がある。