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おわりに(一部)

「軍隊に擬制した行政組織」としての自衛隊
  これまで、「自衛隊とは何か?」という問いへの答えとして、「自衛隊とは、軍隊に擬制した行政組織である」という仮説が確からしいかを検証してきた。ここで、これまでの議論を簡単に確認することとしよう。
  第1部では、そもそも軍隊とは何かを確認するべく、国家と軍隊の関係、軍隊の有する特性、軍隊の組織的な特徴、軍隊の保有する機能、そして軍隊をめぐる制度について概観した。
  まず、国家と軍隊の関係について、本書では「暴力主体」という概念を用いて国家が暴力を独占するメカニズムを説明した。すなわち国家は自らの主権を行使し得る領域内において、暴力の格差を背景に措定した法の下、あらゆる武装組織を暴力主体へと再編成することで暴力の独占を達成する。軍隊もまた暴力主体の一つであるが、軍隊がほかの暴力主体と異なる点は、その保有する暴力を無制限に行使し得る点である。
  次に、軍隊の特性とは、自律性、自己完結性、非人格性の三つである。
  自律性とは軍隊がその行動を決定し、実行する過程で、外部からの統制や影響を極小化しようとする性質を、自己完結性とは軍隊がいかなる任務も独力で遂行し得る性質を、非人格性とは軍人にその人格を棄捨せしめ、個人を全人格的に組織に結合させ、組織としての統一性を保つ特性をそれぞれ指す。
  また、軍隊の機能とは、大まかに分類すれば、抑止、情報活動、練兵・造兵、用兵、軍事行政、軍事司法、統治、外交、その他の機能の九つである。
  第2部では、軍隊と行政組織の差異を検討するため、行政組織の組織構造を確認した上で、軍隊と組織的な類似点の多い警察について、組織、構成員、活動、権限それぞれについて、軍隊とどのような違いがあるのかを検討した。また、軍隊と行政組織の権限の違いから、軍隊が法の基本的原理といかなる関係に置かれるのかを検討した。
  第3部においては、第2部までの検討を踏まえ、自衛隊の組織、構成員、活動、権限が軍隊と行政組織のいずれにより近似的かを検証し、その後、自衛隊と軍隊の差異について明らかにした。
  ここまでの議論から、自衛隊がその性質上、軍隊と同様の組織であるということは困難であろう。むしろ自衛隊は、その特徴から軍隊よりも行政組織に近似の組織であることが明らかとなった。
  かくして、「自衛隊とは、軍隊に擬制した行政組織である」という仮説は確からしいことが証明された。自衛隊は、「暴力のための能力構築」と「暴力を行使する方法」のいずれにおいても厳格な制限が課せられているほか、軍隊としての機能や制度に欠けるところがあり、また、軍隊の指揮統率の根源となる統帥権も厳密な意味において存在しない。
  さらに自衛官の地位も他国の軍人のものとは本質的に異なる。これらの特徴は、いずれも行政組織のそれに該当するものであって、自衛隊が軍隊とは異なる組織であることを強く示しているのである。ただ、少なくとも国際法上では軍隊に擬制しているため、戦闘員資格や軍艦の地位といった通常の軍隊に与えられる特権と同等の権利を有しているに過ぎない。

 

目 次

はじめに 1

七十余年の問い/「武装せる行政組織」/本書の目的と構成

 

第1部 軍隊とは何か 21

第1章 軍隊の定義 22

国際法上の定義と本書における位置づけ 22

軍隊の定義と国際法上の整理/広義の軍隊と狭義の軍隊の区別/正規軍/準軍事組織/民兵

広義の軍隊 32

反徒、反乱軍/義勇軍、組織的抵抗運動団体、不正規軍/民間軍事警備会社(PMSC)/群民兵

第2章 国家と軍隊 42

国家は暴力を独占する 42

近代国家と暴力の独占/法と暴力/「暴力主体」への再編成/暴力の制限と暴力への制約/権力と暴力

第3章 軍隊の特性 56

無制限の暴力 56

軍隊の三つの特性 57

自律性/自己完結性/非人格性

第4章 軍隊の組織的特徴 68

階級 68

三つに分かれる軍隊の階級/士官/下士官/兵卒

軍種・兵科・兵種・特技 75

軍種/兵科/兵種及び特技

管理単位と戦術単位 79

軍隊組織の二重構造──管理単位と戦術単位の区分/部隊階梯に残る管理単位と戦術単位の名残

幕僚組織 82

幕僚組織の概念と機能的役割/近代的幕僚制度の成立と発展

第5章 軍隊の機能 86

1、抑止 87

「拒否的抑止」と「懲罰的抑止」

2、情報活動 90

広義と狭義のインテリジェンス活動/情報収集及び分析/防諜/秘密工作/宣伝

3、練兵・造兵 102

教育及び訓練(1)概要/教育及び訓練(2)旧帝国陸軍の事例/ドクトリン及び戦争計画の研究・策定/軍需品の製造及び調達/技術開発

4、用兵 114

戦闘/戦闘以外の軍事行動

5、軍事行政 120

人事(1)概要/人事(2)進退・任免及び補職・命課/人事(3)給与/人事(4)人事評価・進級/徴集・募集/経理・会計(1)概要/経理・会計(2)予算編成/経理・会計(3)調弁/経理・会計(4)主計・出納/経理・会計(5)営繕/経理・会計(6)軍事手票業務/経理・会計(7)会計監査・監督/軍事負担(1)徴発・徴用/軍事負担(2)軍事地役/編制/各種記録・戦史編纂

6、軍事司法 156

軍事犯罪等の捜査/軍事裁判/刑の執行/旧帝国陸軍における軍事司法

7、統治 170

占領統治──占領の概要/占領統治──軍律法廷/非常警察・衛戍──戒厳/非常警察・衛戍──治安出兵及び衛戍/法執行・文民組織支援

8、外交 183

軍事交流/軍事支援/平和維持活動

9、その他の機能 189

軍楽・儀礼/宗教活動/経済活動/社会活動

第6章 軍隊をめぐる制度 211

統帥権・編制権 211

軍隊の統率と監理/統帥権の三つの側面

兵制・役種・召集 217

兵制/役種と召集/我が国における召集の種類

編制・動員・戦闘序列 225

編制/動員/応急動員と臨時動員/動員による編制の違い

軍事援護・恤兵 237

軍人等に対する各種支援/物的・経済的援護/精神的援護/恤兵

軍事郵便 246

第2部 軍隊と行政組織 253

第7章 行政組織とは何か 255

行政主体、行政機関、行政庁 256

行政主体/概念的な意味の行政機関/実定法上の行政機関/行政組織の定義

行政組織の組織構造 261

組織構造の差異/組織構造を規定するもの

第8章 軍隊と行政組織の差異のための序説──警察とは何か 268

警察の概念 269

警察の起源/現代の警察概念

警察の類型と主要国の警察制度 273

警察の類型/フランスの警察/ドイツの警察/イギリスの警察/アメリカの警察

第9章 軍隊と行政組織の本質的差異──軍隊と警察を例に 282

組織の差 283

責任の所在/行為の主体

構成員の差異 287

軍人と文民/軍人とは何か/軍人の権利義務

活動の差異 297

軍事行動/作戦命令/警察の活動/行政の指揮監督権

権限の差異 307

ネガ・リストとポジ・リスト/軍隊の権限/警察の権限/警察権の限界

第10章 軍隊と法の基本的原理 322

法の基本的原理とは何か 323

法の支配/法治主義/法律による行政の原理

法律の留保 329

留保の原則

ネガ原則と法律による行政の原理 332

軍隊と法の基本的原理の関係をめぐるアプローチ/行政の埒外説/統治行為説/事実行為説

 

第3部 自衛隊とは何か 343

第11章 自衛隊創隊の経緯 346

再軍備をめぐる紆余曲折 346

米国内における意見対立/旧軍軍人による再軍備への取組み

保安隊・警備隊から自衛隊へ 349

「背広」と「制服」の対立/文官優位システムの残存

第12章 自衛隊の特徴 354

自衛隊の組織 354

責任の所在と行為の主体

自衛隊の構成員 357

自衛隊員とその任務/自衛隊員の服務

自衛隊の活動 361

任務と指揮監督権

自衛隊の権限 364

権限授与方式

第13章 自衛隊と軍隊の差異 369

厳格な暴力の制限 369

装備品に対する規制/警察比例原則の適用/異質な権限授与方式

機能・制度の欠缺 374

軍事司法の欠缺/軍事援護制度の欠缺/統治機能及び造兵機能の欠缺

統帥権の不存在 383

最高の指揮監督権とは何か/自衛隊は誰に忠誠を誓うか

自衛官の地位 388

軍法の不存在/自衛官への罰則と身分保障

おわりに 397

「軍隊に擬制した行政組織」としての自衛隊/「自衛隊が有する制度的制約──不測事態への対応の遅れ/自衛官の地位と軍紀──士気低下の可能性/我が国防衛法制の再検討に向けた課題

参考文献 405

索 引 423

隈 裕資(くま・ゆうすけ)
防衛事務官
平成元(1989)年 福岡県久留米市に生まれる
平成24年3月 九州大学文学部人文学科卒業
平成26年3月 日本大学大学院国際関係研究科修了
平成30年4月 防衛事務官として海上自衛隊に入隊。佐世保造修補給所で勤務
平成31年4月 海上幕僚監部人事教育部
令和3年4月 防衛省防衛政策局
令和5年4月 内閣官房へ出向
令和8年4月 防衛省防衛政策局(現職)