遠くに国産魔改造≠フサエゲ戦闘機の3機編隊が見えてきた。早めにホテルを出て幸運だった。いつも通りなら逃すところだった。周囲に人の姿はない。高鳴る心臓の音は、カメラを構えた瞬間には聞こえなくなっていた。メインのカメラで正確にシャッターを切った。
サエゲ戦闘機に続いてミグ29、F‐4Eファントム、F‐14Aトムキャット、中国製F‐7戦闘機の編隊が飛行し、そして、ボーイング707がトムキャットとファントムを従えて迫ってくるのが目に入ってきた。もう周囲に人がいるかどうか確認もしない。いても絶対にカメラを向ける。これはカメラマンの本能だ。
そしてすべてのカメラマンが死ぬ前に最後に撮る写真を思い描く理想の写真。それが今、目の前に迫ってきている。「これを撮ったら死んでもいい」。本当にそう思いながらシャッターを切った。
編隊が真横を過ぎてからセカンドのカメラでホメイニ廟を背景にして撮影した。周囲には人がいない。「ヒャッツホー!」と声を上げたかった。エアショーなら叫んだはずだ。でも、ここはイラン。我に返って、次にやってきたF‐5Fの編隊、サエゲの編隊、F‐4Eの編隊を撮った。
低い高度に陸軍のCH‐47輸送ヘリコプターの編隊が見えてきたので、打ち合わせ通り、安全を優先するためそれらは撮らずにその場から離脱を始めた。
ハラメ・モッタハル駅までは徒歩で10分くらいか、早歩きならもう少し早いか。数分前までの興奮が残るなか、CH‐47やベル212の編隊が頭上を次々と航過していく。
ハラメ・モッタハル駅までが長く感じる。そして目に入ってきたAH‐1コブラ攻撃ヘリの編隊。イラン陸軍はAH‐1Jを国産化し発展させたトウファンという戦闘ヘリコプターも持っている。パッと見では識別できない。
撮るかどうか迷ったが、S氏に「どうする?」と声をかけた瞬間、ヘリはベストなポジションに来たので、彼の返事を聞く前にカメラを構え、シャッターを切った。その瞬間、後ろから来たオフロードバイクに乗った迷彩服の兵士が横で止まった。迷彩柄と胸のマークから革命防衛隊であることがわかった。……二人の兵士はバイクの後ろにそれぞれ乗るように指示すると、来た道をUターンしてパレード会場の端にある警備詰め所に連行された。(本文より)
●目 次
プロローグ 1
第1章 拒絶されたイラン入国──国外追放から始まった中東取材 11
憧れのイラン、最初の一歩は入国拒否 11
国外追放乗客の手順 14
入国不可が増えたのは「大統領の采配」か 18
第2章 3度の拘束から見えた「革命防衛隊」──監視国家イランの素顔 20
体制を守る軍隊「革命防衛隊」20
美しい壁すら旅行者にはトラップ 22
撮れば犯罪、それでも惹かれる旧式軍用機 24
若者が叫びながら追いかけてきた! 27
ホメイニ廟での軍事パレード 30
革命防衛隊兵士と食べたアイスクリーム 33
革命防衛隊による拘束事案〈1〉国軍パレード潜入撮影記 36
命知らずの相棒とアルゴの世界≠ヨ 36
オフロードバイクが止まった瞬間 39
ペルシャ絨毯の上の尋問 43
逮捕されたらどうなっていたか…… 48
革命防衛隊による拘束事案〈2〉軍事博物館の裏にて 56
王朝の遺産と革命体制の矛盾 56
博物館の裏で銃口を向けられた日 59
革命防衛隊による拘束事案〈3〉反米イスラエルデモにて 62
パンデミック前夜、N95とともに旅立つ 62
イラン前哨戦──ラオス艦艇を追ってミャンマーへ 66
中国膨張の最前線カンボジア 70
イマーム広場、祝祭と反米熱狂の朝 75
革命防衛隊の私服警備網に捕まる 79
世界遺産と戦場をつなぐ将軍の影 83
異教徒≠ニして捧げた最敬礼 85
アメリカが読み違えたイラン社会の現実 88
第3章 イラン人が見た日本──『おしん』と出稼ぎが残したもの 91
日本人はただの珍しい外国人 91
未知の国の物語『おしん』は、なぜイラン人に受けたのか 95
政治問題に発展した「おしんラジオ事件」98
黄金の国「ジパング」へ出稼ぎ 100
日本で働いたイラン人たちの今 102
イランでのタクシー「あるある」104
「アメリカに原爆を落とされた」は子供も知っている 106
「早く日本企業に帰ってきてほしい」108
第4章 日本人が知らないイラン──旅の難しさと人々の本音 110
イラン渡航と「自己責任」110
訪問81か国中いちばん良かったのは「イラン」112
旅行者のトラップは「イラン暦」116
現金枯渇は即ゲームオーバー 117
イラン人の心の支え「ペルセポリス」121
イラン人の観光商売 125
ペルシャ語に言い換えてみよう 128
外国人からどう見られているか気にしている 130
ほぼすべての中年男性は戦争に参加した 132
イランで都はるみの演歌を聴く 134
メイド・イン・ヤポーンの力 138
世界遺産級の「日本製」139
第5章 イラン人と宗教──日常に息づくシーア派の世界 143
ネクタイとケフィエ、そして植毛 143
シーア派とスンニ派の違いを理解する 148
イランに住むユダヤ教徒──宗教とシオニズムは別 153
薔薇とチューリップ 156
トイレに見るイラン事情 160
ヒジャブを脱ぎ始めたイランの若い女性 162
異教徒の壁は越えられない…… 165
現体制すら容認する世俗の詩人ハーフェズ 168
「フランダースの犬」ネロ少年のジハード 171
第6章 新しい「イランの歩き方」──戦争と革命の記憶をたどる 176
車窓を飾る殉教者の肖像画 176
国立イスラム革命・聖戦博物館 178
再訪した博物館で見た核関連施設の精密模型 182
ハリボテ作りの「セントウキ職人」にも敬意 184
「イーグル・クロー作戦」の現場に立って 187
スマホでしか知らないアメリカ文化 192
アメリカ大使館跡地に飾られる「坂本龍馬」198
「CIAは本気でこんな作戦を考えていたのか」204
2月28日、イラン大規模空爆の夜 208
革命防衛隊海軍のミサイル艇は日本製 210
撃沈直前のイラン艦「デナ」214
海上自衛隊とイラン海軍 219
日本だからできる対イラン外交 223
おわりに 227
柿谷哲也(かきたに・てつや)
1966年横浜市生まれ。1990年から航空機使用事業で航空写真担当。1997年から各国軍を取材するフリーランスの写真記者・航空写真家。撮影飛行時間約3000時間。『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼ブルーインパルス』『赤い翼空自アグレッサー』『海鷲の翼F-2戦闘機』『我ら海中自衛隊』(小峯隆生著/並木書房)の撮影担当。著書は『知られざる空母の秘密』『知られざる潜水艦の秘密』『イージス艦はなぜ最強の盾といわれるのか』(SBクリエイティブ)ほか多数。日本写真家協会会員。日本航空写真家協会会員。日本航空ジャーナリスト協会会員。
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