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■著者のことば  宇宙技術はすでに投資家に莫大な利益をもたらしています。宇宙技術の一例であるGPS(全地球測位システム)は何兆ドルもの経済価値を生み出し、宇宙ベンチャー企業の業績の中には史上最大級のものがあります。詳細は第1章で解説しますが、ほかの宇宙技術がいかに投資機会を生み出すかを理解するうえで、GPSは有用なシナリオです。 「ほかの宇宙技術」の例としては、地理空間情報(GEOINT:Geospatial Intelligence)や衛星通信(SatCom :Satellite Communication)があり、農業、物流管理、通信、金融サービスなどの主要産業で重要な役割を果たしています。  かつて「eコマース」や「ブログ」という言葉が雑誌やニュース番組に頻繁に登場し始めた頃、多くの人々にとってこういった耳慣れない言葉は一時的な流行にすぎませんでしたが、インターネットが社会全般にどれほど大きな変化をもたらしたかは今や誰もが知るところです。  当時その変化の重大さを理解し活用できたのは、オンラインデマンド放送会社ネットフリックス(Netflix)のリード・ホフマン、アマゾン(Amazon)のジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)、オンライン決済会社ペイパル(PayPal)のイーロン・マスクといったごく少数の人々だけでした。  最近とみに高まっている宇宙と宇宙活動への関心をめぐり、読者の脳裏にも警鐘が鳴り響いていることでしょう。何か重大なことが起こりつつあるのはわかっていても、その結果を完全に見通すのは至難です。  そこで本書はその全容を理解するための視点を提供します。たとえば読者が複数の会社を運営する起業家か、起業家志望だとしましょう。宇宙という急成長市場に確かなチャンスを見いだしているとしても、やはり疑問と不安は湧いてきます。 「宇宙ビジネスに流入する投資は途方もない額だが、自分のプロジェクトに関心を持つ企業はあるだろうか?」「自分には必要な資質と能力があるのか?」「航空工学かエンジニアの経歴が必須か?」「NASAでの勤務経験が前提条件か?」「宇宙市場参入に際してイーロン・マスクがペイパルを売却したように、個人資産が不可欠なのか?」  答えはいずれも明確な「ノー」です。その理由は本書で明らかにされます。  またベンチャー宇宙ビジネスに関心があるものの、価値やリスクをどう評価していいかわからない投資家にとっても本書は信頼できる道標になるでしょう。  ここ数年、いわゆる「宇宙ビジネス・エキスパート」による誇張や誇大広告が蔓延っていますが、この本を読めば宇宙産業の可能性を見極めるための「事実」と「SF」を区別できます。

■目 次

謝辞 2

序章 宇宙で始まる新しい産業革命 11 宇宙は誰のものか―投資と参入のハードル/著者の原点と転機―宇宙ビジネスへの道のり/仲間とチームの力―実務家たちとの出会い/この本の目的と射程―宇宙経済の未来を読む/本書の構成―宇宙ビジネス入門

第1章 宇宙は次なる大市場 ―仕事、投資、経済の未来を探るには宇宙を見上げよ 32
GPSが切り拓いた宇宙経済の時代/宇宙市場の誕生―成長を妨げた障壁がなくなった/周回遅れのアメリカを復活させたイーロン・マスク/いま宇宙で起業するなら―チャンスとリスクの見極め方/世界を変える衛星データ―宇宙発ベンチャーの可能性/経済・政治・戦略―宇宙が支配する時代へ/アポロの栄光、シャトルの失速/NASA再生の鍵―宇宙開発に競争を持ち込んだ人たち/打ち上げ費用の低価格化―スペースXと民間主導の台頭/宇宙経済は国境を越える―世界が描く新たな軌道/打ち上げは始まりにすぎない―投資家の視点から見る未来

第2章 宇宙経済の地図を描く ―収益構造と主要プレイヤーを知る 61
宇宙経済の夜明け―アンバンドリングが切り拓く新市場/位置情報の価値を一変させたグーグルマップ   いまや当たり前のGPS機能 68   スマホの中の宇宙―GPSが日常を支配するまで/GPSはもう古い?―民間企業が挑む次世代ナビゲーション/位置情報が動かす経済―GPS新世代のプレイヤーたち   目を見張るGEOINT(地理空間情報)の技術革新 72   地図を超える眼―GEOINTが描く新たな地球像/GEOINTはまだ始まりにすぎない―データ時代の宇宙観測/センサーが拓く空からの地球監視=\GEOINTの最前線/新たに生まれるGEOINT関連アプリ―データ流通の静かな革命/農業、保険、建設……急成長するGEOINTビジネス   衛星通信(SatCom)82   静止衛星と低軌道衛星―通信衛星の起源と現在/つながらない場所≠なくす―衛星通信をめぐる次の覇権/衛星と地上をつなぐ新ビジネス―衛星通信のインフラ革命/いつでも、どこでも、誰にでも―全地球接続≠フ可能性   技術統合で新たなビジネスが生まれる 88   コロナパンデミックで露呈した脆弱性/地図・現実・仮想が融合する時代―衛星とARが変える日常空間/宇宙ビジネス、次のフロンティア―新4産業が拓く未来経済

第3章 宇宙ビジネスの立役者たち ―なぜ宇宙を目指すのか? 94
地球を毎日、見つめる―プラネット・ラボの軌道上革命/設計の裏側≠ゥら宇宙を変える―バイオレット・ラボの挑戦/空の渋滞に挑む―リオラボの宇宙ゴミ監視システム/地球観測データを統合して提供―スカイ・ウォッチの挑戦/気候リスクに保険革命を―アーボルと衛星データの挑戦/宇宙から始まる農業革命―リグロウの気候スマート戦略

第4章 宇宙ビジネス最前戦 ―スペース・エコノミーの起業家プロフィール 130
国家を越えて、起業家が宇宙を変える/未知の市場へ―宇宙経済というブルーオーシャン/衛星産業マトリックスから見えてくる未開拓分野/宇宙ビジネスの最前線―起業家に開かれた新領域/官と民の共創が拓く宇宙経済の未来

第5章 軌道を定める ―共同創業者、顧客、資本 153
「誰が顧客か?」から始まる宇宙スタートアップの成功法則/最初の顧客がすべてを決める―宇宙経済で生き残るために/地球を観る商機―スカイ・ウォッチ社が描く宇宙データの未来/成功はチームで生まれる―宇宙ビジネスの創業者たち/なぜそこに起業するのか―地理が決めるビジネスの未来/政府支援を活用する―公的資金を味方につけろ/宇宙ビジネスを形にする力―資金調達の戦略/失敗から学べ―宇宙ビジネスに挑む起業家たちへ

第6章 アポロからスペースX、そしてその先へ ―宇宙野心の衰退と復活 178
アポロ計画の終焉とレーガン大統領のISS建設計画/スター・ウォーズ計画が残した光と影―冷戦・政策・商業化の40年/「高いほど儲かる」―イノベーションを阻んだ構造的病理/商業宇宙事業の試みはなぜ失敗したか?/二人の野心家―イーロン・マスクとジェフ・ベゾス/コロンビア号事故とISSの建造継続/民間主導の貨物宇宙船/宇宙政策の転換―民間宇宙開発を信じた者たち/宇宙軍の設立―レイモンド将軍と新たな四軍体制/規制の壁を越える民間宇宙企業―法なきフロンティア

第7章 勝ち馬を選ぶ ―宇宙ビジネスへの投資 215
宇宙に便乗する詐欺師に用心―投資に必要な冷静な目/打ち上げコスト低下が生んだ連鎖反応/スペースXが開いた扉―宇宙市場の立役者/宇宙経済のサバイバル術―トム・ウェインが見抜く勝者の条件/宇宙ビジネスで勝ち残る法則―起業家と投資家の条件

第8章 宇宙ビジネスの扉を開く ―最大のチャンスをつかむ 231
エンジニアだけが宇宙を目指す時代は終わった/スペース・キャリア最前線―広がる宇宙、足りない人材/適職を見つける―宇宙で働く≠ニいう選択肢/宇宙ビジネスの入口は一つじゃない―官も民も起業家≠フ道/変化の風≠ノ乗る覚悟―宇宙キャリアに必要な資質とは/ロケットだけが宇宙じゃない―進化する宇宙経済と職種の地殻変動/宇宙業界が求める“越境人材”―キャリアは一つじゃない/「市場」と「宇宙」をつなぐ知性―越境人材が切り拓く新フロンティア/信頼は最大の資本―宇宙ビジネスにおける切れ者≠フ条件

第9章 金の卵を先につかめ ―人材を制する者が宇宙を制す 258
最初の一人を間違えるな―宇宙ビジネス成功のカギは創業チームにあり/最初の仲間が会社を作る―宇宙スタートアップの人材戦略/人材をどこで見つけるか―宇宙スタートアップの採用戦略/採用制度は自社で磨け―グーグル流雇用の科学=^才能は挑戦で輝く―マスクが求めた異能$l材の集め方/ミッションがすべて―スペースXを動かす企業文化の核心/社風が企業を伸ばす―スカイボックスからグーグル、そして宇宙へ

第10章 宇宙経済の未来 ―安く、手軽に、安全に宇宙に行けるようになると何が起こるか? 280
スターシップ革命―宇宙輸送が変えるビジネスの新常識/宇宙ステーションから月面工業まで―四つの新興宇宙産業ビジネス/スターシップが宇宙ステーションになる日/ルーナー市場の胎動―月で始まる新ビジネス革命/宇宙の渋滞をどうさばくか―ロジスティクスの時代/無重力工場と小惑星鉱山―宇宙工業の幕が開く/宇宙の秩序を築く―新たな国際法の模索/誰が空を守るのか―宇宙空間の新たな防衛線/軌道上の戦争―衛星をめぐる攻防の最前線/宇宙からの気候監視―1兆ドルのフロンティア/地球を救うか、逃げ出すか―人類を絶滅から救う計画

おわりに―誰もが宇宙で勝負できる時代 309
脚 注 313 訳者あとがき 319

■訳者あとがき(一部)  本書『宇宙ビジネス入門』の著者チャド・アンダーソンは、我々はすでに「宇宙なしでは生きていけない時代」にいると主張します。世界中でつながるスマートフォン、全地球規模の天気予報、カーナビでも徒歩でも目的地まで誘導してくれるGPS(全地球測位システム)、効率的な農業や牧畜、海洋牧場を可能にする遠隔モニタリングは、すべて衛星群と呼ばれる民間サテライト・ネットワークに支えられているからです。言い換えれば、宇宙はすでに中小企業やスタートアップ企業が利潤を目的に進出する「市場」になっているということです。  これを可能にしたのがイーロン・マスク率いるスペースX社の再利用型ロケット「ファルコン9」です。打ち上げコストを半減し、宇宙へのアクセスを民間サイドに開け放った立役者です。  アンダーソンはこうも予測します。「スペースX社の次期宇宙船『スターシップ』が商業運用を始め、時を同じくして、マスクのライバルであるジェフ・ベゾスの新型再利用ロケットが投入されれば、打ち上げ業界の競争が激化する。自由競争によって軌道アクセスはより安価かつ手軽に、そして安全になる」。つまり、いよいよ「誰もが宇宙に行ける時代」が到来するというのです。  さらにアンダーソンは、月と火星で探査機着陸に成功し宇宙大国を国是とするようになった中国を念頭に「宇宙の過酷な環境では、人間は助け合わないと生きていけない」事実にも言及します。これはイーロン・マスクが事あるごとに力説する「人類の多惑星種族化によって地球文明の存続を図る」ビジョンにも共通します。  月コロニーであろうと火星植民地であろうと、人間は「地球人コミュニティ」という新たなアイデンティティを持たなければならないという提言です。

Chad Anderson(チャド・アンダーソン) 宇宙関連企業に特化した投資会社「スペース・キャピタル(Space Capital)」の創業者であり業務管理パートナーとして10年以上にわたってスペース・エコノミーへの投資を開拓してきた。宇宙経済分野のエキスパートとして『ブルームバーグ』『CNN』『CNBC』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『ニューヨークタイムズ』『ファイナンシャル・タイムズ』など多数のメディアに紹介される。英国の宇宙分野進出戦略を支援する「サテライト・アプリケーションズ・カタパルト」の理事。また陸・海・空・宇宙の科学的探検を奨励する非営利団体「エクスプローラーズ・クラブ」の理事、国際宇宙ステーションに設置された米国立研究所のユーザー諮問委員会のメンバーも務めた。妻ラディカとともにニューヨーク市に在住。

加藤 喬(かとう・たかし) 元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校日本語学部准教授(2014年7月退官)。主な著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける犬』『チューズデーに逢うまで』『アメリカンポリス400の真実!』(並木書房)がある。