立ち読み   戻る  


はじめに

櫻井よしこ(国家基本問題研究所理事長)

「政軍関係」という、戦後の日本ではほとんど論じられてこなかったテーマについて、このたび研究会を作りました。わが国をめぐる国際状況が大きく変わり、かつてない危機に直面する状況下、自衛隊に真の意味での軍隊としての活動が求められるときが必ず来ます。
  そのとき、政治は軍にどのように対処すべきなのか。政治と軍の健全な関係はどのようなものなのか。旧軍のことを知っている方がずいぶん少なくなったいま、正しい政軍関係を構築していくにあたって学ばなければならないことが沢山あります。政治と軍が十分な意思の疎通をはかり、互いの特性を活かし、それをもって日本の国益に資するための知恵や制度について私たちはこの研究会で改めて認識することになると考えます。
  日本国憲法は政軍関係を根本から破壊しました。政治と軍は異常な関係の中に置かれ、歪な国家が生まれました。このままでは自力でわが国を守り通すことはできません。また、わが国は永遠に米国の被保護国であり続けます。わが国の軍をめぐってはあらゆる面で他国と比較にならない厳しい状況があります。こうしたことを踏まえ、戦後日本の政軍関係を、考え方、制度、政策の全てにおいて一新すべく、真剣に学び研究した結果が本書です。

目次

 はじめに(櫻井よしこ 国家基本問題研究所理事長)1
  研究会設立の趣意(田久保忠衛「政軍関係」研究会座長)3
  研究のアウトライン(堀 茂「政軍関係」研究会座長補佐)7
  講師略歴 21

第1章 天皇と自衛隊 23
      ──元首としての「天皇」と国防軍としての「自衛隊」(講師:田久保忠衛)

  統帥権の独立がもたらした悲劇 23
   天皇の統帥大権 27
   自衛隊の出自 29
   軍隊と警察の違い 32
   自衛隊が軍隊になる条件 33
   【質疑応答】
    日本は有事の裁判を想定しない 37
    政治が国を守るという気構えはあるのか 42
   「国防軍としての自衛隊」45
    天皇元首を憲法に明記する 50
    国として皇室をどのように守っていくか 53
   【まとめ】天皇と自衛隊(堀 茂)55

第2章 最高指揮官を補佐する制度と役割 61
      ──総理大臣と統合幕僚長との関係(講師:河野克俊)

  草創期から自衛隊は警察組織 61
   警察の延長だからポジティブ・リスト 64
   歪な政軍関係 66
   シビリアン・コントロールと文官統制 71
   参事官制度崩壊への流れ 75
   国民に自衛官の顔が見え始めた 78
   形はできたが、中身はこれから 82
   【質疑応答】
    制服サイドにも問題があった文官統制 84
    海上保安庁法第25条は憲法とのつじつま合わせ 87
    自衛隊の憲法明記は「ありがたい」発言 90
    自衛隊から国民を守るというおかしな法体系 96
    核の傘がある“はず”では済まされない 100
   【まとめ】総理大臣を補佐する制度と役割(黒澤聖二)107

第3章 「文民統制」の仕組みと改善点 111
      ──防衛省勤務の経験からみたわが国の政軍関係(講師:黒江哲郎)

  わが国の「シビリアン・コントロール」の制度 111
   形骸化して行く「参事官制度」114
   防衛省改革会議による組織改編 118
   制服組と背広組の相互不信を解消するために 121
   軍政担当としての内局の役割と課題 122
  「内局は敵ではなかった」126
   【質疑応答】
    自衛隊の実情を国会で話すことは意義がある 127
    何でもかんでもシビリアン・コントロールでいいのか 133
    自衛隊の裁量権はどの程度認められているのか 139
    自衛隊でないとわからない情報がある 144
    部隊運用の統合幕僚監部一元化 149
    外務省と防衛省の判断の違い 153
    総理秘書官に制服自衛官を 157
   【まとめ】文民統制の仕組みと改善点(堀 茂)162

第4章 成熟した民主主義国家における政軍関係 167
      ──信頼感と緊張感のはざまで(講師:浜谷英博)

  政軍関係の定義と戦後日本の課題 167
   政軍関係の議論を日本はどう進めるか 170
   憲法第9条の解釈と自衛権の行使 172
   文民条項が挿入された経緯 176
   オバマ政権時代に見られた政治と軍の確執 177
   軍人と政治家の信頼関係をどう築くか 179
   軍事アレルギーからの脱却 183
   ルーズベルト大統領の信頼を得たマーシャル陸軍参謀総長 186
   政治指導者にこそ必要な危機管理の訓練 188
   政治優先の原則と軍の政治的中立 191
   【質疑応答】
    軍事忌避には教育機会を、政治決断には訓練機会を 194
    英国王室と軍の関係 197
    問題は法制度にある 200
    軍隊の政治的中立性 203
    前に進むには大きな力が必要だ 207
    今の憲法は占領政策遂行のための基本法 214
    台湾有事で国民保護法は機能せず 217
    英米法系の憲法の下に大陸法系の防衛法制という歪み 219
   【まとめ】政治の決断と手段としてのROE(黒澤聖二)222

第5章 軍事力行使をめぐる米国の政軍関係 227
      ──揺れ動く文民統制(講師:菊地茂雄)

  米国の政軍関係における二つの考え方 227
   ベトナム戦争の「長い影」231
   ベトナム戦争の教訓 233
   湾岸戦争にみる政軍関係 236
   クリントン政権時代の政軍関係 237
   ラムズフェルドの介入型リーダーシップの問題点 241
   効果を上げたブッシュ大統領の新戦略 246
   アフガニスタンへの増派──みせかけのオプション 248
   政軍関係の新たな潮流「責任共有論」251
   文民指導者と軍人の信頼関係の構築 253
   【質疑応答】
    戦争における米大統領と議会の権限 254
    戦争の始め方、終わり方 259
    統合参謀本部と国務省の関係 264
    理想の政軍関係──ルーズベルトとマーシャル 267
    文民によるマイクロ・マネジメントとトランプ大統領の批判 270
    一筋縄ではいかないアメリカの政軍関係 284
   【まとめ】軍事力行使をめぐる米国の政軍関係(堀 茂)290

第6章 「栗栖事件」再考 298
      ──日本的「政軍関係」の原点(講師:堀 茂)

  「栗栖事件」とは何か 298
  「文官統制」という誤解 302
   栗栖発言に対するメディアの対応──栗栖批判の論理 305
   最高統帥機関──統合幕僚会議の実態 310
  「栗栖事件」の本質 312
   栗栖氏の真意──「独断専行」の必要性 314
   行政機構の中の自衛隊という「軍隊」317
   【質疑応答】
   「栗栖問題」はいまも解決していない 319
    栗栖さんの言われた「独断専行」325
   「文民統制」イコール「文官統制」という誤り 328
    ROEに対する認識が間違っている 331
    国を守る最後の砦が軍隊 335
    自衛隊法に欠陥があれば、国際法を適用できる 339
    いまも続く自衛官外し 345
    憲法の自衛隊明記について 351
   【まとめ】「栗栖事件」再考(堀 茂)359

 補遺(1)「防衛法制に関わる制度的、運用的な課題と問題点」(講師:田村重信)364
  補遺(2)「ハイブリッド戦争時代における政軍関係の変容」(講師:守井浩司)368

 編集後記 376

国家基本問題研究所(国基研)
政治、経済、外交、防衛、歴史など、国家の基本問題を調査研究し、成果を発信して、政策形成に寄与するために、2007年(平成19年)に、櫻井よしこ理事長のもと設立。2011年(平成23年)公益財団法人認定。
国基研「政軍関係」研究会:田久保忠衛副理事長を座長として2022年(令和4年)1月に第1回を開催。以後ほぼ毎月、政軍関係の実務と研究に精通した講師を招聘し有志の参加を得て研究会を実施。
研究会メンバー:櫻井よしこ、田久保忠衛(座長)、以下五十音順:有元隆志、石川昭政、太田文雄、織田邦男、河野克俊、菊地茂雄、木原稔、黒江哲郎、黒澤聖二(補佐)、杉田水脈、薗浦健太郎、滝波宏文、冨山泰、長尾敬、浜谷英博、堀茂(補佐)、宮川眞喜雄

3C/OP-3C/EP-3パイロット。第7航空隊(鹿屋)、第2術科学校外語教官室(英語教官)、統合幕僚事務局第1幕僚室(渉外副官)、米太平洋軍連絡官(ハワイ)、第51航空隊(厚木)、バーレーン防衛駐在官兼米第5艦隊連絡官、産経新聞社研修、海上幕僚監部給与室、第81航空隊(岩国)、統合幕僚監部副報道官、幹部学校教官、アナポリス(米海軍兵学校)連絡官、2022年5月に1等海佐で定年退職。慶応義塾大学大学院法学研究科政治学専攻ジャーナリズム専修(修士)。現在は株式会社IMマネジメントジャパンを設立し代表取締役社長。