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はじめに

 男である以上、この世では常に有能でなければならない。優れた身体能力を有し、文化にも堪能……これらの特質を持った男が生存と社会での成功を可能にする。
  また、どのような状況に置かれても手際よく、巧みに問題を解決するための幅広いスキルを持った男こそが男らしい。
  これは、フランス語の「サヴォアフェール(savoir-faire)」という概念に近い。君も知っているだろう。ジェームス・ボンドが、セオドア“テディ”ルーズベルトがこの概念を身をもって示し、我々の祖父も同様であった(私の祖父がそうあったことは覚えている)。
  サヴォアフェールを身につけた男はパンクしたタイヤを交換し、どのような場であってもビシッとした格好を好み、相手がトラックの運転手だろうと、外交官であろうと会話を楽しみ、武器を手にした悪漢の動きを封じる。
  サヴォアフェールを自分のものにするということは、男になるということだ。それは穏やかで、気が利いて、賢く、手先が器用で、才覚があり、臨機応変な男である。
  文化を問わず、女性があこがれる男性に共通する特徴は有能さであることが研究によって証明されており、それはスポーツカーや割れた腹筋ではない。女性は高度なスキルを持った男を探す。世界各地の文化圏で、これらの特質が男に求められ、独立と自由の前提条件とされる。有能な男は満たされ、自主性のある人生を送る。

 どのような状況下でも歩みを止めず、いかに行動するかを知り、尊敬・注目を集め、問題に対処できる技術と自信を手にすることは素晴らしい。哲学者ニーチェがこれを的確に表現している。「幸せとは実力がより多く身についていると実感できることである」
  自由自在に操れるスキルを増やしていくことで、君はより有能な男になるだろう。君はより強く、影響力のある男になり、最高の気分を味わえるに違いない。

 私は「アート・オブ・マンリネス」を2008年に始め、自信と目的意識、スキル、美徳を失い、さまよい続ける現代の男たちが、あこがれの男たちの体現した「サヴォアフェール」を学び、上達できるよう、世界中の男たちを手助けしてきた。この本を通じて、空虚な空間を漂流する君が、尊敬に値する、円熟した、有能な夫、父、兄弟、市民になれるよう手を差し伸べる。

 男が知らなければならないスキルが何であるかという論争は何世紀にもわたり交わされてきた。その論争はおそらくこれからも続くだろう。本書を上梓したことで、私たちもこの大きな論争に加わることになった。男が知らなければならないスキルのすべてを書き連ねることはできないが、この本を読むことで読者は幸先のよいスタートを切ることができるだろう。私たちは素晴らしい遺産と現代の資産をつなぎ、多方面で活躍するために、この手引き書を提供する。
  現代の男が一度は体験する役割に応じて、本書を6つの章に分けた。冒険者、紳士、職人、戦士、家庭の男、リーダーである。万能な男を作り上げる「ハードスキル」と「ソフトスキル」の絶妙な組み合わせを読者は目にするだろう。資本主義および民主主義の社会に住んでいる男の多くにとって、上手な着こなし、効果的なリーダーシップ、カリスマ性の発揮などのソフトスキルは成功への一助となる。その一方で、現代社会ではサバイバルをしたり、物理的な脅威から常に身を守る必要はほとんどないが、戦いの方法や火の起こし方などのハードスキルもまだ必要である。
  出世を目指す、あるいは森で迷ったとき、スキルは身についていたものの必要なかった方が、必要だが身についていなかったよりもありがたい。
  私たちは極地探検家やカーレーサー、サバイバリスト、医師ではないかもしれないが、彼らから学ぶことはできる。それぞれのスキルをアドバイスするにあたり、私たちは調査し、その方面に明るい第一人者に助言を求めた。とはいえ、読者は深く考えをめぐらし、自身の安全に責任を負い、ほかの人を尊重して欲しい。
  新しいスキルを手に入れることで君が成長と挑戦に突き進むことを祈っている。能力が向上すれば、感動を与え、そして有能な男になれる。状況に応じたスキルをすでに手にしていることがわかったときの感動は何ものにも代えがたい。何千年にもわたる人類の歴史が、これらのスキルを持った男たちが男らしかったことを証明している。健闘を祈る!
ブレット・マッケイ(「アート・オブ・マンリネス」創設者)

目 次

はじめに 2

第1章 冒険者になる 15

1.木を伐採する 16
2.薪を割る 18
3.火を起こす 20
4.焚き火を愉しむ 23
5.氷上から落ちたら 24
6.クマを撃退する 26
7.松明を作る 28
8.暴走車から飛び降りる 30
9.水没する車から脱出する 32
10.橋から飛び込む 34
11.山野で水を探す 36
12.飛行機を着陸させる 38
13.飛行機事故から生還する 40
14.携帯電話を活用する 43
15.カヌーを漕ぐ 44
16.イカダを作る 46
17.竜巻から身を守る 48
18.消防士のように人を運ぶ 50
19.ロウソクを自作する 52

第2章 紳士を目指す 53

20.ウィンザーノットでネクタイを結ぶ 54
21.蝶ネクタイを結ぶ 56
22.ハンカチを持つ 57
23.マフラーを結ぶ 58
24.身体に合わせたスーツ 60
25.ネクタイとシャツを合わせる 62
26.スーツと靴を合わせる 63
27.ワイシャツにアイロンをかける 64
28.腕まくり 66
29.究極の靴磨き 70
30.靴を手入れする 72
31.ドップキットを用意する 74
32.デートに持っていくもの 75
33.安全カミソリで髭を剃る 76
34.片刃カミソリで髭を剃る 78
35.口髭を整える 80
36.完璧な初デート 82
37.女性のためにドアを開ける 84
38.ダンスを学ぶ 87
39.女性にコートを着せる 88
40.テーブルマナーとエチケット 90
41.手品を披露する 92
42.完璧にステーキを焼く 95

第3章 職人の技に学ぶ 97

43.ツールボックスに必要なもの 98
44.ハンマーを正しく使う 100
45.モンキーレンチを使いこなす 102
46.ポケットナイフを活用する 104
47.ナイフを研ぐ 106
48.斧を扱う 108
49.ロープ結びをマスターする 110
50.ドアを蹴り破る 112
51.防災用具を車に常備する 113
52.エンジンの仕組みを知る 114
53.マニュアル車を運転する 118
54.エンジンを再始動させる 124
55.タイヤを交換する 126
56.スリップをコントロールする 129

第4章 戦士たれ! 133

57.ローバースクワット 134
58.デッドリフト 136
59.ケトルベル 138
60.プッシュアップ 142
61.プルアップ 143
62.監獄エクササイズ 144
63.ストレートパンチ 148
64.アッパーカット 150
65.素早く服を着る 151
66.拳銃を扱う 152
67.ダクトテープで縛られたら 155
68.忍者のように歩く 156
69.クーパー流「色別状況確認」158
70.状況認識を身につける 161
71.ストレスに打ち勝つ 166
72.銃撃事件に巻き込まれたら 168
73.銃撃犯に反撃する 172
74.ナイフ攻撃から身を守る 174
75.結束バンドから逃れる 176
76.車のトランクから脱出する 178

第5章 家族を大切にする 181

77.コミュニケーション能力を高める 182
78.宝箱を大事にする 184
79.出産を助ける 185
80.赤ちゃんを抱く 187
81.赤ちゃんにげっぷをさせる 188
82.おむつを替えよう 189
83.赤ちゃんをあやす 191
84.赤ちゃんとエクササイズ 194
85.サンタクロースになる 196
86.スマホなしで幼児をあやす 200
87.家族をVIP待遇する 202
88.完璧なオムレツを作る 206
89.カッコいいおじさんになる 208
90.いたずらを披露する 210
91.水切りを楽しむ 214
92.世界最高の紙飛行機 216

第6章 リーダーシップに学ぶ 217

93.リーダーシップの5つの特徴 218
94.決断のマトリクス 220
95.OODA(ウーダ)ループ 222
96.カリスマ性を手に入れる 226
97.常に男らしい姿勢で 230
98.上半身のストレッチ 234
99.T字型の頭脳を手に入れる 237
100.腰のストレッチ 238
101.カッコよく部屋を出入りする 242
102.雑談を切り上げる 244
103.面接を受けに行く 246
104.デスクに常備するもの 248
105.会議を進行する 250
106.プレゼン能力を高める 252
107.オフィス内のエチケット 254
108.男らしく握手する 256

謝辞 259
参考資料 261
「アート・オブ・マンリネス」について 262
訳者あとがき 263

茂木作太郎(もぎ・さくたろう)
1970年東京都生まれ、千葉県育ち。17歳で渡米し、当時は男子制であったサウスカロライナ州立シタデル大学を卒業。海上自衛隊、スターバックスコーヒー、アップルコンピュータ勤務などを経て翻訳者。訳書に『F-14トップガンデイズ』『SAS英陸軍特殊部隊』『シリア原子炉を破壊せよ』(並木書房)など多数。近刊予定に『ボーイング社の凋落(仮題)』。