立ち読み   戻る  



世界を見渡しても、機体(戦闘機)とエンジンの両方を自国で開発して量産化できた国は、これまで米英仏ロの4か国にすぎない。日本は2016年4月に、機体、エンジンとも国内開発した「X-2」(先進技術実証機:Advanced Technological Demonstrator-X= ATD-X)の初飛行に成功したが、これはあくまでも試作機で現時点では量産の計画はない。機体のみを開発できる国は前述4か国より増えるが、エンジンを用意できなかったことで、たとえばイスラエルのラビ(Lavi)は開発中止に追い込まれ、日本でもF-2は日米共同開発になった。このように、エンジンを自国で開発(またはライセンス製造)できるかどうかは、その国の航空産業の技術レベルを計るバロメーターとなる。
  ロケットやミサイルを自国で開発した国は十指に余るが、航空エンジンを自国開発できる国は限られる。この差がどこにあるのかというと、ロケットは数分間(長くて十数分間)の作動が確実にできればその使命を達成できるが、航空エンジンは1,000時間以上オーバーホールなしでの運用が一般的である。たとえば、民間旅客機機用エンジンでは、巡航飛行の十数時間にわたって1,300〜1,400℃の燃焼ガスの中でタービン翼が回転し続けるという過酷な作動が要求される。この耐久性の要求こそが、世界中でわずか4か国しか戦闘機用エンジンを開発できなかった理由である。〈本文より〉

目 次

推薦の辞(茅原郁生)1
はじめに(榊 純一)3

第1章 国産エンジン開発に苦しむ中国 15

 ボーイングB707を手本に国産旅客機開発 15
  開発計画は挫折の連続 18
  中国独自のARJ21計画 20
  中国の軍用機開発 23
  まとめ 25

第2章 各国のジェットエンジン開発 27

 ジェットエンジンの基礎知識 27
  ドイツのジェットエンジン開発 30
  イギリスのジェットエンジン開発 32
  アメリカのジェットエンジン開発 35
  日本のジェットエンジン開発 36

第3章 ジェットエンジンが中国に渡るまで 39

 第2次世界大戦前後の英ソ関係 39
  ソ連におけるジェットエンジン開発 42

第4章 中国ジェットエンジン開発の始まり 44

 建国当時のガスタービンの研究事情 44
  中国空軍の創設と戦力整備 46
  ゼロから始まったジェット機開発 48

第5章 呉大観─中国航空エンジン開発の先駆者 52

 新中国の建国まで(1916〜49年)53
  新中国の誕生と航空工業の確立(1949〜61年)55
  文化大革命と不遇の時期(1961〜75年)58
  イギリス製エンジンの国産化(1976年以降)61
  党員および教育者としての呉大観 64
  研究・開発に対する呉大観のアプローチ 65
第6章 中国のジェットエンジン開発史 68

 ターボジェットエンジン@渦噴5 68
  ターボジェットエンジンA渦噴6 70
  ターボジェットエンジンB渦噴7(マッハ2の戦闘機用エンジン開発)74
  ターボジェットエンジンC渦噴8(大推力エンジンの開発)76
  ターボジェットエンジンD渦噴11 78
  ターボジェットエンジンE渦噴13 78
  ターボファンエンジン@渦扇5 81
  ターボファンエンジンA渦扇6 82
  ターボファンエンジンB渦扇8 84
  ターボファンエンジンC渦扇9 85
  ターボファンエンジンD渦扇10 87
  ターボファンエンジンE渦扇11 88
  ターボファンエンジンF渦扇13 89
  その他のターボファンエンジン開発計画 90
  ターボプロップエンジン@渦?5 91
  ターボプロップエンジンA渦?6 92
  ターボプロップエンジンB渦?9 93
  ターボシャフトエンジン@渦軸5 94
  ターボシャフトエンジンA渦軸6 94
  ターボシャフトエンジンB渦軸8 95
  渦扇10甲ターボファンエンジンに見る技術レベル 96
  中国の技術獲得とアメリカの懸念 99
第7章 中国航空産業の歴史 103

 核・ミサイル開発との対比 103
「四つの近代化」以前 107
「改革・開放」以降 110
  21世紀の近代化計画 114

第8章 ジェットエンジン研究体制の拡充 116

 研究開発の概要 116
  近代化のための研究開発体制と製造設備の状況 118
  ジェットエンジンに関係する主要な研究機関 122
  ジェットエンジンの開発体制 125
  ジェットエンジン開発体制の再編 126

第9章 ジェットエンジンの技術レベルと
    今後の展望 129

 ジェットエンジンの技術レベル 129
「中国製造2025」に見る航空エンジンの位置付け 134
「中国製造2025」に対する米国の反応 136
  技術導入@ヨーロッパ 138
  技術導入Aウクライナとロシア 140
  技術導入Bイスラエルほか 142
  技術導入C軍民転換 143
  リバース・エンジニアリングとアメリカの禁輸措置の影響 147
  リバース・エンジニアリングの“ハードル”148
  総括──中国の前に立ちはだかる“壁”151

参考文献 154
おわりに 157

榊 純一(さかき・じゅんいち)
1954年生まれ。東北大学大学院工学研究科修了。80年石川島播磨重工業(現IHI)入社。航空エンジンや車両用過給機(ターボチャージャー)の事業に従事。同社常務執行役員を経て、2021年退職。共著書に『中国空軍』、『中国の核ミサイル・宇宙戦力』、『中国軍事用語辞典』、『中国の軍事力−2020年の将来予測−』など。