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 はじめに(一部)二見 龍

 2007(平成19)年10月、陸上自衛隊の観閲式会場に向かうバスの中で、突然、荒谷1佐から「もう陸上自衛隊で私のやることはありません」と切り出されました。
「えっ」。私は絶句しました。荒谷氏とは、どんな障害があっても、ともに協力して実戦に強い部隊≠作ろうと誓った仲間だったからです。
  私は自衛隊に残るよう引き留めましたが、その決意は固く、話を聞くうちに、荒谷氏の場合、それが自然な流れなのかもしれないと思い始めました。
  荒谷氏は強い男です。自衛隊を離れても一般社会で十二分に活躍できる実力の持ち主です。彼にはもっと広い世界が必要で、外から自衛隊を支えることができる人だと、最後にはその決断に納得し賛同しました。

 機会があれば、退官された荒谷氏と会って、特殊作戦、訓練に対する考え方、実戦で戦い抜くために必要なこと、自衛隊に望むこと、これからの活動について話がしたいとずっと思っていました。
  再会の機会は必ずあると信じていました。意思があれば再会はいつでもできる。しかし、再会は「時」が設定してくれる、その日のために私も、自分なりに新しいことにチャレンジし、荒谷氏を見倣って、自己能力の向上と活動の場を広げる日々を過ごそうと思いました。
  それから12年の月日が流れ、2019年の夏、思いもよらぬかたちで「再会の機会」が訪れました。
  私がミリタリー関連のイベントに参加していた時、突然、声をかけられました。
「二見さんですね。私はこのような仕事をしています」。その人は出版社の社長で、最近の出版活動や自衛隊について話をするなかで、「電子書籍を出されているなら、荒谷元群長と会われたらどうですか」と勧められました。
  私は願ってもない申し出に驚きました。荒谷氏との線が再びつながったのです。すぐに連絡先を教えていただき、荒谷氏が設立したばかりの「熊野飛鳥むすびの里」(三重県熊野市飛鳥町)への訪問が決まりました。
  本書は、自衛隊、明治神宮武道場館長をへて、「むすびの里」を活動拠点として、新たな人生を歩み始めた荒谷卓氏との対談をまとめたものです。

●目 次

はじめに(二見 龍)1

第1章 本物の強さを求めて 9

   殺傷を目的としない日本の武道 9
    自衛隊に戦う覚悟はあるか? 12

第2章 初代群長として目指したもの 18

   軍人であって軍人ではない特殊部隊員 18
    特殊作戦に対する理解不足 25
    特戦群に向いている隊員 27
    訓練基準を超えた訓練 30
    1個チームで師団の機能を果たす 34
    イラク派遣で戦力化が進む 40

第3章 精強部隊を作るには 45

   特殊作戦に必須の民事・心理戦機能 45
    部隊が強くなるかどうかの分かれ道 50

第4章 国を守る戦闘者とは? 61

   合理性・効率性だけではない生き方を貫く 61
    モチベーションの高い人間がリーダーになる 66
    基礎トレーニングは課業外に行なう 73
    ラックサックマーチで体と精神を鍛える 75
    ストレスを「餌」にする 77

第5章 実戦に近づけて訓練する 82

   危険でなくなるまで訓練する 82
    自由意志の対抗戦で実力を高める 90
    実戦形式の訓練 95
    使う側が主導できる装備開発へ 98

第6章 戦える自衛隊を目指す 111

   いちばん敵にしたくない部隊は? 111
    実戦をどう捉えるか? 113
    政治と特殊作戦の関係 118
    陣地攻撃・陣地防御だけでは戦えない 121

第7章 熊野飛鳥むすびの里 128

  「探していた場所はここだ!」128
    武道を通じて日本の文化を世界に伝えたい 135
    休耕田を青々とした稲田に蘇らせる 140
    大調和の発想──神道と武道の本質 144

コラム
同じ時代に最強を目指した40連隊と特戦群(二見 龍)55

   より強い相手を求めて/一般部隊vs特殊部隊/最も充実していた連隊長時代

コラム
唯一無二の精鋭部隊─特殊作戦群(荒谷 卓)104

   なぜ特殊作戦群をつくったか?/特殊部隊と一般部隊の違い/特殊作戦群長の覚悟/
    鍬のひと振りが日本を守る

おわりに(二見 龍)149

荒谷 卓(あらや・たかし)
昭和34年秋田県生まれ。大館鳳鳴高校、東京理科大学を卒業後、昭和57年陸上自衛隊に入隊。第19普通科連隊、調査学校、第1空挺団、弘前第39普通科連隊勤務後、ドイツ連邦軍指揮大学留学(平成7〜9年)。陸幕防衛部、防衛局防衛政策課戦略研究室勤務を経て、米国特殊作戦学校留学(平成14〜15年)。帰国後、特殊作戦群編成準備隊長を経て特殊作戦群初代群長となる。平成20年退官(1等陸佐)。平成21年明治神宮武道場「至誠館」館長。平成30年国際共生創成協会「熊野飛鳥むすびの里」創設。著書に『戦う者たちへ』『サムライ精神を復活せよ!』(並木書房)、『自分を強くする動じない力』(三笠書房)。鹿島の太刀、合気道六段。
HP:http://musubinosato.jp

二見 龍(ふたみ・りゅう)
昭和32年東京都生まれ。防衛大学校卒業(25期)。第8師団司令部3部長、第40普通科連隊長、中央即応集団司令部幕僚長、東部方面混成団長などを歴任し平成25年退官(陸将補)。現在、株式会社カナデンに勤務。著書に『自衛隊最強の部隊へ』シリーズ(誠文堂新光社)、『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)、『弾丸が変える現代の戦い方』(誠文堂新光社)、『警察・レスキュー・自衛隊の一番役に立つ防災マニュアル』(DIA Collection)など。現在、毎月Kindle版(電子書籍)を発刊。戦闘における強さの追求、生き残り、任務達成の方法などをライフワークとして執筆中。
Blog:http://futamiryu.com/
Twitter:@futamihiro