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 はじめに

 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された第125次国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2020年夏季オリンピックの開催地が東京に決まった。冬季オリンピックを含めると、日本での開催は2020年で4度目となる。

  ところで、過去に国内で開催されたそのオリンピックすべてを、自衛隊が支援していたことはご存じだろうか。もっとも記憶に新しい1998年の長野冬季オリンピックで、競技会場の設営を行なう姿をテレビなどで目にした人はいるかもしれない。では約60年前の東京オリンピックでは? 東京大会開催が決まったあと、法律を改正してまで自衛隊の支援が求められたことを、どれほどの人が知っているだろうか?

  防衛庁が陸上自衛隊を中心とした「東京オリンピック支援集団」を組織し、約7000名もの自衛官が訓練を重ねて東京オリンピックの支援に従事したことは、人々の記憶から抜け落ちている。いや、そもそも最初から知られていなかったし、関心を持たれることもなかったのだろう。
  けれど実際は、自衛隊の支援なしにオリンピック東京大会の成功はなかったと断言できるほど、自衛隊が果たした役割は大きかった。それゆえ、4年後の2020年東京オリンピック・パラリンピックでも間違いなく協力を求められる自衛隊の過去の支援業務を知ることは、自衛隊という組織そのものを知ることにもつながる。

  自衛隊がどのような体制でどのような支援を行なったのか、その支援はどう評価されたのか。重量挙げの三宅義信選手やマラソンの円谷幸吉選手は、なぜ自衛官でありながらアスリートでもあり得たのか。ほとんどといっていいほど知られていない事実を、公式記録や支援に関わった自衛隊OBの証言、そして各部隊に残されている資料などから明らかにした。

  本書が自衛隊の活動の一端を知る一助となり、微力ながら国民と自衛隊をつなぐ架け橋の役目を担えれば幸いである。

  なお、本文中に出てくる部隊名はすべて当時のものである。また、隊員の役職、階級は取材時のもので、その後変更があった隊員については現在の階級を付記した



はじめに

第1章 1964年東京五輪に向けて 7

東京オリンピック開催が決まるまで 7
1960〜62年 準備段階 11
1963年 支援部隊の編成 20
1964年 本番に向けて 29

第2章 陸・海・空自衛隊支援 40

式典支援 40
近代五種競技と大賞典馬術競技支援 57
総合馬術競技支援 67
ライフル射撃競技支援 74
クレー射撃競技支援 85
自転車競技支援 89
カヌー競技支援 96
ヨット競技支援 103
漕艇(ボート)競技支援 113
陸上競技支援 122
選手村支援 127
輸送支援 141
航空支援 158
衛生支援 168
航空自衛隊の支援 172
防衛大学校の支援 183
支援集団を陰で支えた行政管理 197

第3章 自衛隊にもメダルを 216

東京オリンピックで得た自衛隊の教訓 216
1964年東京パラリンピック支援 234

第4章 自衛隊体育学校とメダリスト 239

ふたりのメダリスト 239
オリンピック選手の育成 250
自衛官アスリートへの道 259
リオ五輪でいちばんメダルに近い男 265
2020年東京オリンピックを目指す自衛官 271
五輪メダリストが語る体育学校 283
さらなる存続を目指して 293

第5章 2020年東京五輪に向けて 297

始まった自衛隊の取り組み 297
2020年東京オリンピックへの備え 308

おわりに 317

[作者経歴]
渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
千葉県生まれ。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事情報」で自衛隊関連の記事を配信中。