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目 次

 

第一章 屈辱の現憲法 7

 

  現在の日本への脅威 7  隣国の危険な動向 10

 

  元米大統領補佐官の指摘 12  変質する日米同盟 15

 

  米政権の変化 16  江藤淳氏の研究と与えた影響 20

 

  占領下の言論への検閲 22  江藤氏が一石を投じた「改憲ブーム」24

 

  GHQが命じた憲法改正 26  幣原首相の考えた憲法改正 29

 

  白洲次郎の手記 32  長谷川才次社長と時事通信社 38

 

  終戦時の秘話 40  ポツダム宣言「黙殺」の経緯 43

 

  日本政府の重大決定 45 ?「隷属」か「従属」か 48

 

  ちゃんこ鍋憲法 50  国会での追及 52

 

第二章 空疎な憲法の前文 56

 

  日本の国柄が感じられない前文 56

 

  米国の独立宣言前文 59  天皇陛下の地位 62

 

  権威と権力の二分 65  敗戦と天皇 67

 

  村松剛氏が提起した問題 69  社会思想研究会の功績 71

 

  河合栄治郎の天皇論 73  右翼全体主義への批判 77

 

? 「天皇制」という用語の発祥 80  鍋山貞親氏の沖縄講演 83

 

  日本人の「皇室観」85  ポツダム宣言の「無条件降伏」88

 

  大日本帝国憲法の欠陥 92  元老不在の悲劇 95

 

? 「日韓併合」詔書の誤解 98  天皇とマッカーサーの会見 101

 

  天皇の御発言の真相 104

 

第三章 独立国家日本を縛る第九条 108

 

  国際常識に反する法制局の解釈 108  条文解釈の大きな嘘 111

 

  無視されている自衛官の地位と名誉 114  現行法体系では国は守れない 118

 

  憲法第九条への妄信 122  正統化に利用された「吉田ドクトリン」126

 

  保守党の惰性 130  朝日新聞と「吉田ドクトリン」138

 

  吉田茂が晩年に痛感したこと 142  第九条についての吉田茂の考え 146

 

  辰己栄一元陸軍中将の証言 149  本当の保守本流を 162

 

? 「吉田ドクトリン」の真実 167  宮沢内閣と軌を一にした朝日の慰安婦報道 170

 

  普通の国としての軍隊のあり方 172

 

第四章 三度の改憲の好機を逸した 176

 

  国際環境の変化が体制の変革を促してきた 176  国籍不明の前文と現実離れした第九条 179

 

  その後も改憲の好機を逃した日本 182  湾岸危機での辛酸 189

 

  国際社会では通用しない「一国平和主義」192  ないがしろにされてきた国防・軍事 195

 

  阻まれてきた国際社会での日本の義務 200  動き出した安全保障政策の建て直し 204

 

  国際的な常識とずれた反対論 211

 

第五章 最後の改憲のチャンス 214

 

  国際情勢を動かす時代的潮流 214  ポスト冷戦と二一世紀の世界秩序 217

 

  平和的台頭から危険な台頭に転じた中国 223  米国の「内向き」転換とオバマ大統領の失敗 228

 

  不透明な米国の国際問題への関与 235  米中関係は日中関係という教訓 239

 

  危機の時代を生き残るためには 243

 

  あとがき 250

 



あとがき

 

  私は長年にわたって国際政治を勉強してきた。主要な関心事は、国際情勢全体を俯瞰したときに、日本がどの位置にあるかを探ることだ。  戦後七〇年になろうとしているが、その間、国際情勢は何度も大きな節目を迎えたし、日本の国も変化した。旧制中学一年生のときに終戦を迎え、一面焼け野原になった東京を見た私にとって現代の日本は信じられないような経済復興、というよりも別の世界の国家になったような気がする。その焼け野原時代に総司令部(GHQ)から与えられた占領基本法である日本国憲法をどうしても護ろうとしている人々がいる。不思議だし、正直に言ってまともに相手にするのはうんざりする。

 

  年齢のせいもあるのだろう。最近妙に苛立つ。結局、個人・組織・社会・国家が大きく考え方を変えるには衝撃が加わらないかぎり無理だとわかっているのだが、この国はあまりにも鈍感すぎる。国際情勢に基本的な変化が生じているにもかかわらず、それに対応しようとの気運が生まれそうでいて立ち上がれないのである。  どのような変化か。一〇年ほど前には「平和的台頭」をすると公言していた中国が経済力、軍事力ともに米国に次ぐ世界ナンバー2にのし上がり、領土問題などをめぐり周辺諸国との間に摩擦を起こすなど「危険な台頭」を容赦なく進めている。

 

  さらに、日本にとって最重要なのは、戦後一貫して安全保障の命綱であった米国の影響力がまぎれもなく低下してきたという事実だ。それが、オバマ政権だけの一過性のものか、孤立主義的な性格を帯びたものかは軽々しく判断できない。イラクから撤退を完了し、二〇一六年にはアフガニスタンからの完全撤退を発表したオバマ大統領は海外での戦闘に「巻き込まれる」のを極度に嫌っている。  シリアでの内乱に加わりつつ勢力を伸ばした過激なテロリスト武装勢力「イスラム国」のイラク侵略に対抗するため、オバマ政権はイラク、シリアへの介入を余儀なくされている。イラクからシリアへと空爆は拡大しているが、それでも大統領は地上戦闘部隊は投入しないと言い続けている。米国人ジャーナリストの処刑公開などの残虐行為に米国世論は激昂しているが、国を自ら守ろうともしない外国のために米国の若者の血をもう流すわけにはいかないとの「内向き」志向が「外向き」に急転換するとは考えられない。加えて、財政難のシワ寄せは国防費に集中している。米国が単独で世界の警察官の役割を果たす時代は去ったと言っていい。

 

  そこで、日本はどうするのか。個人とは違って国は痛い目に遭ってから、立ち上がったのでは遅い。化石のような憲法は早く脱ぎ捨てないと生き延びられないところにこの国は立ち至ったのだ。だから焦燥感にかられる。  私は憲法の専門家ではないが、社会人になって以来、改憲の信念はますます強まり、その間に接触した人々の影響も受けた。学問的な著作にはほど遠いが、体験的な憲法論をどうしても書きたくなった。一部は昔の、他の一部は最近の駄文も含めて何とか一つの意見にまとめて訴えたかった。とりわけ、国際情勢の変化が日本国憲法をまったく無意味なものにしていることは多くの人々に知っていただきたい。

 

  内容は五つの章に分けた。第一章では、日本人であれば占領下で現憲法を受け入れざるを得なかった屈辱の歴史をいま改めて噛みしめてほしいとの思いを込めた。  第二章は、憲法の頭部に位置する前文がどれだけ日本の国柄を無視した、いい加減なものかを強調した。日本の二千年の歴史がどのような国を形成してきたのか、自虐史観は聞き飽きたから自国の誇りをそろそろ取り戻さなければならないのではないかを説明したつもりだ。

 

  第三章では、敗戦によって事実上の「米国の保護国」に成り下がった日本の病根を指摘した。自ら安全保障に責任を持たず、勝手に「吉田ドクトリン」などと決め込んで、軽武装・経済大国こそが進むべき道だなどという愚かさはもういい加減にしてほしい。  第四章では、改憲のキッカケをつかむ絶対の国際環境がこれまで何度かわが国に訪れたのに、国際情勢への認識不足からそのチャンスをむざむざ逃してしまった例を挙げた。

 

  第五章は、戦後の日本が直面している最大の危機ともいえるこんにち、日本は選択を誤らないでほしいとの祈りを込めた文章にした。  国際情勢は一国の意思ではどうにもならない複雑な要素が絡み合っている。東西両陣営が対立した冷戦時代には西側陣営の指導国家であり、冷戦終焉後はハイパー・パワー(超大国)と言われた米国の目標どおりに国際情勢は動いただろうか。オバマ政権が、中東、ロシア、中国、テロリスト対策で手一杯になり、同盟国、友好国の協力を得なければ対応が困難になっているのを観察すればそれは明らかだろう。その中で日本が生き延びる道は改憲によって日本を取り戻す以外に方法はないのである。向かうべき道は強い日本と米国との同盟強化である。

 

  私が尊敬していた故奈須田敬氏のご子息、奈須田若仁・並木書房社長にはひとかたならぬお世話になった。これもご縁であろう。

 

田久保忠衛(たくぼ・ただえ) 杏林大学名誉教授。昭和8(1933)年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、昭和31(1956)年時事通信社に入社。ハンブルク特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。平成4(1984)年から杏林大学社会科学部(現、総合政策学部)で教鞭をとり、平成22(2010)年より現職。平成17(1993)年に博士号取得。平成8年には第12回正論大賞受賞。専門は国際政治。産経新聞「国民の憲法」起草委員会委員長。国家基本問題研究所副理事長。著書は『アメリカの戦争』『戦略家ニクソン─政治家の人間的考察』『新しい日米同盟』『激流世界を生きて─わが師 わが友 わが後輩」など多数。