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はじめに――この本の内容

 中共がその体制の生き残りをかけて狙っている資源は、貧弱な天然ガス田しか存在せぬ、尖閣諸島のEEZ(排他的経済水域)を含めた「東支那海」などには、ありません。
  それは第一義的にボルネオ島(カリマンタン島)なのであり、また、ボルネオ油田を支配するための足掛かりとしてのスプラトリー(南沙)群島なのです。
  中共指導部はまた、人民解放軍に、台湾を「着上陸侵攻」によって攻略させるつもりも、まったくありません。それは、人民解放軍の装備をちょっと調べてみたら、誰でも納得ができることなのです。それとみなさん、「台湾には有望な油田が無い」という重大な事実を、忘れていやしませんか?

 米海軍が主導して打ち出している「エア・シー・バトル」というコンセプトも、第一義的には、南支那海へのシナ軍の突出を抑止するための深慮遠謀に他なりません。またこれには、ボルネオ北部油田地帯の事実上の守備隊となっている、英連邦軍も無関係ではないはずです。

 では、南支那海方面が、シナにとってそれほどに大事となっているのであるならば、なにゆえに北京は、尖閣諸島などで日本にチョッカイをかけてくるのでしょうか? それには、シナ体制内での権力暗闘が反映されています。シナは、コンパクトにはまとまっていない、大きなアメーバなのです。
  こうした、従来の諸先生の解説書では分かりにくかったアジア戦略地図の機微を、本書において、順を追って、ご説明しようと思います。

 2011年3月いらいの「福島第一原発」の災害は、日支両国の「エネルギー安全保障」の基礎も、根本から揺るがしてしまいました。本書の後半では、自衛隊や海上保安庁がこれから採るべき方策とともに、そのあたりを論じようと思います。



はじめに――この本の内容 2

第1章 「大慶油田」のトラウマ 11

 経済は軍事をただちに圧倒する……ことはない 11
  ロシアの思惑――シナ軍膨張の矛先は、他国へ向けしめよ 14
  事実として東支那海よりも南支那海が熱い 17
  軍隊にとって石油は代替不能な「死活的マテリアル」 20
  シナの最優先目標はボルネオ北部の支配 29
  ボルネオ毛沢東革命の夢 32
「第二の大慶油田」という蜃気楼 41

第2章 出て行くところはブルネイ 52

 中共によるスプラトリー群島〈東侵〉の軌跡 52
  ジョンソン・リーフの海陸戦 69
「天安門」以後 72
  江沢民が人民解放軍からバカにされる? 80
  エネルギー市場の栄枯盛衰 87
  江沢民は人民解放軍に石油利権を与えて懐柔し始める 92
  もうひとつのシナ、もうひとつのインドが生まれる12年後 95

第3章 シナ版「大東亜共栄圏」の悪夢 97

 いかにしてシナの「石油飢餓」は加速されているか 97
  優良油田が1本ヒットするだけで、国家の悩みは吹き飛ぶ 100
  石油飢餓と「反日」のジレンマ 105
「渤海湾大油田」という蜃気楼 110
  羅津港が中共に租借されると新潟県はどうなるか? 113
  ロシアはシナ軍による「樺太回収」を恐れている 116
「大東亜共栄圏のシナ版」という悪夢 121

第4章 「空母海戦」に勝算はあるのか? 129

 米軍の新戦略「エア・シー・バトル」 129
  バックファイアをソ連はシナには売らなかった 132
  J‐20ステルス攻撃機までのつなぎは、H‐6だ 135
  潜水艦なら、米空母を阻止できるのか? 139
  米陸軍と海兵隊には「出番」なし 142
  マラッカ海峡が米海軍によって封鎖される 145
  幻の「対艦弾道弾」 149
  核ミサイルにも出番なし 153
  シナ軍は機雷を撒けるか? 155
  取るに足らないシナ空軍 157
  半端な空母では、最新の対艦ミサイルの餌食に終わるだけ 160
「タラ戦争」(1958年〜1976年)の教訓 162

第5章 原発をいかにして巡航ミサイルから守るか 168

 アメリカ型の軽水炉原発は「ダーティ・ボム」だった! 168
  沸騰水炉の燃料プールに防空の配慮は無かった 171
  対艦ミサイルは弾道弾よりも安価・確実に冷却プールを破壊できる 175
「核攻撃」よりも現実的な「原発空爆」 179

おわりに――シナ軍は弱い。だからどうした? 183

兵頭二十八(ヒョウドウ・ニソハチ)
1960年長野市生まれ。高卒後、北海道の陸上自衛隊に2年間勤務し、1990年、東京工業大学 理工学研究科 社会工学専攻博士前期課程修了。現在は評論家。著書(共著含む)に『あたらしい武士道』(新紀元社)、『日本の戦争 Q&A』(光人社)、『やっぱり有り得なかった南京大虐殺(劇画原作)』(マガジンマガジン)、『自衛隊「無人化計画」』(PHP研究所)、『「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる』(メトロポリタンプレス)、『逆説・北朝鮮に学ぼう!』『ニッポン核武装再論』『陸軍戸山流で検証する日本刀真剣斬り』『予言日支宗教戦争』『もはやSFではない無人機とロボット兵器』『大日本国防史』(以上、並木書房)など多数がある。