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 目 次

〈プロローグ〉ウィキリークスの秘密暴露は情報テロか?

歴史始まって以来の最大規模の機密漏洩
孤独な少年時代、コンピュータに閉じこもった
応援団は左翼、リベラル派が多数
日本では尖閣衝突のビデオが流れた

第1章 日本をめぐる噂と機密のあいだ

日本は「肥満した敗者」
和製キッシンジャーと言われた男
日米関係をぶっ壊す手前まで暴走した民主党政権
普天間問題はどうなるか?
日本から流れ出したテロリスト情報
ウィキリークスをしのぐ本物の情報公開

第2章 ウィキリークスが暴露した超弩級の中国機密

中国人はウィキリークス騒動を知らない
スイスに中国共産党幹部、五千の秘密口座
習近平の秘密って何だ?
中国の爆笑問題
共産主義ではなく共産党主義
北朝鮮は駄々っ子である
チベット弾圧の実態も解明した
中国はネットワーク寸断の破壊能力を持つ
中国とグーグル問題
ウィキリークスにも出なかった内部情報
ならば中国の庶民は何をしている?

第3章 世界は密約と陰謀で動く、日本は友愛と善意で臨む

なぜスパイに美女が多いか?
CIA事件のほうは本物の美女
軽く扱われた日本首相の国連演説
ウィキリークスが明かさない経済問題
中国人民銀行が人民元の国際化にまだ慎重な理由
「円高」は仕掛けられた
「円安」誘導が無理なら財政出動だ
日本の挑戦は欧米にはじき返された

第4章 日米同盟に亀裂、米中同盟は深化

日本にはたいした機密が存在しない
退嬰化するオバマの米国
米国内に広く潜在した社会主義者の勝利
マネーロンダリングに手を貸す欧米金融機関
欧米はタリバン退治に疲弊、そのとなりで中国は鉱区あさり
対日戦争か軍事クーデターかの中国
対等な日米関係はありうるか

第5章 ウィキリークスでここまでわかった世界の裏舞台

欧米大企業の機密が暴かれた
アフリカの独裁者からサルコジに献金?
モスクワで女性ジャーナリスト暗殺
女性自爆テロ軍団の登場
ロシア製武器は市場が縮小されていた
プーチンに逆らったロシア新興財閥の沈没
石油が出るまで声もあげなかったのに?
スーダン分割をめぐる列強と中国の駆け引き
スーダンの深みにはまった中国
銀行を私物化するのも非民主国家の常識
キルギスタンでも中国の陰謀があった

第6章 なぜ日本は弘報(情報戦略)にこれほど脆弱なのか

ゴールドマンサックス、BPと並んでトヨタが「世界三悪企業」?
技術情報もスパイの対象だ
こうやって米国を煙に巻いた
マスコミ操作とマインドコントロール
恐るべきメディアの偏向、扇動、洗脳
次にEU諸国を掻き荒らした中国の手口

第7章 密約・戦争・テロリズム

いつイラン核施設を空爆するのか?
イスラエルに引っかき回される米国
異常なほどの米国のサウジアラビア重視
その時、イラクにアルカィーダはいなかったとウィキリークス
中東はもっと混乱と混沌
ウィキリークスがアフガンの米兵を危険にさらす
米国とパキスタンの相互不信
タリバンは静かに息を吹き返す
NATO軍の転進後に、麻薬シンジケートが復活を狙っている

〈エピローグ〉情報戦争、これからどうなる?

情報戦争の仕掛け人は大組織と既存の体制を憎む
国家安全保障とネットのパラドックス



〈エピローグ〉
情報戦争、これからどうなる?

情報戦争の仕掛け人は大組織と既存の体制を憎む

 アレックス・ジョーンズ(元ニューヨーク・タイムズ記者、ピュリツァーを二回受賞)は情報戦争の未来を次のように予測する。
「米国政府は電子化してしまった文書は漏洩の防ぎようがないということを痛感したはずだ。電子化されたものは必ずハッカーによって盗まれる。何を機密文書とするかよりも、どの情報を電子化して政府機関内で交換できるようにするか、何をそうしないかについて、かなりの注意が必要な時代になったということだ。その意味ではウィキリークスによる今回の外交公電暴露は警告的な事件だ」(「ダイヤモンド・オンライン」二〇一一年一月五日)
ネット上の英雄、異端児、テロリスト? どれも当てはまるようで、しかしジュリアン・アサンジの正体が単なるアナーキストでないことだけはたしかである。彼が憎むのは体制、強大組織、官僚、大企業である。
アサンジがスウェーデンの首都ストックホルムの公園の地下に二〇〇八年に建築した秘密基地(元は核シェルター)は山岳要塞風、内部にはスーパーコンピュータ並みの機材が所狭しと並んでいて完璧な空調設備がほどこされ、宇宙空間のようである。神経を癒す目的なのか、植物が植えられ、人工の滝まである。ミサイル攻撃を受ければ簡単に破壊されるシロモノではあるけれども華麗に見える秘密基地の建設費用は誰が支払っただろう?
膨大な軍資金がなければ不可能である。国際謀略機関の存在が云々されるのも無理はない。
「世界のマスコミからリーク料金を取ってウィキリークスの経営は成り立っている」と豪語していたが、表向きの収支とは無縁の資金のバックがあるはずだ。欧米の一部ではロスチャイルド系列の金融ファンド筋ではないかという噂も流れた。インサイダー取り引きが可能なファンド筋という黒幕説もウォール街やシティではあった。
ウィキリークスを精密に検証したロバート・ライトによれば「現在までに流失した機密情報はアンチ・アンチ・ブッシュ」の立場に偏っており、米国ネオコンの論理に近いと推定される」(「ヘラルド・トリビューン」)。だからそのバックは共和党タカ派とも関係の深いロスチャイルドだという飛躍した噂が発生したのだろうと分析したが、この解析も時期尚早だった。最初の暴露から以後、ブッシュ前政権にとっても「まずい」機密が次々と漏洩したからだ。

 ジュリアン・アサンジは「英米で自伝を出版し、その契約金およそ一三〇万ドルでウィキリークスの維持と裁判費用を捻出する」と発表した。
資金不足を補填しようというわけだが、米国での版元はアルフレッド・クノッフ社、英国はキャンノンゲート社、それぞれが契約金八〇万ドル、五〇万ドルを支払うという。
保釈後、あらためて問題となったことは、ウィキリークスがこれまでに公開した機密文書は入手した二五万一二八七通の外交公電のホンの一部に過ぎず、まだまだ世界が固唾を呑んで待っている機密があることだ。ただし、ガーディアン紙、ニューヨーク・タイムズ紙と悶着を起こしたため、発表の媒体がほかに移行する可能性がある。
また「ウィキリークスのやり方では生ぬるい」とドイツにはOPENLEAKなる新組織が誕生した。パキスタンあたりではウィキリークスが情報源だと詐称する偽情報も跋扈し始め、こうなると世界は複雑怪奇な情報戦争の様相、しばし囮情報、偽造文書、偽情報がマスコミの話題をさらうだろう。
ウィキリークスの情報公開に甚大な被害を受けた各国政府、国際機関ならびに犯罪集団は情報の抑制と被害の最小化に努めるが、ウィキリークスとの取り引きを停止したクレジットカード会社などはアサンジ支持派からの猛烈なハッカー攻撃というOA報復O≠受けた。
「スウェーデン政府のホームぺージに侵入して内容を改竄したり、果てはサラ・ペイリンの個人の口座にも侵入して支払い機能を麻痺。サラ・ペイリンは共和党の前副大統領候補だが、『アサンジは両手が反米の血で汚れた反米スパイだ』とする発言に反発したためだとウィキリークス支持のハッカー集団『冷血22』は言う」(「博訊新聞網」二〇一〇年一二月一〇日付け)

 中国の防諜ぶりについては第3章で詳述した。プーチン独裁のロシアは中国と異なる方法をとったことも特筆に値するだろう。
中国は二四時間、数十万体制でインターネットを監視し、まずい情報をすぐさま削除するから「被害」は少ないが、最近ではネット監視の手が足りず「五毛幇」といわれる官権べったりの軍や警察OBらを雇っている(五毛は一元の半分、つまり権力の走狗)。さらに検索エンジン「グーグル」を撤退させ、共産党御用達の「百度」(パイド)に「陽光作戦」なるキャンペーンを実行させた。
これはインターネット総合企業「騰訊」(テンセント)とソフトウエア大手の「金山」(キングソフト)を巻き込み、「インターネット上の不良・虚偽情報を取り締まる活動」だという。つまり中国は水も漏らさぬ厳戒の防戦態勢で臨んだのだ。
対してロシアのやり方は一八〇度反対、ひたすら当該サイトの破壊である。ハッカーを動員し、発信先のサイト、サーバーを攻撃し破壊するのである。
なるほど。「攻撃は最大の防御なり」の鉄則を守っているわけだ。

国家安全保障とネットのパラドックス

 文豪ゲーテは次のように書き残した。
「きれいごとを言う政治家、理想を唱える革命家に注意しよう。立法者にしろ革命家にしろ、平等と自由を同時に約束する者は、空想家でなければ詐欺師だ」
ウィキリークス事件は二一世紀型情報戦争の幕開けを告げた。
機密の暴露は政治の閉塞を突破し、偽善を同時に暴く機能をもったが、これからの外交の機密のあり方を大きく変えるだろう。それがより安定をもたらすか、あるいは不安のほうが多いか?
情報ネットワークの質が変わることは火を見るよりも明らかである。
第一に外交は、より機密重視となり、より大量の機密文書が作成されることになる。電子化した資料は、かならずハッキングされる。機密は電子化されない方向に進むだろう。
第二に情報産業はより公開制、透明性を求めるようになり、ネット上でのチェック機能が向上する。パラドックスである。
だが一般的な論議ではなく、国家安全保障の脅威はどうなるのか?
人間の歴史始まって以来、売春とスパイは最古の商売である。日本でも忍者集団が活躍した前には山伏、虚無僧、旅芸人、僧侶などが諜報員だった。諜報と謀略で天下をとった豊臣秀吉は日本で最大のスパイマスターだった。
一六世紀のウィーンで英国大使の任務は「誠実に嘘をつくことだった」。次の一世紀には仕事が増え、嘘を拡大し、相手から情報を盗み、代理人をてなづけながら賄賂を渡し、敵客を迎え撃った。手紙はことごとく郵便局で開封された。だから偽情報、囮情報が流行り、情報の真偽を学ぶ複雑な学問も発達し、電話と電報の事態には暗号が普及し、さらにインターネット時代になると速度、量、伝達技術と暗号解読の演算スピードが猛烈に変貌を遂げる。
そして9・11同時多発テロは敵が見えない戦争の時代、中国の規定によれば「超限戦」に突入した。従来の戦争のスタイルは通用しない時代になったのだ。

もしジャーナリストが機密にする情報源を明かしたら、その日から彼、あるいは彼女は情報源を失い失業する。しかしウィキリークスで公電を暴かれた米国外交官に対してなんだか称賛の声が強い。まずユーモアのセンスがあり、修飾語の使い方がうまく、しかも外交官として優れているのではないか、という感想を抱くからだ。ただしウィキリークスがこれまでに暴露した公電の範囲内での話ではあるのだが。
だが公電は大使館から本国へ発信され、そのなかに失敗談を書くはずがないし、罠にはまったことなど上に報告するはずがない。成果を嵩上げし自ら過大評価したがる特性も割り引く必要がある。「奇妙なほどに外交的成果があがったことになり、『米国外交はよくやっているじゃないか』と誤解される」(「タイム」二〇一〇年一二月一三日号)
実際には皮肉な数字が浮び上がった。
ウィキリークスの暴露公電のなかで同タイム誌の数字を用いると、
トップシークレットは 二%
シークレットは   七七%
コンフィデンシャル 二一%
オバマ政権は官庁の無駄を削減するとばかり公務員を大幅に削減したが、この結果、シークレット・レベルを閲覧できる仕事につける公務員の数は一九九六年の四四二〇名から、〇九年には二五五七人に激減した。ところが反比例して秘密レベルの公電の数は激増し、右記期間の対比で七五%増えた。
典型例が日本の政治指導層は「肥満した敗者で、ビジョンがない」との外交公電。これなど米大使館が国務省にわざわざ機密扱いの公電としなくても、周知の事実ではないか。
つまり中味の薄いショートメッセージ的な公電が増え、あまつさえ無駄話的な内輪話やらゴシップが急増したわけだ。
そして米大使から悪口を公電に書かれたカルザイ(アフガニスタン大統領)はカブールを訪問したギラニ(パキスタン首相)と共同会見に応じたときに「あれは若い(経験不足)外交官が書いたもので、信用に値しない。偽物である」と余裕を持って言ってのけた(「ヘラルド・トリビューン」二〇一〇年一二月六日付け)

ニューヨーク・タイムズがウィキリークスからの機密情報の連載を打ち切ったのは、首謀者ジュリアン・アサンジが逮捕されて以来だ。ニューヨーク・タイムズはオバマ政権と相談し、米国の国益を阻害する情報は掲載しない方針に転換したのである。
その分はリークの本家ともいえる英ガーディアンが流し続けて不足を補ったが、後者もまたウィキリークスと対立関係に陥ったことは述べた。
その後、アサンジを英雄視するコンピュータ・キッズらの亜流サイトが同じことを始めた。
リベラルなゆえに思想的波長が合うオバマ政権の存続と民主党の勝利を願っているニューヨーク・タイムズが、オバマ政権から「米国に不利益になる」との圧力があれば暗黙のうちに連載打ち切りの妥協をするのも当然だろう。
これがもし共和党政権下で起きた機密漏洩なら「ディープスロート」も、エルズバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ」も、ニューヨーク・タイムズは言論の自由、国民の知る権利と言って掲載を中断しなかったように(ディープスロートの漏洩はワシントンポストだったが)、掲載を続行したのではないのか。
「イラン攻撃を米国が行なうとすれば中東諸国は反対しないだろうという衝撃的な米国公電や、サルコジ仏大統領が国王のように振る舞う権威主義者という公電がショックというのであれば、いやそれらは既知の事実の範疇に入り、イランの大統領選挙は与党の不正投票の結果だという公電も、自由世界ではほとんどの読者が関知していることであり、これらにニュースバリューがあるという認識がアサンジにあったとすれば彼は国際政治にナイーブである」(ロジャー・コーヘン)
二〇一一年一月一一日、イェーメンを電撃訪問したヒラリー・クリントン国務長官は首都の大統領宮殿でアリ・アブドラ・サレ大統領と昼飯をともにし、「良好は緊密な関係である」と力説した。
大統領宮殿は厳重な警戒体制が敷かれ、ヒラリーは同国での宿泊を回避し、次の訪問国へ向かった。過去二〇年間、米国の国務長官がイェーメンを訪問することはなかった。異例の外交なのである。事前予告をしなかったのは安全のためで、アルカィーダがイェーメン南部に軍事訓練基地を設けテロリストを輩出させているからだ。
イェーメン南部に蟠踞するテロリストは「アラビア半島のアルカィーダ」(AQAP)を名乗り、二〇〇九年一二月二五日に起きた米デトロイト空港行きの航空機爆破未遂事件の犯人がイェーメンで軍事訓練を受けていたうえ、テロ未遂犯が同様に爆発物の操作を同地区で訓練されていたことなど、このまま放置すればイェーメンは「第二のソマリア」になる危険性が高い。
イェーメンは地政学的にもアラビア半島の付け根という重要拠点であり、同時にソマリア海賊対策の対岸の拠点としても重要視されている。米国はイェーメンに合計三億ドルの民生軍事両面の援助を展開した。
じつはヒラリーの目的はウィキリークスが暴露した米国外交文書の「イェーメン南部のアルカィーダ秘密基地を爆撃したのはイェーメン空軍ではなく米軍だった」を釈明するためだった。
ことほど左様に、機密の暴露は米国外交を低下させ、あるいは停滞させ、国家安全に大きな、見えない損害を運び、名前の出た個人の生命を危険にさらしたという意味で、ウィキリークスは巨大な、新しいテロである。世界的規模で外交の進捗を阻害したからである。
「外交や政治に機密はつきものであり、外交の前提であり、これがすべて公開されることになれば国家は機能しなくなる」(バルガス・リョサ「国際ペン」元会長、ノーベル文学賞受賞作家)
テロリストはハッカーにもなりうるが、ハッカーがテロリストになると世界は恐るべき事態となる。ともかく「情報とは何か」「情報戦略とはいかなるものか」の本質的な再考を迫ったのがウィキリークス事件である。

 さてこの跋文を書き終えようとしていたときに飛び込んできた大ニュースは、北アフリカのチュニジアで起きた「ジャスミン革命」。これは歴史上はじめての「インターネット・フリーダム」とアラブ世界が称賛したことだった。
反政府抗議デモは二九日間にわたって繰り広げられ、血の弾圧が強化されていた。ところが反政府勢力がまたたくまに首都を席巻し、二〇一一年一月一四日、ベンアリ大統領は専用機でサウジアラビアへ逃げた。事実上の政治亡命である。抗議デモに対して軍が発砲しなかったからだ。
じつはウィキリークスは、チュニジアの政変の可能性を予告する外交公電をすでに流している。
首都チュニスの米国大使館発外交公電はロバート・コディック大使の報告で「ベンアリ政権の独裁と腐敗がますます進み、かといってチュニジアとの貿易は自由であり、経済活動は活発。欧米はテロリスト対策から、この独裁政権を支援し、対テロ戦争への協力を称賛するという二律背反」と指摘していた。
現実に二〇〇四年に訪米したベンアリ大統領をブッシュ大統領(当時)はホワイトハウスに招き、対テロ戦争への協力をほめ、〇八年サルコジ仏大統領も同様の外交を行なった。
「チュニジアの世俗主義と自由貿易は独裁体制のごまかし。欧米の優柔不断な外交が、二三年にもわたる独裁政治を許したのだ」とアラブ世界は手厳しく指摘。西側のジャーナリストらも「二〇〇九年報告書」では「チュニジアがもっとも危険」としてきた。
チュニジアは過去二三年にわたるベンアリ大統領の独裁が続き、「警察国家」と言われたが、それゆえ表面的には治安が良かった。町のいたるところでベンアリ大統領の肖像が飾られ、あたりを睥睨していた。見えない監視の目がたえず国民を見張っていた。これはイラクのサダム・フセイン独裁下のバグダッドに酷似していた。
ベンアリ独裁政治は終わりを告げた。西側はこれを「ジャスミン革命」と名付ける。アラブ世界は、「チュニジアのインティファーダ(民衆蜂起)はアラブ世界に拡大する」と歓迎した。この政権転覆を明日の我が身と身構えるのはエジプト、リビア、イエーメンそしてスーダン。なかでも二〇一一年一月一日にキリスト教徒がテロの犠牲となって治安が悪化しているエジプトが最悪の危機意識を抱いているだろう。
ところで、ベンアリ独裁政権はインターネットを監視してきた。国民はウィキリークスへのアクセルを閉ざされてきた。二〇〇五年に米国製のソフトを導入し、ネットの情報をモニターしてきた。「OpenNet Initiative」(ONI)と呼ばれる監視ソフトは、中国やイランにも導入されており、チュニジアの監視レベルは中国、イランと同等と言われた。そしてこれらの監視を突き破ったのは留学帰りの学生を中心にツィッターとフェイスブックの普及だったのである。
かくして世界はウィキリークスにより新しい情報戦争に突入した。

宮崎正弘(みやざき・まさひろ)
昭和21年金沢市に生まれる。早稲田大学英文科中退。『日本学生新聞』編集長、月刊『浪曼』企画室長をへて、昭和57年に『もう一つの資源戦争』(講談社)で論壇へ。以降、『日米先端特許戦争』『拉致』『テロリズムと世界宗教戦争』など問題作を矢継ぎ早に発表して注目を集める。中国ウォッチャーとしても知られ、『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ)、『中国ひとり勝ちと日本ひとり負けはなぜ起きたか』(徳間書店)、『上海バブルは崩壊する』(清流出版)、『中国のいま、3年後、5年後、10年後』(並木書房)、『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談。ワック)、『オレ様国家 中国の常識』(新潮社)など多数。ホームページはhttp://miyazaki.xii.jp/