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はじめに

 いま、日本の若者に武士道が受け入れられ、求められていると聞き、大変うれしく思っています。
  武士道というと、なにか恣しくて、堅苦しいもの揩ニ感じている方もいらっしゃると思いますが、じつは武士道は、柔軟性に富み、日常生活に応用・活用することができる素晴らしい日本の英知です。
  私自身、武道家だった父に6歳の頃より武士道精神を学んできましたが、未だに新発見や感動があり、武士道の持つ底知れぬ奥深さを日々感じております。
恚黷楽しむ揩モットーとし、己磨きの求道者として、私自身、いまも修行の真っ最中であります。
  さて、世界は人間の傲慢なるエゴイズムがはびこり、米国発の経済危機によりさらに混沌とした状況に陥っています。そのうえに地球の環境破壊が重なり、まさに人類の真価が問われております。
  国も企業も家庭も、そして個人も、それぞれが自らの力でどう生き抜くか真剣に考えなければならない時代を迎えたと言えるでしょう。まさにサバイバルの始まりです。
  そんな厳しい時代にあって、いまほど世界が必要とする倫理・道徳概念を内包する武士道精神が求められているときはありません。ひとりひとりが天命を知り、使命を自覚し、責任を果たす。この当たり前のことを武士道は教えてくれます。その武士道精神を有した人格・品格・品性を伴った人間力こそが、未来への希望となり、光となる可能性があると確信しています。

 どうか楽しみながら最後までご一読いただき、清濁併呑の広き心をもって何かを感じていただけましたら、幸いに存じます。合掌、 藤岡弘、



目 次

はじめに
序 「目覚めよ! 気づけよ! 覚醒せよ!」
其の一  愛するものを守るために戦う
其の二  武道は勝利を誇らない
其の三  武士道とは己を知り、己を守ること
其の四  死して己を活かす
其の五  愛して、許して、抱きしめろ
其の六  若者よ、自然治癒力を取り戻せ
其の七  たった1%の善玉菌になれ
其の八  愛とは何か、思いやりだ
其の九  私的、公的、天的の違いを自覚せよ
其の十  日本の若者よ、今こそ起ち上がれ。子孫に責任を持て
其の十一 人生は1分前がもう歴史。一瞬一瞬を悔いなく生きよ
其の十二 若者よ、10年かけても良い師を探せ
其の十三 アメリカ陸軍日本人大尉参上
其の十四 たくさん怒られろ、たくさん成長しろ
其の十五 若者よ、まず自分を愛せ
其の十六 愛する者のために、命をかけろ
其の十七 若者よ、人のために涙と汗を流せ
其の十八 人を変えようと思うな。まず、自分が変われ
其の十九 捨てて、勝つ
其の二十 最後の教え
あとがき

 

あとがき

 

「タカーオ、明日、サムライに会いに行くんだが、一緒に行かないか?」
  と、誘われたのは、映画『タイタニック』の監督のジェームス・キャメロンと浅草で蕎麦を食っている時だった。
「サムライとは、どなたですか?」
  俺は訊ねた。
「ヒロシ・フジオカ」
「そりゃ、マジもんのサムライです」
「よし、行こう」
  ということで、翌日、キャメロン監督から、藤岡弘、先生をご紹介いただいた。
  その日、藤岡先生は、ご自分の道場で、キャメロン監督にさまざまな試し斬りの技をご披露された。
  キャメロンは、俺の小型ビデオカメラで、そのすべてを収めて持ち帰った。
  何に使うのか、俺は知らない。
  が、俺は、目の前で見た藤岡先生の技に、完全にとりこになってしまった。
  以来、藤岡先生から電話があると、参上して、雑談する間柄となったのである。

 そして2006年、講談社が男性総合誌『キング』の再創刊を発表。俺はシニアエディターとして、新雑誌の立ち上げに関わることになった。
  その『キング』の企画コンセプトのひとつに「21世紀、日本男児の再生」というものがあった。
  そこで俺は、藤岡先生に「21世紀の武士道」を若者に伝授してもらうという企画を編集部に提案し、採用された。
  早速、藤岡先生に電話。
「おー、コミネ君、いつ、飯を食うかね?」
「じつは先生、今度、新しい雑誌が始まることになりまして……」
  と俺は前述の事情を説明。
  それに対する先生の答えは早かった。
「やろう」
  こうして、連載『21世紀武士道』がスタートした。
  1回目のインタビューは、2006年4月、講談社の敷地内に80年以上の歴史をもつ有名な野間道場で行なわれた。
  その前年に、剣道の初段をとった俺は、剣の師匠である御年80歳を越える老師にその話をしたところ、
「持田十段先生の稽古するお姿を野間道場で拝見したことがあります」
  と言われた。持田十段とは昭和の剣聖として知られた人で、はるか昔、師範のお供で野間道場に出稽古に行った際に持田十段を目撃したというのだ。
  そんな長い歴史の刻まれた野間道場だったが、残念ながら現在は取り壊されてしまった。

 幸いなことに『21世紀武士道』の連載企画は、話がどんどん大きくなり、創刊前にインターネットのWEBに、「藤岡道場」連続ムービー10話を作って発表したのち、連載スタートということになった。
  そのため、雑誌用のインタビューと写真撮影のほかに、10話分のムービーの撮影もあるので、毎回、目の回るような忙しさだった。
  この「藤岡道場」ムービーは、予定通り10話完成。だが、残念ながら諸般の事情で第4話まで配信されたのち、お蔵入りとなり、現在に至っている。
  このムービーの中で披露されている藤岡先生の真剣斬りがマジで凄いんだけど……。

 さて、本書に収録されている道場問答の多くは、その藤岡道場ムービーの撮影の合間に行なわれた。野間道場での撮影が終わると、つぎは藤岡先生の道場に場所を移して問答は続いた。
  撮影でお疲れのはずなのに、藤岡先生からはいつも明快な答えが返ってきた。まさにサムライ魂の塊のような方である。
  そして問答の間じゅう、真剣がつねに先生とともにあった。
  真剣は恐ろしい。俺は最後まで真剣のある環境に慣れることはできなかった。斬られるかもしれないという緊張感の下で、先生を正面にしての問答は、さながら戦場にいるようだった。
  こうして十数回の問答を続けていくうちに、いつしか藤岡先生のサムライ魂が俺自身の体の中にも入ってきたような気がした。まさに入魂である。
  それまで書物で武士モノを読んできたが、やはり、武士道は口伝により、体に刻み込まれるものだということをあらためて知った。
  そこで、読者の方々にご提案である。俺の言葉は無視して、少なくとも藤岡先生の言葉だけは、声に出して読まれることをお薦めする。藤岡先生の神髄がさらに身近に感じられるはずである。これこそまさに「口伝・藤岡流武士道」と言えるだろう。
  武士道とは、日本男児が忘れてはならない大切な文化である。いまは武士道は伏流水のごとく地下に潜っている。だが、21世紀の近い将来、日本人の中に必ず武士道が必要とされ、蘇る時が来るだろう。その時、新たな武士道が芽生え、花開き、やがて深い森を形づくるはずである。本書がそのさきがけになれば幸いである。小峯隆生

藤岡弘、(ふじおか・ひろし)俳優・武道家
1965年松竹映画にてデビュー。1971年「仮面ライダー」で一躍ヒーローに。映画は、「日本沈没」「野獣死すべし」「大空のサムライ」他、TVは、「勝海舟」「白い牙」「特捜最前線」「藤岡弘、探検シリーズ」他、主演多数。1984年ハリウッド映画「SFソードキル」の主役に抜擢され、スクリーン・アクターズ・ギルド(USA)のメンバーとなる。斬(真剣による演武)を行なう武道家としても知られ、柔道、空手、刀道、抜刀道、小太刀護身道他、あらゆる武道に精通。民間ボランティア団体の理事も務め、世界数十カ国の紛争地域、難民キャンプにて救援活動を展開。2005年に芸能生活40周年記念プロジェクトとして歌手活動も開始。CDアルバム「愛こそすべて 合掌、」をリリース。著書に「仮面ライダー=本郷猛」(扶桑社)、「愛と勇気と夢を持て!」(ゴマブックス)、「仮面ライダー本郷猛の真実」(ぶんか社)、「実践・五輪書〜武道を通して学んだ宮本武蔵〜」(ビジネス社)、「熱血・藤岡弘、の人生に喝!」(ビジネス社)、「サムライ学」(アスペクト)などがある。
http://www.samurai-hiroshi.com

小峯隆生(こみね・たかお)
1959年神戸市生まれ。70年代後半から海外で射撃を学ぶ。2001年9月から週刊プレイボーイの軍事班記者として活動。アフガン、イラク戦争に関する特集取材をこなす。軍事技術、軍事史に精通。とくに各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。2006〜08年、講談社「月刊キング」シニアエディター。著書は「人生は一発逆転」(光人社)、「軍曹、特殊部隊に入りたいッス」「ザ・プライベート・オペレーター」(並木書房)ほか多数。日本映画監督協会会員。