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 はじめに
 
 日本は誤解されている。日本人は中国や台湾をよく理解していない。
 このことについて日本人が自覚していないか、自覚していながら何もしないかのどちらかに、台湾人の私には見える。これでいいのかとの思いが、私のなかに日増しに強まっていた。そこでこの本を書き、愛する日本に捧げたい。
 日本に心理的にも地理的にも近い台湾人でさえ日本像を正しくとらえていないことを、日本に来てから痛感した。日本統治時代を経験した戦前世代の台湾人は日本に対して一種の文化的郷愁を持ち、そのフィルターを通して日本を想っている。一方、私のような戦後世代の台湾人は学校で中国人と同じ目線に基づく反日教育を受け、歪んだ日本観を持っている。
 戒厳令の布かれた国民党政権時代、私は大学を卒業するまで台湾無視の完全な中国人化教育を受けた。それは抗日を愛国とする反日教育でもあった。学校の教科書や反日国策映画のなかに出てくる日本人は決まって残虐で、狭量で、そして狡猾であった。映画にはちょびヒゲを生やした傲慢な日本人が必ずと言っていいほど登場する。その人物の滑稽さを誇張することで、日本や日本人を最大限に侮蔑するのが映画の目的だったようだ。
 しかし、戦前生まれの父が、教科書や映画とは逆の日本人像を私に教えてくれた。それは清潔、真面目、滅私奉公、強きを挫き弱きを助ける、凛々しい日本人像だった。
 台湾には「日本精神」(ギップンチェンシン)という言葉がある。それは、台湾人家庭で日本人を表現する言葉でもある。国民党の反日教育に抵抗する気持ちも含まれていたのか、戦前世代の親たちの多くは、日本人すべてが武士道精神を持つサムライであるかのように、子供たちに伝えた。
 こうして、私の世代では反日の学校教育と親日の家庭教育の狭間で、現実とかけ離れた日本観が生まれた。
 一九八七(昭和六二)年四月、私は交流協会の奨学生として初めて日本を訪れた。そこで日本人ほど生命に対して畏敬の念を持ち、自然をこよなく愛する民族はいないのではないかと感じた。日本人はきわめてフレンドリーで寛容的で、そして人に自分の主張を押し付けることのないシャイな民族である。外見も内面も清潔で、台湾人からすれば、非常に好感を持てる民族だった。日本人は学校で学んだ日本人像とは全く正反対の民族だった。だから、日本に着いた瞬間、いつまでも日本統治時代のことを懐かしんでいる父の気持ちが何となくわかった。父たち戦前世代の台湾人は一所懸命、日本人の良さを子供たちに伝えようとしていたのだ。
 それから二〇年あまり日本での生活が長くなるにつれ、現在の日本が、かつての戦前世代の台湾人が懐かしんでいるような日本ではなくなった気がしてならない。今の日本には彼らが憧れてやまない「日本精神」を持ちあわせている日本人は少ない。今の日本には、正義感と冒険心がかなり欠如している。そして、東アジアの平和と安全を守ろうとする気概も失っているように私には見える。日本は自国の防衛にさえ責任感と使命感を放棄し、他人任せにしたままである。それゆえ見たくないものに目をつむり、思考を停止してしまったかのようだ。
 中国という厄介な存在に対する日本の態度は、まさにその典型である。中国は国連などあらゆる場面において、大声で日本の悪口を言いふらしている。それに対して、人の悪口を言わず慎み深い日本は弁解するどころか、ただただ平身低頭謝っているだけに見える。その態度が中国に日本批判の正当性を与え、そのトーンをさらに上げつついろいろ要求し、それに日本が応えるというくり返しである。
 日本の対中国政策は無策に近い。あるいは、まるで中国の宣伝用パンフレットに基づいておこなわれているとしか思えない拙劣さなのだ。賢いはずの日本人がなぜここまで愚かな対中国政策をとっているのか、私はいつも不思議に思う。つまり、日本は中国人の本質を知らないまま中国と付きあっているのだろう。中国は話せばわかる相手ではないということを、日本人は未だに理解していないのだ。日本人は中国のことを知らない。いや、知ろうとしないと言った方が正しいかもしれない。日本にいればいるほど、そう思うようになる。
 中国の本質をわかれば、自ずと日本を含めた東アジアに迫り来る危機を察知できる。そして、その危機を真っ正面から見つめることができれば、国益に準じた有効な対策を取ることができるはずである。
 私は中国的教育を受けた一台湾人として、日本の田舎の一町医者として、また台湾独立建国運動の一参加者として、中国、日本そして台湾の本質とそれぞれ抱えている矛盾と苦悩について、募る思いのまま書き下ろした。それが日本と台湾のためになることを祈りたい。

 


目  次
はじめに

1第1章 台湾から見た中国および中国人  9

お人好しの日本人に中国人の凄さは理解できない
1、中国人はすべてお金に換算して考える  10
2、本当は恐ろしい「医食同源」の思想  16
3、「愛国」という中国人の仮面  25
4、臓器移植は政府と軍のおいしいビジネス  30
5、千島湖事件でわかった中国人の残忍性  42
6、SARS問題で露呈した中国人の欺瞞性  49
7、中国人民解放軍は「核兵器を持つ暴力団」だ  55

第2章 台湾から見た日本および日本人  65

争いを避けたがる日本人に平和は守れない
1、日本人は中国のペットになりたいのか?  66
2、台湾で教えられた正反対の日本像  71
3、孫文と辛亥革命に対する日本人の大いなる誤解  77
4、木を植える日本人と木を伐る中国人  86
5、きれいに死のうとする日本人と死なないようにする中国人  91
6、博学にして無知な日本人  106
7、いまだ滅びぬ日本人のサムライ精神  114

第3章 台湾から見た台湾および台湾人  131

台湾は中国の一地方に過ぎないと自ら教育する矛盾
1、台湾人は漢民族ではなかった  132
2、台湾人と中国人の対日観の決定的な違い  137
3、中華民国は「シナ共和国」であって台湾ではない  145
4、靖国を政治ショーの舞台にしたエセ台湾人  151
5、台湾の大和魂・高砂義勇隊  161
6、靖国問題で台湾を反日国家に仕立てる中国の陰謀  167
7、中国人が台湾に押し寄せる日  174

第4章 悪の元凶・中国帝国主義はこう潰せ!  181

真実を中国人に教えれば中国は内部崩壊する
1、中国への甘い期待を捨てる  182
2、アジアの覇権をめぐる日本・台湾vs中国の戦い  192
3、中国に情報開示を要求せよ!  202
4、中国のデータを検証せよ!  207
5、真実を中国人に知らせれば中国は崩壊する  215
6、中国には人権問題を突きつけろ!  225

第5章 台湾の独立は日本の国益につながる  233

国民党政権の誕生は日本の悪夢の始まり
1、反日派を助け、親日派を挫く日本  234
2、国民党政権なら台湾は中国に傾く  238
3、台湾併合で日本は中国の属国と化す  248
4、台湾の将来は台湾人が決める  252
5、日本は核武装を決断すべきだ  258
6、日本再生の鍵は台湾独立支持にある  264
7、日台共栄圏を構築せよ!  269
あとがき  275 

あとがき

 日本にとって台湾は空気のような存在である。感じられないほど軽く、なくては生きていけないほど重い。
 台湾は日本の生命線ともいうべきバシー海峡と台湾海峡を扼し、その防衛を担当している。しかし、中国や朝鮮半島と違って、台湾はうるさく日本に要求したり、批判したりすることはなかった。それゆえか、日本政府は台湾無視もしくは台湾抑圧の「一つの中国」政策をとりつづけている。
 その台湾が今、中国の武力侵攻の脅威にさらされ、国際社会では孤立無援な状況に立たされている。台湾の内部でも親中国的な勢力に蝕まれ、あらゆる面で中国化が進んでいる。
 台湾に親中国的政権が誕生すれば、その瞬間、台湾は実質上中国の属国になる。日本の生命線も中国に扼される羽目になる。この危機はすでに目の前まで差し迫っているが、多くの日本人はそれに気づいていない。
 この日本の現状を見ていると、私はいても立ってもいられない。その気持ちがこの本を書き下ろす最大の動機だった。
 そして、台湾独立建国運動の大先輩であり人生の師でもある黄文雄先生に、戦後世代の台湾人の視点から台湾・日本・中国の関係を捉え直したものを書いてみたらどうだろうと、勧められたことも本書執筆の後押しとなった。
 しかし、南国気質の私は大雑把で無神経、整理整頓の能力はゼロに近く、時事ものなら何とかこなすことができるが、系統的に一冊の本を書くのはたいへんな作業だった。そのときに助けてくれたのが独立建国運動の同志で親友でもある柚原正敬氏(日本李登輝友の会事務局長)である。
 柚原氏は二〇代後半に出版社を設立した編集のプロであり、几帳面で資料やデータの管理に長けている。私とは正反対の性格である。柚原氏の助力がなければ、本書の誕生はなかった。今回の作業で改めて彼の存在の大きさを認識した。ありがとう、柚原さん。
 本を書く前からいろいろ助言してくれたもう一人の同志がいる。永山英樹氏(台湾研究フォーラム会長)である。彼は柚原氏が設立した出版社に勤めた経験もあり、やはり出版編集のプロである。正義感あふれる彼のサポートがなければ、私の今までの運動はつづけられなかった。本書の出版も彼の友情に支えられてできたものだと思う。
 また、本書出版の機会を与えてくれた並木書房出版部にも感謝する次第である。
 最後に、私のわがままを許し、温かい目で励ましてくれた妻と、手塚麗子さん(塩野室診療所事務長)をはじめとする職員、患者さんたちにも感謝したい。

林 建良(りん・けんりょう)
1958年、台湾台中市生まれ。1987年、交流協会奨学生として来日し、東京大学医学部博士課程を修了する。医学博士。栃木県で地域医療に携わる傍ら、世界台湾同郷会副会長、台湾団結連盟日本代表、メールマガジン「台湾の声」編集長、台湾独立建国聯盟日本本部国際部長、日本李登輝友の会常務理事として活動し、また自らが名付け親である「正名運動」も展開中である。台湾独立建国運動の若手リーダーである。

正名運動: 在日台湾人の外国人登録証の国籍記載を「中国」から「台湾」に改正する運動。のちに台湾独立運動の主流になる。

「台湾の声」http://www.emaga.com/info/3407.html