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はじめに(一部)

 前著『青の翼 ブルーインパルス』(2022年)のコンセプトは、「日本の空は空自が守り、日本人の心はブルーインパルスが守る」だった。「日本人の心」はブルーインパルスが守るとわかったが、「日本の空」を守るには空自が強くなければならない。では、その強さはどこから生まれるのだろう。
  元教導隊長の山田真史空将の言葉が脳裏によみがえった。
「私らは、裏のブルーインパルスなんですよ」
  確かにブルーインパルスはその技量を観衆に披露することで次代の空自パイロットを勧誘する。飛行教導隊(現・飛行教導群)は全国の戦闘飛行隊を巡回して、空戦テクニックを教え、強化する。まさに仮想敵機部隊である「アグレッサー部隊」が、空自の戦闘機パイロットたちを育てているのだ。
  残念ながら、アグレッサー部隊が実際に教導する様子を見ることはむずかしい。基地の柵越しから離着陸する戦闘機を見ることができても、教導隊のブリーフィングや列線の様子などは取材できないだろうとあきらめていた。
  2023年1月24日、インド空軍のSu‐30戦闘機が茨城県の百里基地に飛来し、同基地所属の第3飛行隊のF‐2戦闘機と共同訓練が始まるという。しかも、そこに4機の教導隊機も参加する……。
  教導隊を列線で取材できるチャンスが筆者にめぐってきた。これまでの「翼シリーズ」でつねに取材を一緒にしてきたカメラマンの柿谷哲也氏とともに百里基地に向かった。(中略)
  筆者が、飛行教導隊の創設から現在の飛行教導群までを一冊の本にすると伝えると、本村教導隊長の顔が引き締まった。
「今年の夏頃、部隊に取材に行く予定で、いま調整中です」
  これまで誰も書いたことのない飛行教導群「アグレッサー部隊」の全歴史を明らかにしようと思う。これまで四冊の「翼シリーズ」を世に出したが、五冊目となる本書はまさに空自の本丸に乗り込むことに等しい。
  ここからアグレッサー部隊の歴史をたどる旅が始まる。

目 次

はじめに 1

飛行教導隊/飛行教導群小史 20

第1部 栄光の教導隊 23

 第1章 教導隊の基礎を作った男──増田直之 24

教導隊の根っこにある精神/F‐104との出会い/今につながる教導隊のスタイルを確立/米海兵隊F‐4部隊を納得させた最強コンビ

 第2章 T‐2 AGRのエース──酒井一秀 38

エースの血脈をつなぐAGR/F‐104の最後を見届ける/「赤い翼」の誕生の瞬間/「F‐15を何度か追い詰めたよ」/四国沖の日米決戦/教導隊の恐ろしさ/未来のAGR/「壮絶T‐2教導隊」

 第3章 AGRを知り尽くした男──神内裕明 62

AGRに計四回勤務/それでダメなら仕方ないというタイプ/教導隊のすごさを思い知らせる/教導隊の根っこにある精神/理想的な教導隊と飛行部隊の関係とは?/飛行教導隊司令の役割/F‐16を全機撃墜/意見の違いを受け入れる/次はF‐35Aステルス機か?

 第4章 大事なことはすべてAGRで学んだ──山田真史 90

第一印象は「ものすごく怖い」/ヘリパイ希望からファイターへ/戦闘機の面白さに目覚める/「AGRに行こうなんて絶対に思わない」/ウェポンスクールで教導隊と訓練/「こいつなら仲間になれる」/教導隊初日/若手メンバーだけで戦技を開発/第306飛行隊長へ/再びAGRへ/教導隊と飛行隊の真剣勝負/叶わなかった願い

 第5章 AGRに捧げたパイロット人生──揖斐兼久 126

タックネームは「アイビー」/AGRからの誘い/「教導隊の漬け物石」/AGRに捧げた戦闘機パイロット人生

 第6章 素晴らしきAGRでの日々──西小路友康 138

アイビーの推薦で戦技係長へ/サイコロがダイスになった日/幕僚経験でわかった指揮官のすごさ

 第7章 最強のアグレッサー部隊 151

飛行教導群の組織/教導隊が使用したT‐2練習機/教導隊が使用するF‐15戦闘機/飛行教導訓練の実際/教導のルーツはアメリカにあった/アグレッサー・パイロットを維持する意味

 

第2部 教導隊復活の歴史 173

 第8章 伝説の天才パイロット──森垣英佐 174

知られざる教導隊の闇の歴史=^森垣さんがAGRに呼ばれた理由/教導隊は実戦のつもりでかかっていく/教導隊がやられる時もある。そんな時は……/複座は空戦を強くする/百発射撃して92発命中

 第9章 最強の教導隊2番機──山本忠夫 201

おじさんの跡を継いで戦闘機乗りへ/教導隊で徹底的に鍛えられた/教導隊流「空戦術の極意」/失われた翼/第三の事故/T‐2からF‐15教導隊へ/教導隊はなくならない

 第10章 F‐15教導隊の基礎を作った男──西垣義治 224

『教導隊秘伝の書』/西垣さん発案の機動解析「DBSS」/西垣グリップ

 第11章 それでも怖い教導隊──竹中博史 235

「上から目線」の教導隊は嫌いだった/「わざと負けたら、教導にならないですよ」/竹中さんが感じた教導の限界

第3部 空自を支える飛行教導群 249

 第12章 飛行教導群に期待すること──内倉浩昭空幕長 250

「諦めた時が負ける時だ」/畏敬される存在になって欲しい

 第13章 ウェポンスクール教官──第306飛行隊 261

空自の未来戦力を鍛え上げる──高橋功嗣1尉 261

「AGRのオーラはすごかった」/AGRの好敵手「ウェポンスクール」

空飛ぶカラス天狗──緒方翼1尉 272

ウェポンスクールで能力的に鍛えられた/AGRとの勝率は半々?/「1対1のガチな空戦訓練をやりたい」

 第14章 飛行教導群(AGR)283

優しさ溢れる強面の飛行班長──外園光一郎3佐 283

我々がほぼ全勝する……/戦闘機パイロット最高の逆転人生/論理的に納得させて教える/AGRの経験値を部隊に役立てたい

常に理想を追求する──本村祐貴2佐 296

上智大学出身の新任教導隊長/常に理想を追求している姿を見せる/インド空軍との共同訓練の結果は?/変化し続けるAGR/F‐15DJの次の教導機は?

変えるべきところは変えていく──小城毅泰1佐 312

レベルの違いを感じて、ひたすら訓練/日々前進して改善していく/未来の教導隊

 終章 AGR「車と釣り」の真実──酒井さん再び登場 325

「あとがき」に代えて
すべては『ガラスのジョー』から始まった 331

小峯隆生(こみね・たかお)
1959年神戸市生まれ。2001年9月から週刊「プレイボーイ」の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼ブルーインパルス』(並木書房)ほか多数。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。
柿谷哲也(かきたに・てつや)
1966年横浜市生まれ。1990年から航空機使用事業で航空写真担当。1997年から各国軍を取材するフリーランスの写真記者・航空写真家。撮影飛行時間約3000時間。著書は『知られざる空母の秘密』(SBクリエイティブ)ほか多数。日本航空写真家協会会員。日本航空ジャーナリスト協会会員。