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はじめに

 今でも大切に保管している1枚の写真。
  第9戦車大隊の74式戦車の装?手用ハッチから上体を出し、満悦の笑顔を浮かべる少年。
  小学6年生の私だ。
  もちろんこの時、この8年後に今度は第9戦車大隊の戦車乗員としてこの席に着くことになろうとは想像もしなかった。
  自衛隊生徒として陸上自衛隊少年工科学校(現・陸上自衛隊高等工科学校)に入校し、卒業後は機甲科職種に進んで富士学校機甲科部が実施する機甲生徒課程(TSC:Tank Student Course)に入校した。当時、90式戦車は第7師団の第71戦車連隊に配備完了、第72戦車連隊に配備が始まった時期で、74式戦車はまだ第71戦車連隊を除く全国の戦車部隊で主力戦車として活躍していた。
  機甲生徒課程では74式戦車と90式戦車、2車種の操縦・射撃・整備教育を受けたが、教育内容の配分としては74式戦車の教育訓練のほうに比較的多く時間を配当されていた。陸上自衛隊の機甲科職種はまだまだ74式戦車の乗員を必要としていたのである。
  機甲生徒課程修了後、生徒後期教育で部隊実習先となった部隊は岩手県滝沢市の岩手駐屯地に所在する第9戦車大隊。後期教育修了後はそのまま同大隊に正式配属となった。
  第9戦車大隊の装備する戦車は74式戦車。岩手出身の私が生まれ育った地で任務に就ける。第9戦車大隊はまさに私にとって郷土部隊だった。希望が叶って配属が決定した時は喜びを感じつつも身が引き締まる思いであった。
  部隊配属後の日々は常に74式戦車とともにあったといっても過言ではない。第9戦車大隊在籍中は74式戦車乗員であり続けたからだ。
  各種訓練や整備、時には演習……。汗と埃と油にまみれながら奮闘した日々。
  0・1秒でも速く砲弾を装?するにはどうしたらいいか常に考え、機敏な装?動作を追求した。
  泥濘地、積雪地、夜間、長距離行進。困難な状況を走破した時は操縦手として自信につながった。
  戦車射撃は初弾必中。1発で敵を仕留めなければこちらがやられる。射撃技術を向上させるために教範や資料を頭に叩き込み、時には先輩に教えを乞いながら「一射入魂」の精神で砲弾を撃った。
  装?、操縦、射撃、単車指揮。もっと上手くなりたいという向上心、誰にも負けたくないという意気込みが戦車乗員を成長させる。
  厳しくも充実した日々。私は74式戦車の乗員であったことを誇りに思っている。
  この本は私が知る74式戦車のすべてを、自分の愛車を自慢するような気持ちで綴った。
  読者の皆様には陸上自衛隊の歴史に残る傑作戦車、74式戦車の実像と、その乗員たちの息づかいを感じていただけたら執筆者として望外の喜びである。

 

目 次

はじめに 1

第1章 74式戦車の開発 13

戦後二代目の国産戦車「74式戦車」/なぜ74式戦車が開発されたのか?/STBの開発着手、各種試験を経て制式化へ/強力な105ミリ戦車砲を装備/レーザー測遠機・弾道計算機の装備/砲安定装置の採用/暗視装置による夜間戦闘能力向上/姿勢制御機構の採用/新型変速操向機による操縦性向上/潜水渡渉能力の付与/装甲防護力

第2章 74式戦車のメカニズム 25

砲塔部の構造 25

105ミリ戦車砲/74式車載7・62ミリ機関銃/12・7ミリ重機関銃M2/74式60ミリ発煙弾発射筒/砲塔の装甲/射撃統制装置/視察装置/投光器(照準暗視装置投光器)/砲俯仰、砲塔旋回機構/砲安定装置/無線機および車内通話/砲塔内各種装備/乗員用座席/後部バスケット

車体部の構造 46

エンジン・変速操向機/油気圧式懸架装置・姿勢制御機構/走行関係各種装置/操縦席/潜水補助装置/車体部装甲/車体部各種装置

第3章 戦車砲・各種火器の射領 65

野外照準規整(ボアサイト)/105ミリ戦車砲の射撃/74式車載7・62ミリ機関銃の射撃/12・7ミリ重機関銃M2の射撃/74式60ミリ発煙弾発射筒の射撃/個人装備火器と下車戦闘/射撃後の武器整備(砲通し・銃整備)

第4章 74式戦車の各型式 77

さまざまな74式戦車(各型、部隊ごとの特殊な仕様)/92式地雷原処理ローラー装備型/78式戦車回収車/87式自走高射機関砲/91式戦車橋/評価支援隊所属車/市街地戦闘用/演習対抗部隊用/創意工夫資材を用いた小改造/わずか4両の74式戦車改(G型)/74式から90式へ、そして10式に受け継がれたもの

第5章 ナナヨン乗りへの道 94

戦車乗員養成教育/自衛官候補生/一般曹候補生/高等工科学校生徒/一般幹部候補生/筆者が進んだ「機甲生徒課程(TSC)」

第6章 74式戦車乗員の役割とその動き 103

戦車乗員の役割/装?手──ルーキーとはいえ、その責任は重大/操縦手──常に考えながら戦車を動かす/砲手──一撃必中を追求! 戦車の実質的中心となる乗員/車長──乗員や状況を掌握しつつ戦車を動かす難しさ

第7章 戦う74式戦車、その戦闘と戦術 117

戦闘における戦車部隊の編成/74式戦車の攻撃要領/さまざまな攻撃要領──敵を全車撃破!/「まさか、この急斜面を登るのか?」/74式戦車の防御要領/陣地進入と警戒/敵発見!防御戦闘/実際の対戦車陣地/74式戦車の戦術/74式戦車出動す

第8章 「常在戦場」を意識せよ! 136

戦車部隊における訓練 136

射撃訓練/実動訓練/検閲/陸幕指命演習

車載火器、小火器の射撃訓練 143

戦車装備火器射撃訓練/小火器射撃訓練

より実戦的な戦闘訓練 146

富士訓練センター(FTC:Fuji Training Center)/AC‐TESC/北海道訓練センター(HTC:Hokkaido Training Center)/米国射撃訓練──海を渡った74式戦車/CTC(Combat Training Center)訓練/市街地戦闘訓練

第9章 ナナヨン乗りの声を聞け! 156

最後の瞬間まで74式戦車を扱いきる──第9戦車大隊長 工藤真一2等陸佐 158
私の愛してやまない戦車です──第1中隊長 佐々木保元1等陸尉 163
74式戦車は機甲科人生そのものです──小隊長兼車長 田邉陽介3等陸尉 170
まだまだ現役で戦える戦車──砲手 岸根佑弥3等陸曹 176
「育ててくれてありがとう」──操縦手 佐々木理絵陸士長 179
「1秒でも速く装?できるよう心がけています」──装?手 松田多玖也陸士長 185

第10章 新戦力「16式機動戦闘車」191

16式機動戦闘車は74式戦車の代替たり得るか?/陸上自衛隊は機動戦闘車に何を求めるか

各状況下における16式機動戦闘車の行動 193

島嶼部に対する侵略事態対処/ゲリラや特殊部隊による攻撃等対処/想定される活躍の場

各状況で共通する課題 203

協同戦闘の重要性/C4I能力の充実/74式戦車を継ぐ

 

第11章 機甲新時代の先駆者に聞く 209

16式機動戦闘車の戦い方──第22即応機動連隊機動戦闘車隊長 花山佳史2等陸佐 210
日々訓練するしかない──小隊長兼車長 島田篤史3等陸尉 214
いかに相手を先に制するか──砲手 橋谷田友洸3等陸曹 218
「安全運転で迅速な運転を心がけています」──操縦手 及川皓行3等陸曹 221
74式戦車に携われた最後の世代──装?手 佐藤健太3等陸曹 224

 

資料編 栄光の74式戦車部隊史 227

戦車部隊の編成/戦車北転事業の申し子、独立戦車中隊
74式戦車装備部隊紹介 229
富士学校機甲科部(1954年〜)230
第1戦車団(1974〜1981年)230
第1戦車群(1952〜2014年)231
戦車教導隊(1954〜2019年)231
第1機甲教育隊(1962〜2019年)232
機甲教導連隊(2019年〜)233
部隊訓練評価隊評価支援隊戦車中隊(2002年〜)233
西部方面戦車隊(2018年〜)234
第2戦車連隊(1954年〜)234
第71戦車連隊(1961年〜)235
第72戦車連隊(1954年〜)235
第73戦車連隊(1956年〜)236
第1戦車大隊(1954〜2022年)237
第3戦車大隊(1954年〜)238
第4戦車大隊(1954〜2018年)238
第5戦車大隊(1954年〜)239
第6戦車大隊(1954〜2019年)240
第8戦車大隊(1962〜2018年)240
第9戦車大隊(1962年〜)241
第10戦車大隊(1962年〜)242
第11戦車大隊(1962年〜)242
第12戦車大隊(1962〜2001年)243
第13戦車中隊(1962年〜)244
第14戦車中隊(1981〜2018年)244
第7偵察隊(1957年〜)245

コラム?三色旗と縁起 75
コラム?演習場での譲り合い──ハンドサイン 101
コラム?戦車乗員に欠かせない「人間の感覚」115
コラム?戦車隊員にとって非常に有効な「砂盤」155
コラム?二人の曹長の思い出 188
コラム?観閲行進 206

参考文献 246
おわりに 247

伊藤 学(いとう・まなぶ)
1979(昭和54)年生まれ。岩手県一関市出身、在住。岩手県立一関第一高等学校1年次修了後、退学し、陸上自衛隊生徒として陸上自衛隊少年工科学校(現、高等工科学校)に入校。卒業後は機甲科職種へ進み、戦車に関する各種教育を受け、第9戦車大隊(岩手県・岩手駐屯地)に配属、戦車乗員として勤務。2004年、第3次イラク復興支援群に参加。イラク・サマーワ宿営地で整備小隊火器車輌整備班員として勤務。2005年、富士学校機甲科部に転属、砲術助教として勤務。2008年、陸上自衛隊退職。最終階級は2等陸曹。現在、航空・軍事分野のカメラマン兼ライターとして活動中。著書に『陸曹が見たイラク派遣最前線─熱砂の中の90日』(並木書房、2021年)。