立ち読み   戻る



 はじめに(一部)

 2007年9月6日朝、私はイスラエルの軍事担当の記者数人と、ある衛生科司令官(准将)のブリーフィングを受けるため、イスラエル中部にあるイスラエル国防軍(IDF)の基地に招かれていた。
  司令官は衛生技術の進歩と前年のレバノン侵攻から学んだ戦訓をどう活用しているかについて説明した。
  その時、謎の事件が発生したとして私たちの携帯電話が鳴り始めた。シリア政府の報道機関、SANA(シリア・アラブ通信社)が、シリアの防空システムがイスラエル軍機を駆逐したと短い発表をしたという。
  私たちは何が起きたのか説明するよう司令官に迫った。司令官は、もしそれがイスラエル軍機なら、おそらく作戦は重要なものだっただろうと口ごもりながら答えた。
  それから何日か過ぎ、この夜に起きたことの真相が語られるようになると、私たちは欺かれたことを知った。IDFの広報部は私たち記者を衛生科のような後方部隊のブリーフィングへ行くよう意図的に仕組んだのである。すべてはシリア北東部で何が起きたか、記者の目をそらすために……。
  これ以降、私はこの事件の虜になった。数年かけて細部が明らかになるにつれ、この事件はイスラエルだけではなく全世界にとって非常に重要なものであることを確信した。イスラエル情報機関による原子炉の発見、アメリカ政府への情報提供、長引く閣議と首相の決断、イスラエル軍機の鮮やかな攻撃、世界の目を欺く欺瞞工作……等々、冒険映画に必要な素材はすべて揃っていた。(ヤーコブ・カッツ)

目 次

はじめに 2
第1章 秘匿された原子炉攻撃 5
第2章 「シリア核科学者」急襲作戦 20
第3章 同じ間違いはできない 47
第4章 「原子炉攻撃」再び 79
第5章 時計の針は進む 110
第6章 オルメルトの戦い 137
第7章 攻撃のとき 158
第8章 アサドは何を考えるか? 188
第9章 開戦の準備 212
第10章 モサド・CIAの秘密作戦 231
第11章 イラン危機を見据えて 251
脚 注 273
訳者あとがき 280
解説 イスラエル諜報史上に残る極秘作戦(国際政治アナリスト 菅原 出)

ヤーコブ・カッツ(Yaakov Katz)
『エルサレム・ポスト』紙編集主幹。シカゴ出身。イスラエル経済相とディアスポラ(海外在住ユダヤ人)担当相の上席政策顧問、ハーバード大学の講師を務める。2013年ハーバード大学ニーマン・ジャーナリズム財団で研究。現在エルサレムで妻のハヤと4人の子供と暮らす。共著書に『Weapon Wizards(兵器の天才)』と『Israel vs. Iran』がある。
茂木作太郎(もぎ・さくたろう)
1970年東京都生まれ、千葉県育ち。17歳で渡米し、サウスカロライナ州立シタデル大学を卒業。海上自衛隊、スターバックスコーヒー、アップルコンピュータ勤務などを経て翻訳者。訳書に『F-14トップガンデイズ』『スペツナズ』『米陸軍レンジャー』『欧州対テロ部隊』『SAS英特殊部隊』(並木書房)がある。