立ち読み   戻る  


編著者まえがき

 私の居住するカリフォルニア州サンディエゴには、映画『トップガン』の舞台となったアメリカ海兵隊ミラマー航空基地がある。ここでは毎日のようにオスプレイが飛行・離着陸訓練を実施しており、私の自宅からもその姿を見ることができる。基地周辺には大学や病院・医療施設、それに多数のバイオテクノロジーやIT企業の研究施設が集中しており、また屈指の高級住宅地も点在している。このような地域の上空を毎日幾度もオスプレイが飛行しているにもかかわらず、オスプレイの安全性はまったく問題視されていない。

  もっとも、オスプレイは開発段階でトラブルに見舞われ、アメリカでも一時は安全性の問題が取り沙汰されたことがあった。しかし現在はオスプレイの事故について原因究明は行なわれるが、だからといって特に安全性がマスコミなどで問題視されることはない。それに比べて日本では沖縄の普天間基地にオスプレイが配備されるということで、多くのマスコミがオスプレイの危険性をあおり立て、日本国民に“オスプレイ恐怖症”を植え付けてしまった。

  このような差はなぜ生ずるのだろうか? それはアメリカ国民の大多数は、過去の危険性神話に縛られず、海兵隊がアメリカの防衛にとって欠かせないことを認めており、海兵隊が必要とするオスプレイはアメリカ国民にとっても必要だと考えているからである。ところが日本では、アメリカ海兵隊が日本の防衛にとって必要不可欠であるということに対する理解が欠けているのである。

  本書では、アメリカはじめ日本以外の国々では問題視されていない安全性についてではなく、なぜアメリカ海兵隊およびオスプレイが日本の防衛に必要なのかについての説明を試みた。


はじめに オスプレイはなぜ必要か? 13

第1章 日本の水陸両用戦能力 22
―アメリカ海兵隊第V海兵遠征軍―

島嶼国家防衛の鉄則 22
水陸両用戦能力 22
島嶼国家の水陸両用戦能力は防衛力である 28
人道支援・災害救援と水陸両用戦能力 32
水陸両用戦能力を欠く日本 35
「トモダチ作戦」の教訓 37
水陸両用戦能力の欠落を埋めるアメリカ海兵隊 40

第2章 海兵隊の新しい“靴”46
―MV-22Bオスプレイ―

緊急展開軍としての海兵隊 46
MAGTF(マグタフ)47
アメリカ海兵隊の機動力 58
CH-46EからMV-22Bへ 63
第V海兵遠征軍のオスプレイ配備計画 66

第3章 オスプレイの安全性 76
―100%安全な航空機はない―

オスプレイの危険神話 76
オスプレイの実戦配備 81
災害救助にも威力を発揮 87
オスプレイの安全性とは? 93
安全性か?必要性か? 98
オスプレイが必要な理由 104

補足:水陸両用戦の類型 108

第4章 V-22オスプレイ・ガイドブック 113
―米海軍航空システムコマンド編

海兵隊総司令官からのメッセージ 114
V-22オスプレイの任務 116

1:V-22オスプレイのバリエーションと役割 118
2:海兵隊のビジョンと戦略・2025年 119
3:MV-22BとCV-22の作戦記録 122
アフガニスタン「不朽の自由作戦」2009年11月〜現在 123
水陸両用作戦 海兵遠征隊(MEU)2009年5月〜現在 125
水陸両用作戦「オデッセイの夜明け作戦」2011年3月 126
ハイチ「統合対応作戦」2010年1月 128
「イラクの自由作戦」2007年10月〜2009年4月 130
負傷者後送任務 132
「オスプレイの人命救助作戦」2010年6月 135
「不朽の自由作戦」負傷者移送作戦(CASEVAC)2010年3月〜10月 136
「イラクの自由作戦」2009年7月〜11月 137
南方軍「オスプレイの人道支援」2009年6月 139
多国籍合同軍事演習「フリントロック09」2008年10月?11月 140
救助要請に応答するCV-22 142
4:V-22オスプレイの俗説と現実 143
5:継続的に改良されるV-22オスプレイ 153
6:V-22オスプレイの主要データ 156
7:V-22オスプレイの設計の特徴 157
8:アメリカ海兵隊MV-22Bオスプレイの特徴 160
9:アメリカ空軍特殊部隊CV-22オスプレイの特徴 161
10:オスプレイの操縦室と航空電子機器 164
11:オスプレイのペイロード・システム 166
12:オスプレイの人員収容と離脱 169
13:オスプレイの自動操縦機能 171

資料1:オスプレイの高い生存性 172
資料2:オスプレイの艦載適合性 176
資料3:オスプレイの開発史 178
資料4:CH-46EからMV-22への移行 186
資料5:研究と分析―V-22の優れた能力 187
資料6:V-22の作戦能力 189

北村 淳(きたむら・じゅん)
東京生まれ。東京学芸大学卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務める。戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は、戦争&平和社会学、戦略地政学、国家論。“本物(戦うという意味)の軍隊”に入り込んでフィールドリサーチを実施する経験を持つ数少ない日本人の戦争&平和社会学者。武士道研究も専攻の一つで、アメリカ海兵隊と武士道の関連性についても論じ、海兵隊とのパイプは太い。米国シンクタンクでアメリカ海軍アドバイザーならびに拓殖大学客員教授などを務める。現在、軍事コンサルタントとしてサンディエゴ在住。日本語著作には『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房出版)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『グローバル・トレンド2025―変貌する社会』(訳書・並木書房)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)などがある。