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はじめに

  私は、かつてアメリカ海軍特殊部隊シールズ(Navy Seals)に所属し、世界中で多くの特殊作戦に参加した。現役引退後、シールズのスナイパー課程の教官となり、スナイパー課程の改革に取り組んだ。

 その改革の過程で、過去の、私の大先輩にあたるシールズスナイパーの活躍を知る機会に恵まれ、それらを研究した。そして彼らの活躍から優れた部分を抽出し、理論・体系化した。まさにシールズの歴史、犠牲の結晶が、新しいスナイパー課程であるといっても過言ではない。

  私が創設した新しいスナイパー課程から、すでに多くのスナイパーが誕生している。彼らはすでに世界中の戦場やテロとの戦いで活躍している。その彼らこそが、私の経験と研究の集大成である。

  私は、スナイパーの教官として、頻繁にアフガニスタン、イラクへ行く。そこでは、私の「教え子」たちの銃に多くのキルマーク(狙撃成功の数を印したもの)が描かれているのを見ると、スナイパーこそ、21世紀の戦場において求められる重要な兵種のひとつであることを確信した。

  スナイパー教官、そして、スナイパーの先輩として、彼らの活躍を見ることほど、うれしいものはない。彼らも自分の経験を後輩に伝え、スナイパーは、今後ますます重要な役割を担って行くようになるだろう。

 本書を執筆するにあたり、私は、狙撃について貪欲に知りたい読者の1人として、付近の書店を何軒もまわってみた。書店には、狙撃、スナイパーライフルに関する書籍がたくさんあり、それぞれ非常に面白いのだが、何か1つ欠けているものがあるような気がしてならなかった。それは、執筆者のほとんどが、戦場経験がないことである。それゆえ、具体性に欠けるというか、説得力がなかった。喩えるなら、医師免許を持っていても、実際に患者を治療したことのない医者の話のようで、そのような医師をあなたは信用するだろうか?

  私は幸運にも、同じシールズスナイパーであるグレン・ドハルティの協力を得ることができた。彼はシールズで私のスポッター(スナイパーの戦果判定などをする者)で、アフガニスタン、イラクの戦場をともにしただけでなく、引退後は、私とともにスナイパー課程の改革に取り組んだ。もちろん、彼自身も優れたスナイパーであり、彼の助力がなければ、本書は完成しなかっただろう。

 私は、冷酷な殺人者といった、今まで誤解を受けていたスナイパーのイメージを払拭したいと考えている。実際のスナイパーは、知的で忍耐強く、高度な技術を持った戦士である。

  また、スナイパーは、大部隊の、攻撃部隊の補助といった考えも改めたいと思っている。アフガニスタンやイラクで活躍しているスナイパーは、単独で行動し、まさに一騎当千、1人で大部隊の動きを封じているのだ。

  このような現地でのスナイパーの活躍に加えて、スナイパーライフルおよびスナイパーの装備についても紙数を割いた。最新技術によって生み出された光学機器により、戦場の様相はまったく変わってしまった。軍事機密に関するものを省きながらも、できうる限り最新の訓練方法やレーザーなどの機器について解説している。

  また、スナイパーの歴史についても解説している。これから先10年のスナイパーの位置づけ、意義などを考える際、過去のスナイパーの活躍について考察を加えることは非常に有効であり、重要なことである。名称や地名などはっきりと分からないものもあったが、できうる限り調査し、解説している。


  戦場のスナイパーとは、いまだに捕らえられていない連続殺人魔のように、たった1人で広大な戦場を恐怖に陥れることができる。


  本書以外に、スナイパーの実用的な点について解説している書籍はないと自負している。



CONTENTS

はじめに 

Part1 21世紀の狙撃術  

第1章 21世紀のスナイパー 
第2章 ボルトアクションライフル 
第3章 セミオートマチックライフル 
第4章 スナイパーライフルのメカニズム 
第5章 最高のスナイパーライフル 
第6章 弾道学の基礎
第7章 サプレッサーの構造
第8章 スコープの調整
第9章 レーザーシステム
第10章 スナイパーの装備
第11章 スナイパーのモラル
第12章 新時代のスナイパー

Part2 スナイパーの歴史

第13章 スナイパーの誕生
第14章 進化するスナイパー
付録A スナイパーデータチャート
付録B 初速比較表
付録C エクスバル弾道表


訳者あとがき

 本書は、元SEALsスナイパーのブランドン・ウェッブとグレン・ドハルティ両氏による「21st century Sniper(21世紀のスナイパー)」の全訳である。

  著者であるウェッブ氏の「まえがき」を引用して恐縮だが、同氏が本書を執筆するにあたり、書店にスナイパーに関する本を探しに行ったように、訳者である私も同様に書店にスナイパーに関する本を探しに行った。

  私の感想もウェッブ氏と全く同様で、日本には、いわゆる「伝説のスナイパー列伝」のような書籍はあるものの、戦場におけるスナイパーとは何か、現在の軍隊におけるスナイパー性格やその運用方法などを解説しているものは皆無であった。もちろん、それらの書籍は非常に面白いのだが、情報が第2次大戦やベトナム戦争の話が主体で、現在、戦闘が行なわれているアフガニスタン・イラクのスナイパーを想像することが非常に難しかった。

  スナイパーといえば、多くの人が、ジャングルに身を潜め、粗末な銃で一撃必殺を繰り返す「職人」のイメージを持つであろう。しかし、本書によると、21世紀のスナイパーとは、アフガニスタンの山岳地帯からイラクの雑踏の中まで、あらゆる戦場で、最先端の技術を駆使して狙撃を成功させる最強の兵士であることがわかる。それはあたかも、画家が絵筆を使って感動させるような絵画を完成させるがごとく、スナイパーは最新のスナイパーライフルや光学機器を使って、敵を恐怖に陥れるのだ。

  元SEALsスナイパーである2人の著者の最新の調査研究に基づき、アフガニスタン・イラクで戦っているスナイパーの使う銃器や戦術、さらに真にスナイパーが必要とするシステムや光学機器だけでなく、優れたスナイパーになるためのヒントが本書には数多く収められている。とくに弾道コンピュータに関する記述は刮目に値する。

  しかも単なるスナイパー技術だけでなく、歴史上スナイパーとはどのように誕生し、どのような進化を遂げたかなど、スナイパーの歴史を解説している点は、スナイパーの本質を知る上で、非常に有効となるはずである。

  本書は、実際に軍隊や警察などの法執行機関で狙撃部隊に所属している方はもちろん、銃器マニア、ゲーム愛好者にも、満足する情報を提供していると確信している。





ブランドン・ウェッブ(BRANDON WEBB)
アメリカ海軍特殊部隊SEALsにて13年間特殊作戦に従事。最終階級は一等軍曹。SEALs隊員として、アフガニスタン、イラクなどの戦場で特殊作戦に従事したのち、スナイパー課程教官となる。教官として、近代的なスナイパーを養成する訓練課程の確立に尽力し、その後イラク北部で情報収集作戦に従事。カリフォルニア州サンディエゴにて、SEALsの戦術および訓練を研究する機関「ウィンドゼロ・グループ」の代表を務める。現在、自身の戦場体験や狙撃技術、SEALsに入隊する前の自伝を執筆中。

グレン・ドハルティ(Glen Doherty)
SEALsに9年間従事。スナイパー課程ではブランドンとともに教官を務めるだけでなく、特殊部隊衛生学校で学び、衛生下士官でもある。SEALs戦術のエキスパートであり、世界中でさまざまな特殊部隊および特殊作戦の教官も務めている。休日はユタ州のワサチ山麓やサンディエゴ北部の保養地で家族と過ごす。現在、ウェッブ氏が代表を務めるウィンド・ゼロの副代表である。

友清 仁(ともきよ・ひとし)
1974年生まれ。長野県在住。サラリーマンをへて実務翻訳者となる。公官庁などの依頼により、軍事・防衛・治安関連の技術資料、論文を多数翻訳。とくにアメリカ軍の装備・兵器の動向に詳しい。訳書に『最新SASサバイバルハンドブック』(共訳)、『最強軍団アメリカ海兵隊』(いずれも並木書房)がある。