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はじめに

 本書は、月刊誌「コンバットマガジン」(ワールドフォトプレス刊)に、1988年から連載中の図解シリーズ「ミリタリー・コレクション」の中から、テーマ別にピックアップし、加筆・訂正のうえ再構成したものです。同シリーズを連載開始以来、370回を超える「長寿作品」に育てていただいたのも、多くの読者、ファンの皆さんのご支持のおかげです。
  同シリーズは、これまで『大図解・世界の武器(第1、2巻)』(グリーンアロー出版社刊)として単行本化しましたが、第2巻の刊行から10年以上が経過し、読者の方々から「第3巻はまだ出ませんか?」とのご要望が寄せられていました。そこで、この続編となるものとして完成したのが本書です。前作は武器や装備品などを中心に紹介しましたが、今回はより多様なテーマを選んで構成してみました。いかがでしょうか?
  カバーのイラストは、映画『地獄の黙示録』の一場面で登場したプレイメイトとイラクで活動中のアメリカ軍兵士との組み合わせです。いつも硬いミリタリー・メカものばかり描いているので、たまには柔らかい曲線の美女を描きたくなりました。
  さて、僕が主要な仕事である兵器や軍用車両、軍用機、艦艇など、いわゆる「ミリタリーもの」のイラストレーションを描くうえで、心がけていることのひとつが、対象を正確に、さらにこれまで描かれていなかったものや部分も描くことです。このための資料収集や取材は作品制作の「命」でもあり、また、可能なかぎり実物に接することが、とても大切であると思っています。
  欧米では兵器やミリタリーの分野に対する考えが、日本のそれとは大きく異なり、いわば歴史の一部と捉え、コレクションあるいは趣味としての「カルチャー」が確立されていています。イギリスでは「The War & Peace Show」という世界でも最大規模のミリタリーのイベントが毎年、開催されており、以前これに行った方から「すごいイベントで、上田さんも行けば2〜3年分のネタには困らないほどの取材ができますよ」と聞かされていました。それ以来、ぜひ一度は行ってみたいと思うようになり、ついに2008年、このイベントへの参加が実現しました。
  実際に行ってみると、そこはミリタリーファンにとっての「ワンダーランド」で、僕がこれまで描いてきた兵器や兵士がほんとうに出現した世界だったのです。ドイツ軍、アメリカ軍、イギリス軍に扮した参加者たちが、それぞれのキャンプを張り、コレクター所有の戦車や軍用車両が走り回り、また1日1回は空砲を使っての模擬戦を繰り広げていました。さらにヨーロッパじゅうのミリタリーショップも出店しており、すべてを見るのはできないほどの品物があふれ、なかには装甲車両さえも商品として売りに出されていました。イベントでのリアルな光景と圧倒的な量に驚くばかりで、取材どころではなく、ただただ会場を歩き回り眺めて過ごした数日間でした。
  このような実物を見る機会があるたびに僕が思うのは、それをもとに正確に、忠実に描くことにとどまらず、本物に接してわかる質感や存在感、というか、空気をもイラストの中に再現したいということです。欧米のコレクターやマニアは、銃砲や戦車などの装甲車両もライセンスがあれば(それに経済的余裕があれば)、実物を所有できるのは羨ましいかぎりです。僕も資料やコレクションとして軍装品や装備品を集めてきましたが、その多くは押入れにしまい込んだままで、直接、仕事に必要な資料の本が増える一方で、コレクションはますます奥に押しやられていました。昨年、仕事場を広い所に移したのを機会に、コレクションも整理しようと思っているのですが、ダンホール箱の中の品々は、いまだ手つかずでコレクター失格の状態です。しかし、これらが再び陽の目を見るべく、現在「第2次世界大戦の世界の軍服」を1冊の本にまとめたいと考え、この制作に着手したところであります。
  僕はこれまで、タミヤ、バンダイ、アオシマ等々、多くのメーカーで、戦車、航空機、兵士、ロボットやキャラクターもののプラモデルのパッケージ用イラストを描かせていただいていますが、本来、プラモデルという商品の一部であったイラストが、近年「ボックスアート」と呼ばれ、独立した絵画作品として注目されるようになったのは、この分野で仕事をしているひとりとして、とてもうれしいことです。
  2006年に静岡で開催されたボックスアート展では僕の作品も紹介され、さらに2010年には、出身地である青森の県立美術館で開かれた「ロボットと美術」という企画展に併せて、同県出身のイラストレーターとして「上田信のイラスト世界〜ミリタリー、キャラクターから図解まで〜」という個展を開催していただきました。思わぬかたちで故郷において、今までの僕の仕事の一部を披露することになり、多くの地元の友人、知人も足を運んでくれました。イラストレーターという「商業画家」としては、美術館で個展を開くとは望外の喜びであり、開催にご尽力いただいた関係者、ご観覧いただいた方々に、あらためて感謝しております。
  この個展の会期中、来場された方から「あのボックスアートが最初に作ったプラモデルです」とか「コンバットバイブルのイラストを参考にギリースーツ(狙撃兵などが使用する個人用偽装網)を自作しました」とか、昭和40年代後半に発行された僕がイラストを描いたドイツ軍の軍装解説書を「今でも大切に持っています」という話をうかがいました。いずれも30〜40才代の方々で、そんな話を聞くと、僕もずいぶん長いこと仕事をしてきたものだとあらためて実感しました。
  最近の社会や身の回りの技術革新は、イラストレーションの世界も例外ではなく、コンピュータ・グラフィックス(CG)が、絵の制作の有力な手段になっており、これを利用して制作する若い世代も増えています。ずっと手描きでやっている僕も、最近よくその違いを質問されたりします。たしかに図面から三次元化した正確な形の再現など、CGならではの技法がありますが、手描きでこそ表現できる重量感や迫力は、まだまだCGに負けないつもりです。
  これからも「アナログおじさん」の僕は、有名な芸術家のフレーズを拝借して「手描きは爆発だ!」の熱い気持ちをイラストの中で表現していきたいと思います。
  2011年12月                       上田 信





 



はじめに 2
1 リボルバーの歴史を作ったパイオニア 6
2 最強を目指したリボルバー 8
3 小型拳銃の代名詞デリンジャー 10
4 アメリカの精神を具現する名銃 12
5 多用な武器で戦われた南北戦争 14
6 特殊任務のための秘密兵器 16
7 第2次世界大戦の軍用リボルバー 18
8 再評価される軍用拳銃 20
9 軍用拳銃のベストセラー「ガバメント」 22
10 今も愛用される「ガバメント」24
11 現用拳銃を代表するSIGシリーズ 26
12 スパイの必携アイテム「消音拳銃」28
13 SMGの傑作「トンプソン」30
14 二度の大戦を戦ったドイツのライフル 32
15 セミ・オートマチック・ライフルの傑作 34
16 ドイツH&Kの現用ライフル 36
17 狙撃銃のレティクルパターン(照準用刻線38
18 スナイパーライフル 40
19 大口径スナイパーライフル 42
20 ソ連軍の狙撃銃と女性狙撃手 44
21 アンチ・マテリアル・ライフル 46
22 ショットガンのメカニズム 48
23 現用コンバット・ショットガン 50
24 小型サブマシンガン 52
25 ブルパップタイプのアサルト・ライフル 54
26 カラシニコフ・ライフル 56
27 M203グレネードランチャー 58
28 多様化するグレネードランチャー 60
29 革新的だったガトリングガン 62
30 今も現役、ブレン軽機関銃 64
31 ドイツ軍機関銃チーム 66
32 アメリカ軍の軽機関銃 68
33 RPG-7対戦車擲弾発射筒 70
34 携帯対戦車/対空火器 1 72
35 携帯対戦車/対空火器 2 74
36 ドイツ軍の対空火砲 76
37 ルガーP08用ホルスター 78
38 各国軍のマップケース 80
39 アムニションボックス 82
40 各国のメスキット(第2次大戦時)84
41 フィールドキッチン(第2次大戦時)86
42 アジア各国軍の新型ヘルメット 88
43 朝鮮人民軍兵士の装備 90
44「ブラックホーク・ダウン」の米軍特殊部隊 92
45 耐爆防護服(EODスーツ)94
46 第1次大戦時の塹壕と障害構成 96
47 よみがえる『COMBAT!』98
48『COMBAT!』世代の銃器 100
49 かつて考えられていた未来戦兵士 102
50 戦場の動物戦士たち 104
51 形態を変える兵器たち 106
52 軍用小型車の傑作「ジープ」108
53 兵士を救う「野戦用救急車」110
54 第2次大戦の米軍輸送車両 112
55 M2/M3ハーフトラック 114
56 ティーガーT重戦車の内部構造 116
57 敵をあざむくデコイ戦車 118
58 戦場を疾駆する高速攻撃車両 120
59 即応部隊の主役「ストライカー」122
60 黎明期の記録を作った航空機 124
61 爆撃任務にも使われた「軍用飛行船」126
62 米軍の輪送ヘリコプター 128
63 特殊作戦用ヘリコプター 130
64「空飛ぶ装甲車」Mi-24攻撃ヘリ 132
65 第2次世界大戦の潜水艦 134
66 潜水艦乗組員のユニフォーム 136
67 戦国時代の足軽と火縄銃 138
68 幕末に輸入された拳銃 140
69 日露戦争の陸戦兵器 142
70 日露戦争の連合艦隊旗艦「三笠」144
71 日露戦争時の海軍軍装 146
72 初の国産「八九式中戦車」148
73 帝国陸海軍の九九式兵器 150
74 陸海軍の零式/百式兵器 152
75 陸海軍の一式兵器 154
76 栄光の戦闘機「ゼロ戦」156
77 陸海軍の二式兵器 158
78 陸海軍の三式兵器 160
79 陸海軍の四式兵器 162
80 陸海軍の五式兵器 164
81 体当たり攻撃に散った陸海軍機 166
82 護国の楯となった特攻隊員 168
83 日本軍の対戦車肉薄兵器 170
84 硫黄島の日米両軍の兵器 172
85 世界最初の空母機動部隊 174
86 終戦時の日本海軍残存艦艇 176
87 核軍備の幕開けとなった原水爆実験 178
88 建艦技術の粋を集めた「大和」180
89 架空戦記にも登場するハイブリッド艦 182
追悼 元グリーンベレーの日本人軍曹 184
追悼 歴史考証画家のパイオニア 186
90 陸上自衛隊の戦闘服 188
91 陸上自衛隊の小銃 190
92 陸上自衛隊の小型火器 192
93 最新10式戦車と国産戦車 194
94 海上自衛隊の輸送艦艇 196
95 海上自衛隊の潜水艦 198
96 日本の海を守る巡視船艇 200
97 航空自衛隊主力戦闘機 202

上田 信(うえだ・しん)
1949年生まれ。青森県出身。昭和30年代に小松崎茂氏に師事。1966年『月刊「少年ブック」』でデビュー。以後、雑誌や単行本、プラモデルのタミヤ、バンダイなど各社の「ボックスアート」で幅広く活躍。世界各国の軍服や装備品を多数コレクションしており、アメリカやヨーロッパの軍事博物館巡りやミリタリーイベントにも参加。射撃や模擬戦を経験し、趣味を活かした兵器や戦闘シーンの緻密な描写には定評がある。著書に『WW2ドイツ軍兵器集』(ワールドフォトプレス)、『大図解・世界の武器』(グリーンアロー出版社)、『コンバット・バイブル』(日本出版社)、『USマリーンズ・ザ・レザーネック』(大日本絵画)、『戦車メカニズム図鑑』(グランプリ出版)、『図解 ドイツ装甲師団』『図解・ソ連戦車軍団』(いずれも並木書房)など多数あり、韓国や台湾でも翻訳出版されている。