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目次自衛官の制服(その意義と制度の基礎知識) 3

1 陸上自衛官の制服 9
戦闘服装[一般用] 10
戦闘服装[装甲用] 14
単車服装[偵察用] 15
戦闘服装[空挺用] 16
戦闘服装[レンジャー訓練時] 18
戦闘装着セット[一般用] 19
個人用防護装備[化学器材] 20
戦闘服装[航空用] 22
常装[男性] 24
常装[女性] 26
礼装 28
甲武装 29
乙武装 30
作業服装 31
特別儀仗服装 32
特別儀仗演奏服装 34
通常演奏服装[冬服・夏服・乙服] 35
警務・保安部隊隊員の服装 36
その他の特殊服装[消防服装・
調理服装・衛生服装] 37
陸上自衛隊の戦闘服の迷彩パターン 21
簡易制服 27
正帽・略帽 28
戦闘帽(作業帽)・部隊等識別帽 31
個人用小火器 38

2 海上自衛官の制服 39
常装[男性] 40
常装[女性] 44
常装[海曹候補者用] 46
礼装 47
甲武装・乙武装 48
作業服装 49
航空服装 50
救難員の服装[救難用装備品] 52
航空機搭乗員の救命装備品 54
航空整備服装・消防服装 55
戦闘服装[艦艇乗員用] 56
輸送用エアクッション艇服装 58
立入検査服装 59
潜水服[EOD用] 60
陸上戦闘服装 61
通常演奏服装 62
簡易制服 45
外套・雨衣 46
正帽 47
略帽・作業帽・部隊等識別帽 49
防火服(OBA) 59
防暑服装 61
制服と礼式 64

3 航空自衛官の制服 65
航空服装 66
航空服装[ブルーインパルスの展示
飛行時] 70
パイロットの救命装備品 71
救難服装 72
整備服装 75
消防服装 76
迷彩服装 77
常装[男性] 78
常装[女性] 80
礼装 82
甲武装 83
乙武装 84
作業服装 85
通常演奏服装 86
航空ヘルメット 69
展示飛行時のブルーインパルス整備員 70
救難用装備品 74
簡易制服 81
正帽・略帽 82
作業帽・部隊等識別帽 85

4 防衛大学校学生・防衛医科大学校学生の制服 87
防衛大学校の学生・常装・校内服 88
防衛医科大学校の学生・常装・校内服 90

資料篇
陸上自衛官の階級章 92
陸上自衛官の部隊章 94
陸上自衛官の職種き章 97
陸上自衛官のき章等 98
海上自衛官の階級章 100
海上自衛官のき章等 104
航空自衛官の階級章 106
航空自衛官の部隊章・き章等 108
陸海空自衛官共通のき章等 110
防衛大学校・防衛医科
大学校の学生のき章等 110
防衛記念章・防衛功労章 111
自衛官の人事制度(職務と服装の関係) 113
自衛隊制服小史(服制とユニフォームの変遷) 117


自衛官の制服
その意義と制度の基礎知識制服の意義
 
 日本は世界的に見ても、さまざまな制服あるいはユニフォーム(Uniform : 原語はラテン語で「Uni=単一の」「form=形式」を意味する)が、官民を問わず多用されている国であろう。中高校生の学生服が身近な例であるように、日本では「制服」と呼ばれる衣服を着たことが一度もないという人は、むしろ少ないはずである。
 制服とは、ある組織や集団に所属する人が着るように定められた一定の様式の服装であり、学校ならば校則、企業では就業規則などによって、着用すべき衣服が定められている。
 公務員の場合は、省庁や機関の特定の職員に対して、制服の着用が法令によって規定されている。制服を着用する公務員としては、自衛官、警察官、海上保安官、消防官、刑務官、入国審査官、入国警備官、税関職員、検疫官などが挙げられる。
 これらの職員は、警察官に代表されるように、国家権力の行使を本体とする職務に従事することから、その権限を有することを、活動する場所において、また国民一般から容易に識別させるため、制服を着用させることとしているわけである。
 したがって、法令により定められている制服または、これに類似するものを、その資格がないにもかかわらず、用いると、軽犯罪法(第1条第15項)により拘留または科料に処せられることになる。
 このように公務員の制服着用には、権限を具現するものとしての意義があるわけだが、本書が紹介する自衛官の制服については、さらに違う性格もある。自衛隊は軍隊と同様の組織・機能をもつ武装集団であることから、その構成員である自衛官の制服は、旧軍隊や諸外国軍隊の軍人の制服、すなわち「軍服」の範疇に入るものと位置づけることができるからである。
「軍服」には、衣服本来の目的である「身体の保護」という機能はもちろん、「任務遂行の支援」「敵味方の識別」「存在の表示」「団結の象徴」「統制の斉一」などの目的が加わる。自衛官に制服が定められているのも、これらの要素にその意義があると考えてよいだろう。
 自衛官の多くは、入隊時に初めて制服に袖を通したときのことをよく記憶しているという。「身も心も引き締まり、自衛官になったことを自覚した」と述懐する人も多い。制服とは、着用者に「職務に対する誇り」をもたらすというのが、もうひとつの大きな意義であろう。

自衛隊の「服制」
 防衛庁・自衛隊は、防衛庁設置法および自衛隊法(いわゆる防衛2法)によって設置されている組織であり、自衛隊の任務や行動、その管理や運営については、すべて関係する法令に基づいて実施されている。自衛隊にも制服やユニフォームについても、これを定める制度があり、この制度を「服制」という。
 服制は、自衛隊法(昭和29年:法律第165号)の第33条に「自衛官、予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補、防衛大学校の学生、防衛医科大学校の学生、その勤務の性質上制服を必要とする隊員の服制は内閣府令で定める」とされ、その細部は自衛隊法施行規則(昭和29年:総理府令第40号)の第16条から第20条までに規定されている。
 服制の目的は「自衛官に対しては、一定の制服を定め、自衛隊に属する者を容易に識別するとともに上下の階級を明示し、もって自衛隊の統制を全うしようとするため」とされ、「自衛官の服制」「防衛大学校および防衛医科大学校の学生の服制」「予備自衛官の服制」に区分されている。
「自衛官」とは、特別職国家公務員として採用され、17区分の階級(113頁参照)を与えられている者である。また、防衛大学校および防衛医科大学校の学生も特別職国家公務員の身分が与えられており、予備自衛官は、非常勤の特別職国家公務員とされている。
 ところで、一般に「自衛隊員」というと、制服を着た者だけと思われがちだが、陸上・海上・航空の各自衛隊および陸上・海上・航空の各幕僚監部に勤務するすべての者は、防衛庁の職員(自衛官ならびに事務官、技官および教官)であるとともに自衛隊員なのである。このほか、防衛庁本庁の内部部局や統合幕僚会議事務局、防衛大学校など、各自衛隊以外の組織・機関に勤務する自衛隊員もいる。つまり、自衛隊員とは、防衛庁・自衛隊職員の総称なのである。
 自衛官以外の事務官や技官などの職員には、統一された制服はなく、特に指定された作業服などを除き、たいていは一般の公務員と同じように私服を着用して勤務している。つまり、自衛隊員のうち、制服を着用するのが自衛官ということができる。
 さて、服制において、自衛官が定められた制服などを着用することについて、具体的に規定しているのが「自衛官服装規則」(昭和32年:防衛庁訓令第4号)である。
 それには「制服等の着用心得」(同規則第3条)として「自衛官はこの訓令の定めるところに従い、正しく制服等を着用し、服装および容儀を端正にし、自衛隊員としての規律と品位を保つように努めなければならない」と定めるとともに、服装の種類などの原則的な条項が示されている。
 さらに陸海空自衛隊では、「達(各自衛隊ごとに発せられる通達)」として、それぞれ個別に「陸上自衛官服装細則」「海上自衛官服装細則」「航空自衛官服装細則」が設けられ、自衛官服装規則の実施にあたって必要な事項、つまり各自衛隊によって異なる服装の種類(用途別の分類)や区分(冬服、夏服の分類)、その着用品(被服類、階級章などのき章類)と、着用要領などを定めている。ここでいう「服装」とは、被服およびその付属品の総称で、制服のほか、き章類(92〜112頁参照)も含まれる。

自衛官の服装の種類
 自衛官服装規則では、自衛官の服装を12種に分類している。この目的や用途別の種類の概要は次のようになっている。

笊常装:名称のとおり、通常の勤務時や隊務において着用する、一般的に「制服」または諸外国の軍隊の服制では「勤務服」などと呼ばれる服装で、冬服と夏服(第1種、第2種、第3種)がある。自衛官のもっとも基本的な服装である。
笆第1種礼装・笳第2種礼装:礼装は拝謁、参賀のために皇居に出入りする場合、公の儀式への参列、または公の招宴に出席、外国の機関または文武官を公式に訪問する場合、表彰される場合、その他、儀礼上、必要がある場合に着用する。礼服用階級章をはじめ、専用の着用品が規定されている。ただし、この服装は幹部自衛官(3尉以上)および准尉のみのもので、曹士の場合は次の笘通常礼装となる。

笘通常礼装:常装(冬服・第1/第2種夏服)に白手袋を着用するもので、幹部、曹士とも共通で、部隊での儀式などではこの服装を用いる。
笙作業服装:通常の訓練や各種作業時に従事する場合の服装で作業服上下、作業帽、半長靴または作業靴、また季節や天候によっては、防寒や防雨雪のために作業外被などを着用する。
笞甲武装:部隊ごとで公の儀式に参列する場合、警衛勤務時などの服装で、常装に拳銃帯または弾薬帯(弾帯)、必要に応じ鉄帽(ヘルメット)などを着用する。

笵乙武装:戦闘訓練など野外での訓練時などの服装で、作業服装に拳銃帯または弾薬帯(弾帯)、必要に応じ鉄帽(ヘルメット)などを着用する。

笨特別儀仗服装:国賓の来日などに伴う歓迎式典などで行われる栄誉礼および儀仗などの儀礼を「特別儀仗」という。この任務は陸上自衛隊第302保安中隊に与えられており、同隊の隊員が特別儀仗を行う場合に着用する(32頁参照)。

笶特別儀仗演奏服装:特別儀仗における音楽演奏の任務は、陸上自衛隊中央音楽隊に与えられており、同隊の隊員が特別儀仗時の演奏を行う場合に着用する(34頁参照)。
筐通常演奏服装:陸海空自衛隊の中央音楽隊をはじめ各音楽隊の隊員が、公の儀式や式典、演奏会での演奏時に着用する。冬服と夏服が用意されている。

筺演奏略服装:陸海空自衛隊の音楽隊の隊員が、公の儀式や式典以外での演奏時(一例では部隊内の行事や音楽隊が地域での広報活動の一環として行う演奏会など)に、当該音楽隊長が必要と認める場合に着用する服装で、常装に飾緒などの着用品を加えたものである。

笄特殊服装:通常以外の勤務や任務の特性上、それに必要な機能や仕様を備えた被服などの着用品や付属する装備品などを加えた各種服装の総称で、代表的なものの一例としては、戦闘服装、航空服装などが挙げられる。陸海空自衛隊ごとの職種、職域(114頁参照)、また用途や目的によって多種多様なものがあり、それぞれの特徴や特色がもっともよく表れている服装である。その種類や着用品などの細部についてはそれぞれの「服装細則」に規定されている。種類については別表(@AB)に示したとおりである。
 以上が、笨特別儀仗服装と笶特別儀仗演奏服装を除き、陸海空自衛官の服装に共通した分類である。それぞれの種類や区分ごとの着用品と、その詳細については、陸海空の各種服装の項で解説する。

服装の付属品
 制服姿の自衛官を実際に間近で見たことがある人は、その制服の上衣に、いろいろなワッペンやバッヂのようなものが装着されているのに気がつくにちがいない。これらは自衛官服装規則上、「き章等」と呼ばれる着用品で、制服を構成する一部に位置づけられている。
 陸海空の別なく自衛官の制服に必ず装着されているき章類は、上衣の襟、肩、袖のいずれかにある「階級章」と、正帽や略帽の正面にある「帽章」である。このほか、所属を示す「部隊章」や、隊員個人の職種や職務、特技や資格を示す各種の「き章」、隊員の経歴や功績を示す「防衛記念章」などが、装着されているのを見ることができる。
 き章類の種類はたいへん多く、それらを着用できる資格や区分も細かい規定があるが、その種類と詳細については、き章類の項で解説する。

制服の貸与
 陸海空自衛官になるための採用制度には、幹部候補者のコース、曹候補者のコース、任期制自衛官のコースなど、さまざまなコースがあるが、これらの募集案内のパンフレットなどの資料には、自衛官の待遇に関して、給与、福利厚生の内容などとともに「被服、食事などの貸与または支給」との記載がある。
 陸海空自衛官あるいは防衛大学校や防衛医科大学校の学生などとして採用された者が、指定の教育部隊や学校に着隊(校)すると、入隊(学)式に先立つ準備期間の最初に、身体検査や散髪などとともに被服類一式が貸与される。
 当然のことながら、陸海空自衛隊と防衛大学校など所属によって被服類の種類は異なる。一例として、陸上自衛官の新隊員に貸与される被服類は、常装用着用品として、冬服(上下)2着、第1種夏服(上下)1着、第2種・第3種夏服(上衣)各2着、正帽1個、ネクタイ1本、ベルト1本、短靴1足、外套1着、雨衣1着、階級章3組などと、加えて作業服装用着用品として、作業服(上下)2着、半長靴2足、作業帽2個などである。さらに、所属する部隊や勤務の配置、勤務地によって、基本的な種類以外の、例えば戦闘服装用の着用品や装備品一式などが貸与される。
 被服類には、貸与されるもの(制服などの着用品)と支給されるもの(下着や靴下など)があり、自衛官の場合、幹部と曹士とに分けて、その品目や数量および貸与・支給方法が定められている。なお、被服類は、他の物品と同様に防衛庁の定めた規格(品質・仕様)があり、これに基づいてメーカーや業者が製造し、調達される。
 このように被服類は、国から借りているもので、退職するときには返納(返却)しなければならない。制服については、程度の良いものはリサイクルして再利用される。予備として自費で購入したものはその対象にならないが、制服の一部であるき章類なども返納することになっている。

着用の基準
 自衛官服装規則によって「自衛官は常時制服等を着用しなければならない」とされ、「通常、常装とするものとする」と定められているが、実際には、制服を着用するのは、主として勤務時と、自衛隊の施設(駐屯地や基地の庁舎や隊舎などと、艦船を含む)の中にいるときである。規則には「制服等を着用しないことができる」場合として、施設内でも勤務時以外、自衛隊の施設の外にいるとき、特別な勤務(一例では募集業務など)のため、部外での仕事に従事するときなどが定められている。
 警察官は交番勤務のように、ふだんから一般社会との接点が多いことから、その制服姿を目にするのに対し、制服姿の自衛官を街中で見ることはほとんどない。これは、自衛官の通常の勤務が自衛隊の施設内が多いことと、また、曹士は原則として「営内居住」といって、駐屯地や基地、艦船の中で居住することになっており、これらの隊員は外出時には私服が許可され、幹部自衛官など「営外」に居住する者も通勤時は私服が許可されている場合もあるからだ。
 このような事情から、一般の人々がマスメディアなどを通じて見る自衛官の姿というと、災害派遣や国際貢献などの任務において活動中の作業服や戦闘服の姿が多くなるというわけである。
 そのほかの基本的な着用基準としては、夏期(6月1日〜9月30日)、冬期(10月1日〜翌年5月31日)で、夏服、冬服の着用期間(ただし、地域などによってこの期間の開始と終了を変更できる)が設けられていること、武装している場合を除き、室内(屋内の訓練場、格納庫、艦船の内部などは除く)では脱帽することなどが定められている。また、一般の部外者の感覚からすれば意外なことかもしれないが、制服および作業服装など各種服装のときは雨でも傘がさせない(雨天や降雪時には、許可と必要に応じて雨衣や外套を着用)ことも着用時の決まりのひとつである。
 このような服制に関する規則・細則の条項は、陸海空自衛隊合わせて百項目以上にもおよぶ。それだけ制服の使用や着用基準は、自衛隊の規律と統制を維持する上でもっとも基礎的な事柄のひとつになっている証左といえよう。

本書について
●自衛隊の服制に関するさまざまな規則には、前述したように「制服」「服装」「着用品」などの用語が使われている。これらの用語は規則上、定義されているものもあるが、本書では読者の理解を容易にするために、用語は規則の条文とは異なる場合もある。
●自衛官の制服は、自衛隊発足(昭和29年)以来、数回の改正を経ている。そして現在も、細部において服装の種類や着用品などが新設されたり、変更あるいは廃止される場合があり、服制に関する規則もそれに伴い改正されるが、本書に収録のデータや記述、写真は、平成18(2006)年4月現在の規則を基準としている。
●各種服装の基本的な着用品に加え、それに附帯して装着する装具類(一例では化学防護衣、航空服装の航空ヘルメットや救命胴衣など)があり、これらの中には規則上、服装の着用品としてではなく、武器やその他の器材などと同じ装備品に区分されているものもあるが、本書では個人が着用して使用するものであることから、これらも服装の一部として収録している。また、一部の種類の服装(体育服装など)については、その着用品には市販品や汎用品が使用されていることから、写真による紹介を省略しているものがある。編著者略歴

内藤 修(ないとう・おさむ)
昭和35(1960)年東京都生まれ。広告制作会社勤務、雑誌編集者などを経てフリー記者。軍事や防衛分野の取材活動を続け、専門誌や一般誌に記事などを多数発表。
花井健朗(はない・たけお)
昭和34(1959)年愛知県生まれ。帝京大学法学部卒業。写真専門学校などを経てフリーカメラマン。軍事や航空の分野を中心に取材・撮影活動を続け、写真や記事を専門誌のほか、一般誌などに多数発表。