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目 次
序章 歩兵が陸軍の主兵力になるまで
騎兵対歩兵の戦い/革新的だった銃の出現/歩兵戦術の変化
第1章 歩兵教練と個人装備
入営/兵舎/徒手、執銃T/執銃U/銃剣術/小銃T/小銃U/小銃V/分隊の散開/軍刀T(下士官用)/軍刀U(将校用)/軍刀術/拳銃/救急法T/救急法U(患者搬送)/対毒ガス法/行軍と警戒/露営/手榴弾T/手榴弾U/対戦車兵器/将校用馬装

第2章 歩兵科兵器
擲弾筒T/擲弾筒U/7糎打上阻塞弾/11年式軽機関銃/96式軽機関銃/99式軽機関銃/軽機の射撃姿勢/92式重機関銃T/92式重機関銃U/野戦築城/97式20ミリ自動砲T/97式20ミリ自動砲U/98式20ミリ高射機関砲/94式37粍砲T(速射砲)/94式37粍砲U/92式歩兵砲T(大隊砲)/92式歩兵砲U/41式75ミリ山砲T(聨隊砲)/41式75ミリ山砲U/通信/満期除隊

第3章 陸軍の組織と編制
陸軍の編制/聯隊/大隊・中隊/分隊/歩兵聯隊の編制/旅団・師団・軍

第4章 陸軍軍人とは
将校・下士官・兵/進 級/将校への道/軍人の服務について/兵役制度/召集/兵科・兵種・各部

第5章 建軍から西南戦争 陸軍史1
統一国軍の成立/大村益次郎の軍制改革/親兵設置/「徴兵令」の制定/鎮台の設置/士族の反乱/西南戦争/参謀本部の誕生/帷幄上奏権/参謀本部の任務/外征軍隊の建設/清国との対立/陸軍大学校の開校/参謀本部の変遷

第6章 日清戦争 陸軍史2
戦闘の経過/宣戦布告/清国軍の敗退/山県の独断/日清戦争講和/軍備拡張/北清事変

第7章 日露戦争 陸軍史3
開戦戦略/日露開戦/遼陽の会戦/沙河の会戦/旅順の戦い/第三軍の人事/第一次・第二次総攻撃/二〇三高地/冬季攻勢/奉天会戦

第8章 軍縮時代 陸軍史4
日露戦後の陸軍/日本軍兵士の弱点/新たな仮想敵国/第一次世界大戦/シベリア出兵/軍縮と陸軍/不況と軍縮

第9章 日中戦争 陸軍史5
張作霖爆殺事件/満州事変/満州国と国連脱退/派閥抗争/二・二六事件/日中全面戦争への道/盧溝橋事件/支那事変/上海、そして南京

第10章 ノモンハン事件 陸軍史6
対ソ戦備計画/張鼓峰事件/ノモンハン事件/無視された戦訓/第二次大戦勃発/関特演

第11章 アジア太平洋戦争 陸軍史7
開戦戦略
[南方第一段作戦]マレー作戦/フィリピン作戦/蘭印作戦
[連合国軍の反攻]作戦最終線の設定/ガダルカナル/海上補給の弱点/ニューギニア/第八方面軍
[アジア戦争]インパール作戦/師団長解任/中国戦線/大陸打通作戦
[最後の戦闘]マリアナ失陥/孤立させられた島/マリアナ沖海戦/フィリピンの激戦/硫黄島・沖縄戦/敗戦


あとがき
                                     中西立太
『図解 日本陸軍歩兵』のご購読ありがとうございます。
 第二次大戦の航空機や艦艇、戦車に関する書籍は数多く出版されていますが、軍の基幹兵種である「歩兵」について解説したものは、あまり多くありません。
 それは「歩兵」が人間主体で、もっとも生々しく戦争を感じさせる兵種であることと、リアリズム絵画を否定する日本の美術教育のため、日本のイラストレーターが人間を描けないという現実があるからでしょう。
 戦争は「嫌い」「触れたくない」という心情は十分に理解できますが、平和を望むのであれば、戦争というものを、感傷を排して理性的に考えてみることが必要です。相手も平和を望んでいると思うのは勝手ですが、核戦争を予告する国もある現実を忘れてはなりません。
 もともと兵器は、一つ一つが独立して使用されるものではなく、集団で使用されるものです。それらの兵器を理解するには、火器集団としての編制や運用、さらには他兵種・他兵器との連動方法などを知らなければ、その兵器を全体的に理解したとはいえません。
 今まで、日本の歩兵兵器についての本はいくつか出ていますが、こういった視点から捉えたものは少なく、その点でも本書の価値は十分にあると信じています。
 先の第二次大戦のような敗北は、戦争のやり方としては最低で、膨大な戦費と人員の死傷、社会資産の消滅をもたらします。勝たなければ元も子もないのが戦争ですが、その勝利の最終局面にあるのは、歩兵という基幹兵種による相手国の制圧です。
 そのため、歩兵という兵種は、その国がどんな形で戦争を行ないたいのかという、国家戦略そのものを象徴しているのです。
 戦争を理解するためには、戦艦大和や零戦などの補助兵器ばかりを見るのではなく、歩兵という兵種をキチンと研究することが大切です。
 最も理性的でクールな学問といわれる、軍事学への第一ステップとして、この本が役立つことを望んでいます。あとがき
                             田中正人
 一〇年近くの期間をおいてではありますが、かつて『図解 日本陸軍[歩兵篇]』として出版された本書を、幸いにも再び世に問う機会が与えられることになりました。読者の皆様には篤く御礼申し上げます。ただ、今回の再刊にあたりましては、私の担当分については最少限の字句の手直しにとどまるものとなりました。前回の刊行後、貴重なご意見を多数いただきましたものの、それらのすべてにお応えできなかったことについては申し訳なく、別に機会があればと考えております。
 さて、前回の「あとがき」で、
「日本を戦争に引きずり込んだ元凶として、また万事にスマートで開明的、合理的であった海軍に対し、時代遅れと頑固・頑迷の典型としてみられがちな日本陸軍ですが、そうした陸軍のあり方は実は当時の日本の置かれた国際情勢を如実に反映したものであったこと、言い換えれば日本陸軍の弱点は当時の日本の民度、いや日本という国そのものの弱点であったことをこの小著では述べようとしたつもりです」
と書きました。この意図はそれからいささかの時間を経た現在でも、変わってはいません。言いかえれば、歴史を好悪の感情で見ること、また、明治以来の日本の国策の破綻を、特定の人物や集団の「狂気」に責任づけようとすること、これらを厳に慎んだ叙述をと心懸けてきたつもりです。統帥権は決して魔法の、または万能の杖ではなく、指導者たちが正気を失っていたわけでもない。ならば、なぜ歴史はあのような展開をたどったのか、その問いかけが本書の出発点であるといえます。そして、歴史叙述の中に本書なりの考えを示しておきましたが、それが受け入れられるか否か。前回同様、謙虚に読者の皆様のご比判・ご叱正を待ちたいと思います。
 なお、「序章」については、前回とは多少趣を変え、歩兵と騎兵の関係について、近代以前の日本についての若干の言及を加えました。軍事史研究ではすでに常識となっている、前近代と近代をシームレスにつなぐ戦術観・武器観を意識したものです。
 巻末に若干の参考文献(公刊戦史と基本史料集以外は比較的閲覧しやすいものに限定しました)を挙げましたが、本書ができ上がるまでにはこのほかにも多数の資料にお世話になりました。本書の性格上、本文叙述の一々についてその出典を明示することはできませんでしたが、巻末のこの場を借りまして諸先学の業績に感謝の意を示しますとともに、史料の価値判断、事実関係の認定・評価など本書の叙述の一切の責任は最終的には筆者個人の歴史観によるものであって、参考文献・史料にあるものではないことを明言しておきます。
 最後になりましたが、再刊の手直しが大幅に遅れましてご迷惑をおかけしました中西立太先生、本書の企画時からお世話になりました高貫布士氏・林譲治氏、地図と図版を作成いただきました神北恵太氏および並木書房出版部ほかの皆さまの忍耐・御寛恕と、本書完成までのご指導とお骨折りに改めて篤く御礼申し上げます。
  
中西立太(なかにし・りった)
1934年3月18日、長野県上田市で昭和初期の童画家・中西義男の長男として生まれ、父に絵を学ぶ。1955年、小学館の学習月刊誌でイラストレーションを描き始め、その後、各月刊誌や図鑑などで、口絵や挿し絵を描く。1962年、小学館科学図説シリーズ『人類の誕生』で第9回サンケイ児童出版文化賞受賞(岩崎ちひろ・松谷みよ子両氏も同年受賞)。1975年『ドイツ機甲軍団』(立風書房)を小林源文と共同執筆。1981年、週刊朝日百科『日本の歴史』で古代から近代までの各種復元画を描く。1988年、学研ピクトリアルシリーズで『江戸城と大奥』他、世界文化社ビッグマンスペシャルで『武田信玄』、1991年、大日本絵画で『日本の軍装』を発表。2001年の『日本の軍装―幕末から日露戦争―』は映画「ラストサムライ」の参考資料となる。2005年、月刊誌「アーマーモデリング」に3年連載した『日本甲冑史』が2006年末に単行本化の予定。

田中正人(たなか・まさと)
1963年兵庫県伊丹市生まれ。陸上自衛隊方面総監部、師団司令部、普通科連隊駐屯地などのある同地で育つ。専門は日本中世文学。『太平記』に関する研究で修士号を得る。軍記物に関する研究論文、資料紹介、口頭報告などいずれも数点ずつあり。軍事に対する関心は10代の頃からだがまったくの独学で、まとまったものとしては本書が最初のものとなる。現在、「文民の眼から見た軍事史」を編みたいという希望を持っており、またそれに関連して軍制、軍隊教育(とくに精神教育)、軍民関係とその周辺について勉強中。