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 1939年秋、ヒトラーがポーランドに侵攻した時、首都ワルシャワには数十万のユダヤ人が取り残され、超正統派ユダヤ教の指導者ヨセフ・シェネールソン師も、そのひとりでした。世界中に散らばる信徒たちが心配しましたが、その動静はつかめず、生死は不明。そこで在米ユダヤ人のあるグループが合衆国政府の高官に働きかけ、救出作戦がスタートします。
 これまでシュネールソン師のワルシャワ脱出は、ほとんど知られず、今回初めて、歴史学者ブライアン・マーク・リッグがその事実を明らかにしました。しかも、この救出作戦にはアメリカの政府職員とドイツの軍諜報機関の協力があったことが判明しました。
 戦争の混乱のなかで、軍律厳しいドイツ兵で編成された小さなグループが、この宗教指導者を捜索して、ついに身柄を確保し、疑惑の目で見るナチから守りつつ、一緒に首都ベルリン経由での脱出となります。
 この救出作戦のさなか、シュネールソン師は、作戦指揮官の出自について、驚くべき事実を知ることになります。数々の勲功に輝くドイツ国防軍将校エルンスト・ブロッホ少佐は、ユダヤ人の血が半分混じった軍人であり、ドイツの反ユダヤ主義の犠牲者でもありました。
 第二次世界大戦では、さまざまな救出劇が展開しましたが、そのなかでも本書で明らかにされたシュネールソン師の脱出は、民族のアイデンティティと道義的責任のからんだ、最も不思議で奇跡的な救出といえます。


目次
序 異色の救出劇(ポーラ・E・ハイマン) 2
プロローグ  14
第一章 ドイツの侵攻  15
第二章 ルバビッチ派とそのレッベ  31
第三章 ドイツ占領下のポーランド  52
第四章 浮上した救出計画  73
第五章 ナチコネクション  84
第六章 ブロッホの秘密任務  92
第七章 捜索開始  104
第八章 ワシントン工作  113
第九章 レッベ発見  131
第十章 脱出ルート  134
第十一章 ワルシャワ脱出  141
第十二章 リガ待機  150
第十三章 波濤を越えて  169
第十四章 アメリカで吠える  174
第十五章 救助者たちの運命  210
終章 救えたはずの多くの命  221
著者あとがき  237
脚 注  242
参考資料  249

訳者解説  262ブライアン・マーク・リッグ(Bryan Mark Rigg)
1971年生まれ。オンライン大学のアメリカンミリタリーユニバーシティ(ドイツ軍史)およびサザンメソジスト大学の歴史学教官。キリスト教原理主義運動の活発な所謂テキサスバイブルベルトで生れ育ち、エール大学卒業後ケンブリッジ大学で博士号(ヨーロッパ問題)取得。元海兵隊将校。前作『ヒトラーのユダヤ系兵士』はウイリアム・E・コルビー軍事作家協会賞を受け、執筆用に蒐集した膨大な資料は、ドイツのフライブルクにある連邦/軍公文書館にリッグコレクションとして保管されている。

滝川義人(たきがわ・よしと)
長崎県出身。早稲田大学卒業。ユダヤ、中東軍事紛争の研究者。主要著書に『ユダヤ解読のキーワード』、『ユダヤを知る事典』、『ユダヤ社会のしくみ』。訳書にヘルツォーグ著『図解中東戦争』、米軍公刊戦史『湾岸戦争』、オローリン編『地政学事典』、ヴィストリヒ編『ナチス時代ドイツ人名事典』、『イスラエル式テロ対処マニュアル』(並木書房)など多数。