元米軍大尉が教える!!軍隊式英会話術
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元米陸軍大尉が教える!![軍隊式英会話術]
   
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【軍隊式英会話術】 vol.12

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◆【軍隊式英会話術】 vol.12
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恋は英語で!(1)                            Takashi Kato
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12時間目 恋は英語で!(1)


「アメリカはindividualismの国だ」
これを直訳すると「個人主義の国」(Country of Selfishness)とか「自己中心の国」
(Country of Self-centeredness)、悪くすると「利己主義の国」(Country of Egoism)に
なってしまいます。

こういう場合は「個人の独立を重んじる国」(Country that Values Personal Independence)
とか「個性を尊重する国」(Country that Respects Individuality)と意訳したほうが原語の
意味に近くなります。

一時代前、日本では「滅私(めっし)」を奨励し、全体の和を個人より重んじていました。このよ
うな文化背景では、 individualism という言葉に、原語がもつ健全かつ建設的な意味合いを求め
ることはできません。
文化を省みず、逐語訳に陥ると単語レベルでさえ誤解を生むという好例でしょう。

日常風景のなかでも、日米文化の対比には事欠きません。

たとえば日本では、他人に入られたくない場合は「立入禁止」と言いますが、これは英語にすれば
Entrance Prohibited の意味で、明らかに禁じる立場、すなわち権威側からの表現です。

英語ではEnter At Your Own Risk(危険を覚悟で入れ)になり、読む側の判断に重きをおいてい
ることが分かります。これなら何があっても入るほうの責任です。

やや極端ですが、土地柄によっては入り口に All Guns Are Loaded (銃には弾薬が装てんしてあ
る)という注意書きをかかげる牧場もあるぐらいです。

いずれにせよ「お上」を絶対視してきた平民気質 (Commoner Mentality)と、生命財産は自分
で守るしかなかった開拓者精神(Pioneer Spirit)の対比が鮮やかで、なるほどと思います。

このように、日本人とアメリカ人では思考回路(Way of Thinking)が違います。したがって、
言葉だけ覚えたのでは相互理解に至らない場合が間々あります。

DLI(アメリカ国防省外国語学校)の卒業生のなかにも、日本語が流暢なのに、いやむしろ流暢
であるがゆえに誤解を引き起こしてしまう者をときおり見かけます。

彼らと話していると、英語表現を文法に従って日本語に置き換えただけであることに気づくのです。
たとえば英語では日常会話でも会議の席でも I can't agree with you on that という表現をよ
く使います。

意見を主張しないと無能だと思われるアメリカ社会では、誰でもごく自然に口にする言い回しで
「わたしの意見はちょっと違うんだけど」くらいの意味です。

しかしこれを直訳して「その点では賛成できません」とやってしまうと日本人の耳には不協和音に
聞こえるでしょう。角(かど)を立てないこと、白黒はっきりつけすぎないこと、曖昧(あいまい)
さを残し、相手を追い詰めないことが日本社会の通念であり美徳だからですね。

同様に You are wrong も「あなたは間違っています」では摩擦が起きてしまいます。日本の礼節
を理解し「ご意見は分かりますが、その点ではちょっと…」くらい言えなくてはプロの語学兵は務
まりません。

テレビの外人タレントなら無礼やぶっきらぼうもご愛嬌でしょうが、日米友好の要(かなめ)とな
るDLI卒業生となるとそうはいきません。

英語を学ぶ日本人にとっては、まさにこの逆が当てはまります。英語で話すときは、意識して直線
的(Straight)に考えたほうが良いのです。

国際社会の舞台で「先日の件はよろしくお願いします」とか「例の件では善処させていただきたい
と考えております」をそのまま英語にしたら、相手はこちらがわざと曖昧にしていると勘ぐるでし
ょう。

DLIでの教授職でも同様です。

たとえば勉強不足の学生、とくに中佐以上の高級将校や曹長クラスのベテラン下士官を相手にカウ
ンセリングする場合、軍歴や年功を考慮するあまり、当たり障りのないことを言っていると信頼を
失います。

言うべきことは言う(Call a spade a spade)が基本です。
大佐(陸軍、空軍、海兵隊ではcolonel。海軍なら captain)が相手なら

 Colonel/Captain, with all due respect to your rank, you need to review words more
  often
 (大佐殿、失礼ながら、もっと単語の復習が必要です)

で良いのです。

階級の代わりに、男性士官なら sir、女性士官なら ma'amと呼びかけてもかまいません。
車でやってきたパーティで上司や知人に酒をすすめられたとします。日本だとあまり直裁(ちょく
さい)に断ると「俺の酒が飲めないのか…」ということにもなりかねません。だから注がれるまま
につい飲んでしまう。

しかし英語なら

 Thank you for the offer. But I had enough. I am driving, you know
 (ありがとうございます。でももう充分いただきました。運転してきたもんですから)

という中学生の英語でことが足ります。

最後の you know が日本語の「〜もんですから」にあたり、相手の理解を求める際の決め手です。
相手もこちらの率直さを尊重するから無理強いはしません。

贈り物を渡す際も過分な控えめさは忘れ 

 This is something nice from Japan. I want you to have it.
 (これ、日本からのちょっと素敵なものなんだけど、もらってくれない)

が良いですね。

手料理や自家製のケーキをすすめる場合も同じで「お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞ」
や「お口汚しに召し上がってください」のようなへりくだった言い回しは英語になりません。

 This is what I made. I want you to try it
 (わたしが作ったんですけど、食べてみてください)で誠意が充分通じます。

料理の腕に自信があるなら、

 I am sure you would like it
 (きっとお気に召すと思います)と付け加えてください。

直裁で適度な自信(self confidence)を表現することは、英語社会で生きていくうえに必要不可
欠なのです。

中学生の英語だと軽く見てはいけません。使い方しだいでかなりのことが言えるのです。

話は変わりますが、日本語学部には日本人女性を妻にもつ学生も多くいます。伴侶(はんりょ)が
日本語を話せばさぞ上達も早いだろうと思いがちですが、実はそうでもありません。

配偶者とならプライベートな日本語、つまり睦言(むつごと)(pillow talk)でも感覚として意
思が通じてしまうので、仕事で要求される高度な日本語への希求がなくなってしまうようです。

「醤油をとってくれない」(Would you pass me soy source?)というべきところを、ものをあ
ごで示して「それ」ですませてしまうようなもので、言ってみれば伴侶の間の「阿吽(あうん)の
呼吸」(tacit understanding)の副作用(side effect)ですね。

しかし、最小限の基礎がすでにでき上がっている場合なら、外国語で恋を語ることには大きなメリ
ットもあるのです。

思いのたけを相手に伝えたい。自分のことを分かってもらいたい。そういう情熱があれば、どのよ
うな努力もできるものです。

退屈な語彙の暗記や苦しい文法の勉強も辛いとは感じなくなるから不思議です。

好意が伝わったときの歓喜と高揚は、身も心も燃え上がる激しさです。先生がくれる「A」の比で
はありません。

恋は英語(Let's fall in love in English)で、と信じる所以です。

次の授業に進む。


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