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編者のことば

 竹内 宏

 携帯電話の普及にともない、若者の行動パターンが変わってきました。彼らは、友人と待ち合わせる場合、時間や場所をアバウトに決めておき、約束の時間が近づくと、携帯電話で連絡し合い、時間と場所を特定するのです。あらじめ約束の時間と場所をはっきり決めておくと、その日の行動が約束に拘束されて不便になるというのがその理由です。まず、アバウトに決めておいて、約束にあまり拘束されずに自由に行動し、次第に約束の内容を携帯電話でやりとりしながら具体化していきます。
 若者たちは、携帯電話を使って絶えずEメールを交換しています。電車の中でもEメールに夢中になっている人が少なくありません。もし、携帯電話にトラブルが発生したら大変です。彼らは社会生活が送れなくなる。そんな時の予備として、携帯電話を二つ持ち歩いている若者すらいます。約束はアバウトに、携帯電話はしっかりしておくのが、今の若者の流儀です。
 クレジットカード会社のユーシーカードが独身社会人男女500人に「携帯電話がなかったら何が変わるか?」と質問したところ、半数強(54.2%)の人が「電話代を節約できる」と答えています。通信費が負担になっている若者事情が垣間見える数字です。それほど携帯電話に依存した生活をしているということでしょうか。つぎに4人に1人(20.4%)が「友人との仲が切れる」と回答。とくに20〜22歳では34.2%にのぼります。以下「静かになる」「仕事ができない」「恋愛ができない」と続き、携帯電話がコミュニケーションの重要な手段になっていることがわかります。
 携帯電話を必要とするのは大人ばかりではありません。第一生命のシンクタンク「ライフデザイン研究所」が小学5、6年生と中学生を対象に実施した調査によると、「自分の携帯電話を持っている」のは小学生で3%、中学生で16%とそれほど多くないものの、「家族のものを借りて使うことがある」が小学生で26%、中学生で32%。つまり小学高学年の3割、中学生の5割が携帯電話を使っていることになります。
 子どもたちに「自分だけの携帯電話をほしいか」と聞いたところ、60%の子が「ほしい」と答え、女子では70%を超えています。その理由として「いつでも電話をかけられると便利」(42%)、「いざという時に助けを呼べる」(24%)、「持っているとオシャレだから」(19%)などか上位を占めています。 
 一方、「子どもが携帯電話を持つと親に隠れてすることが増える」と心配している親も6割弱にのぼります。子どもに携帯電話を与える最大の理由は、外出時や夜道などの安全を確保したいためですが、与える前に家庭内での電話利用のルールを決めることも大切でしょう。
 インターネットのリサーチ会社「マクロミル・ドット・コム」が全国のiモード利用者に「出会い系サイトの利用実態」を調査したところ、20〜40歳の男女の3人に1人が出会い系サイトを利用したことがあり、このうち15%がトラブルに巻き込まれたり、迷惑メールで不快な思いをしているという結果が出ています。出会い系サイトを使う理由は、42%が「なんとなく興味があったから」と回答。次いで「メル友が欲しかった」(32%)、「恋人が欲しかった」(13%)が続きます。実際利用した人のうち「メル友ができた」という人が73%。「実際に会って遊ぶ異性友達ができた」人も24.7%いて、利用の目的に対してそれなりの成果を得ているようです。
 最近相次ぐ出会い系サイト絡みの事件については、「自分が巻き込まれるかもしれない」(24.7%)、「自分には関係ないが恐い」(65.2%)と、利用者の9割が恐怖感を持っているものの、その反面、7割強の人が「自分には無関係である」と感じており、今後も出会い系サイトの人気は続くことが予想されます。
 ビジネスの面でも携帯電話とメールは重要なコミュニケーションの道具として使われています。消費者金融のGEコンシュ−マ−・クレジットが東京、大阪の会社員440人に実施した調査によると、携帯電話メールでメールのやり取りをしたことがある人は66%。1日の平均送受信件数は仕事での受信が2.3件、同送信1.8件。プライベートは受信3.6件、送信3.4件となっています。通話料金は基本料金を除き月平均6330円。ビジネスマンの平均小遣い金額の約1割に当たることを考えれば、かなり厳しい出費といえます。

 IT(情報技術)は目覚ましい勢いで進歩しており、今後パソコンを利用する人が増えれば増えるほど、日本経済は効率的になるにちがいありません。インターネットで航空機やホテルの予約をし、旅行先の天気予報や乗り物の時刻を調べる人が増えています。インターネットで本やCDなどを買うのも当たり前になってきました。
 インターネットやEメ−ルが普及すると、生活情報が豊富になり、また専門的な知識が深まり、さらに友人関係の輪が広がります。その上、商品やサービスのコストが低下します。日本でもインターネットやEメールに慣れなければ、満足に仕事ができない職種が急速に増えてきました。またインターネットを通じて求人する会社も多くなっています。
 私たちの働き方も、パソコンの発達とともに変わってきました。在宅勤務が増え、仕事のやりくりの都合に合わせて、家で仕事をしたり、会社に出勤したりするようになってきました。出勤形態をあらかじめ決めずに、その時の都合によって自由に変えていきます。その方が仕事の能率が上がります。
 私たちは、今まで、どんな事態にも適用できるような、しっかりした正確なシステムをつくることに努力してきました。その結果、安定したシステムができあがりました。ところが、IT革命によって時代が急速に変化するとともに、そういう考え方が次第に通用しなくなってきたのです。ずっと変わらないシステムをつくるのは無理であり、いつでも変えられるシステムをつくることが重要になってきたのです。
 コンピューター・ソフト産業は、日本経済の発展をリードする重要産業ですが、最近の高品質なソフトウェアとは、必ずしもプログラムがしっかりし、正確である必要はないそうです。それよりも、コンピューターのハードや基本ソフトが急速に進歩するので、そうした進歩に合わせて変えられるソフトが好まれているといいます。あらかじめ決められた複雑な作業を正確にこなすものではなく、時間の経過とともに変化しても、それにうまく対応できるものが喜ばれるようになってきたのです。
 携帯電話の普及によって若者の行動が変わってきたように、「正確な時代」から「ファジーな時代」に変わりつつあります。この変化に対応したシステムづくりが重要になってきといえるでしょう。

 今年1月、私は『とげぬき地蔵経済学―購買意欲を刺激するシニアの心の掴み方―』(メディアファクトリー)という本を出版しました。この本は、「おばあちゃんの原宿」の名で知られる「巣鴨地蔵通り商店街」の成功の秘密を、アンケート調査しながら、店を1軒1軒実地調査してまとめたものです。この商店街は、最初からシニアを狙って街づくりをしたわけではありません。それにもかかわらずシニアが集まるようになりました。その要因をひとつひとつ分析すれば、シニアが求めているサービスや商品の開発にも応用できるはずです。
 とげぬき地蔵の来客アンケートによれば、月1回以上来る人が70%。しかも、1人で来る人が半分弱(47%)ということが分かりました。1回に使う金額は、3千円〜6千円が48%、1万円以上が33%と続きます。
 今後、高齢者の数が増大し、個人商品の中で大きなウエイトを占めるようになります。彼らが満足な消費生活を送ることができれば、それだけ生きがいも増すでしょう。今まで、高齢者の消費傾向にはほとんど関心が払われてきませんでした。しかし、年配者の数が激増し、その消費が国民経済全体の消費動向に影響を与えるようになると、年配者の行動は重要になってきます。
 本書をまとめていくうちに、「おばあちゃんの原宿」が年配者をひきつけている要素が、「宗教色の薄い現世利益」、「秩序ある雑踏」、「店員と対話ができる」、「懐かしさの演出」「コミュニティー作り」などにあることが分かってきました。年配者をマーケットと考えている企業家の参考になれば幸いです。

 本書に収められたアンケート調査結果は、どれも身近なテーマを取り上げています。企画や商品開発などに役立つものもあれば、情報のデータベースとして活用できるものもあります。まさに現代人の生の声が収録された情報の宝庫です。
 本書『アンケート調査年鑑』は、おかげさまで多くの読者の方々の支持をいただき、14巻になりました。いつものことですが、本書を編集するに当たって、アンケート調査を実施された企業、研究機関、団体から貴重なデータを提供していただきました。心からお礼を申し上げます。


アンケート調査年鑑 2001年版・目次

編者のことば

1 ビジネスマン・OL…………………1

新世代コミュニケーション白書2001(ユーシーカード)  3
ビジネスマンの週間時間簿(シチズン時計)  13
社会人にとっての「ケータイ」(GEコンシューマー・クレジット)21
ビジネスマンと会社の依存関係(リクルート)  31
ビジネスマンのIT感度(リクルート)  39
ビジネスマンの「オシャレ」意識調査(鐘紡)  47
朝ごはんに関するアンケート(朝ごはん実行委員会)  59
OLの「仕事」白書(リクルート)  67
OLの「コミュニケーション」白書(リクルート)  75
現代OL「健康」アンケート(住友生命保険)  85
デジタル時代のコミュニケーションスタイル(産業能率大学)  97
新入社員の会社生活調査(産業能率大学)  105
ワークスタイルの多様化と生活設計(生命保険文化センター)  113
中高年層の就労に関する意識調査(パソナ)  127
勤労者の仕事と暮らしについて(連合総合生活開発研究所)  133
事業再編下の最新転勤事情を探る(労務行政研究所)  165


2 ヤング・学生………………………………169

高校生の「大人観」調査(リクルート)  171
新入生親子に聞く「キレる」現代少年期をすぎて(東京経済大学) 187
「恋愛」に関する調査(阪急ファイブ/ナビオ阪急)  201
新・大学生の生活観(東洋大学)  213
私立大学新入生の家計負担調査(東京私大教連)  223
20代独身男女のコミュニケーション実態(オーエムエムジー)  237
新成人の恋愛・結婚意識調査(オーエムエムジー)  249
「部屋探しに関するアンケート」調査(アットホーム)  259


3 女性・主婦……………………………………285

20世紀を代表する女性(住友生命保険)  287
現代女性の結婚式に対する意識(第一生命/ライフデザイン研究所) 293
女性の老化・加齢に関する意識調査(長瀬産業)  307
マチュア女性の意識に関する共同調査(資生堂/ワコール)  323
女性の体型の悩み(ポーラ文化研究所)  333
アンケートにみる顔の美醜観(ポーラ文化研究所)  345
若い女性の「骨と健康」調査(雪印乳業健康生活研究所)  357
料理の腕前と健康への気遣い(第一生命/ライフデザイン研究所)  365
20代独身女性朝食事情調査(朝ごはん実行委員会)  375
「女性のお酒の飲み方」に関する調査(キリンビール)  383
現代女性の便秘事情(ベターホーム協会)  389

4 男性・父親………………………………………393

家での主人の居場所(三井ホーム)  395
「お父さん」をイメージする漢字一文字(住友生命保険)  405
20代・30代独身サラリーマンの恋愛・結婚・子供願望意識調査
                  (オーエムエムジー)  411
30代男性の結婚意識と生活に関する調査報告(日本青年館結婚相談所)423
子供のいる30代・40代既婚男性の子育て意識調査(オーエムエムジー)433
お父さんの手料理アンケート(日清製粉)  443
お父さんのスポーツアンケート(ダイワ精工)  449


5 夫婦・家庭………………………………………457

結婚トレンド調査2000(リクルート)  459
現代お見合い写真考(コニカ)  473
30・40代離婚経験女性の結婚・恋愛意識調査(オーエムエムジー)481
もらってうれしい出産祝い(バンダイ)  491
家族共通の話題は何ですか?(バンダイ)  495
子どもが生まれて夫婦関係が変わりましたか(森永乳業)  501
小学生の親子関係(ベネッセコーポレーション)  507
「お母さんの聖域」調査(ニチバン)  511
暮らし向き実感調査(川崎信用金庫)  517
「旅行のイメージ」アンケート(日本旅行業協会)  531
「夫の健康管理」に関する調査(ヤクルト)  535
家族といて一番楽しいときは(住友林業)  543
50代以上の生活者(エルダー世代)調査(博報堂)  553
介護意識アンケート(住友生命保険)  561
高齢者の快適なデイリー・ライフの調査研究(日本チャリティ協会)571


6 子ども ………………………………………………581
小中学生対象「日常生活」意識調査
       (ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)  583
「よく親から叱られたセリフ」アンケート
           (GEコンシューマー・クレジット)  587
お子様の好きな遊びは何ですか?(バンダイ)  593
1か月に購入するおもちゃの数と金額は?(バンダイ)  599
トレーディングカードゲーム研究(バンダイキャラクター研究所)605
現代の小中学生の携帯電話利用(第一生命/ライフデザイン研究所)613
将来就きたい職業、就いて欲しい職業(クラレ)  627
「21世紀予測」意識調査(ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)633
電話やコンピュータ等の利用状況(くもん子ども研究所)  641
「子どもと食べ物」アンケート調査(JA全農)  647
小学生に聞く「親とのかかわりかた」(全国珠算教育連盟)  667
「自然や田舎」との接し方(農林中央金庫)  685
中学2年生の親子アンケート(東洋大学)  695
学校ってどんなところ?(ベネッセコーポレーション)  701
心のケースワーカーとしての養護教諭(ベネッセコーポレーション)705


7 マネー・財テク…………………………709

「新2千円札」の実感(GEコンシューマー・クレジット)  711
子どもの教育費(東海銀行)  719
初月給の使い途(三井ホーム)  747
OLの「お金」白書2001(リクルート)  753
21世紀「お金白書」(リクルート)  763
消費に関するアンケート調査(第一生命/ライフデザイン研究所)  769
ネット証券の利用に関する調査(マイボイスコム)  785


8 レジャー・ニューメディア…791

「出会い系サイト」の実態調査結果(マクロミル・ドット・コム)793
現代家庭の情報化(クラレ)  803
インターネット時代の生涯学習に関する意識調査(産業能率大学)819
IT(情報技術)コミュニケーション(三菱電機エンジニアリング)825
インターネット利用に関する調査(中央調査社)  835
「3連休と国内旅行」アンケート調査(日本旅行業協会)  843
「現代人のスポーツ環境」調査(ピープル)  847
現代ペット写真事情(コニカ)  855
「TV」に関する調査(阪急ファイブ/ナビオ阪急)  861
2001年ガーデニングレポート(サントリー)  875


9 生活全般…………………………………………883

20世紀「感動のスポーツ名場面」アンケート(住友生命保険)  885
21世紀に残したい日本の遊び(GEコンシューマー・クレジット)891
時間のイメージ2001(セイコー)  897
写真撮影のときにかける声は?(コニカ)  911
現代人の「癒し」行動について(ブライトンホテルズ)  917
キャラクターに癒しを求める現代人(バンダイキャラクター研究所)923
わが家の収納(タイガー魔法瓶)  935
新世紀お正月3が日の家計調査(三和銀行)  947
もらってうれしい日本のお土産(JTB)  957
家電リサイクル法の施行に関する調査(マイボイスコム)  961
食品の安全性に関する意向調査(農林漁業金融公庫)  965
使い切れずに捨てたもの(ベターホーム協会)  971
「トイレ」に関する調査(阪急ファイブ/ナビオ阪急)  977
風邪対策(手づくり自然食友の会)  989
生活改善薬に関するアンケート(第一生命/ライフデザイン研究所) 993
脳の健康に関する調査(日本ベーリンガーインゲルハイム)  1005
口臭と舌苔対策(ライオン)  1021
「新世紀の食事」に関するアンケート調査(ミツカン)  1027
主婦の火災への意識と備え(日産火災海上保険)  1035

その他のアンケート……………………………1045

テーマ別索引……………………………………………1083

総索引 ………………………………………………………… 1101


竹内 宏(たけうち・ひろし)
1930年静岡県清水市生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。同行専務取締役調査部長を経て1989年より長銀総合研究所理事長。現在、竹内経済工房代表。雑誌、テレビ、講演会で幅広い人気をもつエコノミスト。著書は『路地裏の経済学』(新潮社)、『竹内宏選集』(NTT出版)、『父が子に語る昭和経済史』(PHP出版)、『「せぬがよき」文化の黄昏』(東洋経済新報社)、『静岡産業風土記』(静岡新聞社)、『次郎長の経済学』(東洋経済新報社)『これが「IT革命」だ!』(学生社)、『とげぬき地蔵経済学』(メディアファクトリー)『日本人の生活意識調査情報事典(編者)』(並木書房)など多数。