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編者のことば(竹内宏)

 IT(インフォメーション・テクノロジー、情報技術)の目ざましい進歩とともに、経済活動や日常生活が急激に変わりつつあります。人びとは憑かれたように新技術商品に飛びつき、個人と企業間、あるいは企業どうしの商取引に、どんどんインターネットが使われだしました。まさに、現在はIT革命の始まりの時期といえるでしょう。
 ソニーは2000年3月にプレイステーション2をインターネットで予約販売しました。その人気が高かったので、申し込みが殺到し、インターネットの容量を越え、アクセスが不可能になるほどでした。
 ソニーは、この成功を足がかりに、こんごソニーの家電製品をインターネット販売する計画だと言います。家電製品はカサが大きいので、小売り店の店舗は大型になり、流通コストがかかります。これをインターネット販売にすれば、小売り店がいらなくなり、流通コストは非常に低下します。そのうえ、ソニーは顧客リストを手に入れ、顧客を囲い込み、いろいろな商品情報を与えて、それらをインターネット販売できます。
 こうした「中抜き」の方法によって、コストを引き下げ、売り上げを伸ばそうという動きは、さまざまな産業で見られています。
 たとえば、自動車メーカーは自動車の販売や部品調達のインターネット化に力を注いでいます。自動車をインターネット販売すれば顧客が自由に色や装備品を選択できます。それらは発注後、生産されるので、流通在庫が不要になります。部品は世界中の部品メーカーから情報をとり、もっとも安く提案したメーカーに発注されます。こうして、顧客の好みの自動車が、安い価格で販売されます。

 ソニーが発売したプレイステーション2は、インターネットを通じて、ゲーム、音楽、映画、買い物などを楽しみ、さらに株式の売買や銀行取り引きにも利用できます。それは、将来、家庭内の家電をコントロールするIT基地になるでしょう。
 また、携帯電話は若者の生活必需品になりました。はじめは友だちとおしゃべりする一種のおもちゃにすぎませんでしたが、いまやインターネットにつながり、メール、ホームショッピング、ホームバンキングなどの端末機器として使えるようになってきました。

 この『アンケート調査年鑑2000年版』を見ても、例年以上に、携帯電話などの通信機器の利用状況をテーマにしたものや、パソコンやインターネット利用に関するアンケート調査が多く目につきます。
 東洋大学が2000年4月に発表した『新・大学生の生活感』によると、「大学生活を送るうえで必要な品物は何か」という設問に対して、「携帯電話89.3%、パソコン82.1%、テレビ62.5%」が上位となり、情報機器が独占しています。とくに5年前は、設問の選択項目にもなかった「携帯電話」が、今や学生の約9割の支持率をしめています。現代の大学生の3種の神器は「携帯電話・パソコン・テレビ」と言えるでしょう。
 また、現代の若者がこうしたさまざまな通信機器を、相手によって使い分けていることが、ライフデザイン研究所の『青年層の通信メディア利用と友人関係』の調査でわかります。仲のよい友だちには携帯電話、それほど親しくない相手には家族と共用の加入電話で、あまり連絡をとりたくない相手には郵便や電子メールを利用している傾向が見て取れます。
 現在、インターネットを利用したオンラインショッピングが大きなビジネスチャンスをもたらすものとして期待されています。産能大学が2000年2月に発表した『インターネットショッピングに関する実態調査』によると、体験者の94%がほぼ満足している結果が出ています。そのメリットとして「遠隔地や海外の製品が手に入るが30.3%、買い物にかかる時間が軽減できるが26.6%、近所の店で手に入らないものが買えるが23.4%」で上位をしめています。逆にデメリットとして「セキリュティ面の不安が45.3%、送料などのトータルコストが高いが26.8%」となっています。インターネットショッピングの今後については、「急速に拡大するが32.4%、徐々に広がっていくが58.6%」で、9割以上の人が増加すると答えています。この調査は、インターネットに接続できる環境にある人を対象にしたものだけに、こうした結果は予想の範囲内ですが、オンラインショッピングに対する満足度はかなり高いと言えます。
 若者たちの通信機器の所有と利用の実態から見ても、こんごはインターネットを利用したオンラインショッピングの需要はますます増加することはまず間違いないと思われます。

 こうした一般の生活から企業に至る幅広いレベルでのIT革命の熱気が広がると、IT関連産業が注目され、日本でも、アメリカと同じように、IT関連産業の株価が驚異的な値上がりをはじめました。日本経済は長期間の景気低迷に苦しみ、そのなかで発生した過剰貯蓄が、現在、IT関連産業の株式投資に向かっています。IT関連の企業は、株価が上昇したので、増資によって膨大な資金を獲得し、それを設備投資に向け、日本経済に浮揚力を与えています。
 また、いろいろな産業で、IT化のための大規模な設備投資を開始しました。
 企業がIT化するためには、情報機器・通信機器・コンテンツの作成など莫大な投資が必要です。最近、民間設備投資が増大傾向をしめし、景気に明るさが生まれてきましたが、それは、主として、IT化投資の拡大によるものです。大企業は、リストラが進み、収益力が向上したので、本格的なIT化投資を開始しました。この動きは長期間つづきそうです。
 これに対して、IT化に乗り遅れたり、国際的な競争に負けたりした産業では、多くの企業が消滅し、大量な失業者が生まれてきます。彼らは、おいそれとIT関連の技術者になれるわけではありません。日本の産業のなかで、大きなウエートをしめている古いタイプの産業では、労働力過剰がつづき、賃金水準を引き下げる力が働きます。
 現在、景気の浮揚力が強まらないのは、個人消費が弱いからです。携帯電話やプレイステーション2などのIT機器が、消費を刺激するでしょうが、IT化が与えつつある産業構造の変化によって、失業が増えるので、個人消費は当分のあいだ低迷するでしょう。

 こうした通信機器やインターネットに関するアンケート調査以外に、この『2000年版』では、ミレニアム(千年紀)や21世紀をテーマにしたものも多く目につきました。また、家庭内暴力や少年犯罪の増加にともない家族や親子のあり方を問いなおしたアンケート調査もあります。2000年4月にスタートした公的介護保険制度により、「介護」や「高齢者の生活」をテーマにしたアンケート調査が多いのも今年の大きな特徴です。
 民間企業が発表するアンケート結果は、基本的には広報活動の一環であり、各メディアに紹介されることが、その目的のひとつです。必然的に、取り上げるテーマはタイムリーなものとなります。その意味で、本年鑑に収録された各種アンケート結果は、「今の日本人をありのままを映す鏡」と言えるかもしれません。
 本書に収められたアンケート結果は、身近なテーマが多いだけに、どれも刺激的で役に立つ情報ばかりです。企画や商品開発など、直接、仕事に役立つものもあれば、情報のデータベースとして活用できるものもあります。
 アンケート調査というのは、その目的や対象などが明確にされていて、伝聞などとは違い、生の声が伝わる情報の宝庫です。
 本年鑑を利用される読者の要望もあり、この『2000年版』より、判型をひと回り小さくし、全1巻としました。より使いやすくなった『アンケート調査年鑑』を手元に置いて大いに活用していただければ、編者としてこれに勝る喜びはありません。

 本書『アンケート調査年鑑』は、おかげさまで多くの読者の方々の支持をいただき、13巻になりました。いつものことですが、本書を編集するに当たって、アンケート調査を実施された企業、研究機関、団体から貴重なデータを提供していただきました。心からお礼を申し上げます。


目  次

編者のことば

1 ビジネスマン・OL……………………………1

2000年アンケートの結果(レイク)  3
四半世紀比較でみるビジネスマン・OLの生活時間調査(シチズン時計)  11
日本企業のIT経営意識調査(日本総合研究所 創発戦略センター)  23
ビジネスマンのブランド観(リクルート)  33
OLの「変わりたい!」白書(リクルート)  41
OLの「ランキング」白書(リクルート)  49
女性社員の仕事観(三菱電機エンジニアリング)  57
「現代人の健康美意識」調査(ピープル)  63
「お酒のマナーに関する」調査(キリンビール)  71
現代ユニフォーム考(クラレ)  79
労働者のキャリア形成に関する調査研究(ライフデザイン研究所)  91
管理職層の就労に関するアンケート調査(パソナリサーチ室)  103
「21世紀に躍進する企業」アンケート(U.S.エデュケーション・ネットワーク) 111
「環境問題」意識アンケート(住友生命保険)  117
「21世紀へ残したいもの」(タイガー魔法瓶)  125

2 ヤング・学生……………………………………………137

高校生の社会観と進路観に関する調査(リクルート)  139
高校生の職業イメージに関する調査(リクルート)  153
日本・米国・中国の「中学生・高校生の日常生活に関する調査」
                      (日本青少年研究会)  173
大学受験の「現在」(ベネッセコーポレーション)  197
新・大学生の生活感(東洋大学)  201
「いじめ」発生のメカニズムに関する研究(ライフデザイン研究所)  211
女子大生にみる化粧観(ポーラ文化研究所)  219
西暦2000年新成人の恋愛・結婚意識調査(オーエムエムジー)  225
社会人になったら気を付けたいこと(日本ケロッグ)  235
新入社員のビジネスファッション感覚調査(産能大学)  239
2000年度新入社員意識調査(社会経済生産性本部)  247
2000年ミレニアム・フレッシャーズ「新入社員の心意気」(住友生命保険) 253
理想の男性上司と理想の女性上司(産業能率大学)  263

3 女性・主婦…………………………………………………271

20代・30代独身OLの恋愛・結婚・子供願望調査(オーエムエムジー)  273
「避妊」と「ピル」に関する意識と実態(ヤンセン協和)  281
現代のOLの「健康アンケート」(住友生命保険)  319
OLの「結婚」白書(リクルート)  331
バレンタインデー意識調査(ユーハイム)  339
20代OL、喫煙者と非喫煙者に聞いた「歯の美しさ」(ライオン)  345
OLの栄養補助食品・健康食品に関する摂取頻度実態調査結果(長瀬産業) 353
OLに聞く「和食」ライフ(農林中央金庫)  365
女性に聞く「平成交遊録」(タイガー魔法瓶)  375
宝塚ファンの「皮革ファッション」アンケート調査(クラレ)  389
リサイクル商品、リサイクルショップに関する女性消費者調査(ウエイブ) 399
家事育児と女性の就業支援に関する調査・分析(ライフデザイン研究所)  403
20代〜50代既婚女性の結婚意識調査(オーエムエムジー)  413

4 男性・父親…………………………………………………425

20代〜50代既婚男性の結婚意識調査(オーエムエムジー)  427
中高年男性のコンビニエンスストアー利用に関する調査(ライフデザイン研究所) 437
60歳からの男性・料理と家事の実態と意識(ベターホーム)  447
現代ビジネスマン「元気に老いる」アンケート(住友生命保険)  457
人生80年時代のライフデザイン(電機連合総合研究センター)  467

5 夫婦・家庭…………………………………………………473

赤ちゃんが生まれてから変わったこと(富国生命保険)  475
お子様の名付け親と名前の付け方は?(バンダイ)  487
新米ママの妊娠・出産・育児に関する意識調査(持田製薬)  493
子育て仲間はどこでみつけましたか(森永乳業)  501
結婚トレンド調査99(リクルート)  507
「新居に関する希望」アンケート調査(アットホーム)  521
新・家庭内ケンカ考(象印マホービン)  527
「わが家の無駄遣い」に関するアンケート調査(東京生命保険)  553
母親と子供のコミュニケーション・ギャップ(全国珠算教育連盟)  561
「夫婦の危機管理意識に関する調査」報告(明治生命保険)  571
ミドル世代の交友関係(サントリー不易流行研究所)  583
首都圏・関西圏中高年者の健康意識に関する調査(山田養蜂場)  599
シニアマーケット展望・21世紀の消費をリードする「ハイパーシニア」(電通)  609
国民「介護」意識調査・介護アンケート(住友生命保険)  623
介護保険料の負担についての意識調査(ライフデザイン研究所)  633
21世紀に向けてのライフデザイン(上)(ライフデザイン研究所)  645
21世紀に向けてのライフデザイン(下)(ライフデザイン研究所)  657

6 子ども ……………………………………………………………671

お子様は、誰と、どんな理由でケンカをしますか?(バンダイ)  673
お子様の好きなキャラクターは何ですか?(バンダイ)  677
こどもの「お風呂」に関するアンケート(千代田生命保険)  683
こどもアンケート「元気」(住友生命保険)  689
「子供部屋」に関する結果報告(穴吹工務店)  697
「子どもは変わったか」(ベネッセ)  703
「学級の荒れ」をどうとらえるか(ベネッセ)  707
小・中学生における道徳教育に関する調査研究(ライフデザイン研究所)  711
今どきの子どもたちの生活習慣・態度(くもん子ども研究所)  717
「環境」意識調査(ブルーシー・アンド・グリーンランド財団)  733
「子どもと食べ物」アンケート調査(JA全農)  739
続・現代っ子の喜ぶ「お弁当」に関するアンケート調査(ミツカン)  745

7 マネー・財テク………………………………………753

全国10代の子どもたち「おこづかいと金銭感覚」(くもん子ども研究所)  755
2000年ビジネスマンの小遣い(レイク)  761
OLの「お金」白書(リクルート)  771
独身OL500人に聞いた「マネー事情」(レイク)  779
新入社員の初月給の使い途(三井ホーム)  789
地域振興券の使いみちについて(川崎信用金庫)  793
家計と子育て費用調査(野村證券)  803
20代から50代の男女「貯蓄に関する意識調査」(東海銀行)  813
年末年始の「お金の使い方」(三菱電機エンジニアリング)  821
オンラインショッピングのコンビニ決済に関する調査(マイボイスコム)  825

8 趣味・レジャー・通信 ……………………831

「20世紀最後の思い出を創る旅の企画」アンケート(日本旅行業協会)  833
添乗員がおすすめする「海外旅行有効時間活用法」(JTB)  843
社会人たちの「夏休みの過ごし方」調査(三和銀行)  849
プレイステーション2の購入について(マイボイスコム)  863
無料メールマガジンの講読に関する調査(マイボイスコム)  869
私が生涯を通じて学習したいこと(ベルリッツ・ジャパン)  875
青年層の通信メディア利用と友人関係(ライフデザイン研究所)  881
iモード・ユーザー調査結果(情報通信総合研究所)  889
インターネットショッピングに関する実態調査(産能大学)  897
インターネットショッピングとセキュリティ意識に関する調査研究
                    (ライフデザイン研究所)  905
中高年世代の写真事情(コニカ)  919


9 生活全般………………………………………………………925

2000年1月1日午前0時を迎えたのは、誰とどこで?(シチズン時計)  927
千年紀記念発行2000円札に関するアンケート(オリックス・クレジット) 931
コンピュータの西暦2000年問題に、こう対応しました
                  (三菱電機エンジニアリング)  939
元気を与えてくれる人(住友生命保険)  943
「傷つきました。この一言」アンケート結果(東京生命保険)  949
ダイエットと健康管理についての意識(ライフデザイン研究所)  955
「あなたは靴を買い換える派?修理する派?」アンケート(ミニット・ジャパン) 969
耐久財に関する主婦調査(東芝)  974
ストレスに関する主婦調査(東芝)  975
主婦の自由時間と家事時間に関する調査(東芝)  976
「食べ物」に関する調査(阪急ファイブ/ナビオ阪急)  977
清潔に関する家事行動の変化(ライオン)  989
年賀状に関するアンケート(パイロット)  995
発泡酒とワインに関する飲用実態アンケート(サッポロビール)  1009
「アジア料理」に関するアンケート(ミツカン)  1021
時間の過ごし方20〜21世紀(セイコー)  1029

その他のアンケート…………………………………………1043

テーマ別索引…………………………………………………………1081

総索引 ……………………………………………………………………… 1097


竹内 宏(たけうち・ひろし)
1930年静岡県清水市生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。同行専務取締役調査部長を経て1989年より長銀総合研究所理事長。現在、竹内経済工房代表。雑誌、テレビ、講演会で幅広い人気をもつエコノミスト。著書は『路地裏の経済学』(新潮社)、『竹内宏選集』(NTT出版)、『父が子に語る昭和経済史』(PHP出版)、『「せぬがよき」文化の黄昏』(東洋経済新報社)、『静岡産業風土記』(静岡新聞社)、『次郎長の経済学』(東洋経済新報社)『これが「IT革命」だ!』(学生社)、『日本人の生活意識調査情報事典(編者)』(並木書房)など多数。